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「超加工食品」が日本へ到来してくる!?

「超加工商品」ってなに?


 最近、欧米の食品業界では「超加工食品」がいかに健康へ悪い影響を与えているかのエビデンスが増加しており、避難が集まっています。ところで、日本人に馴染みのない「超加工食品」って何のことでしょう?

「超加工食品(Ultra-processed food and drink products)」とは「糖分や塩分、脂肪を多く含む加工済みの食品。硬化油・添加糖・香味料・乳化剤・保存料など添加物を加え、工業的な過程を経て作られ、常温で保存できたり、日持ちを良くしてある食品」のことです(米国糖尿病学会(ADAより)。

ブラジル・サンパウロ大学公衆衛生学部の研究者らが考案した「NOVA分類」があり、加工の度合いで食品を4グループに分ける手法があります。

グループ1|未加工あるいは最低限加工した食品
植物の種子、果実、葉、茎、根、動物の肉、卵、水など。これらに乾燥、ボイル、冷蔵、冷凍、真空パックなどの加工をしたもの。
例)野菜、果物、穀物、肉や魚の切り身、卵、乳

グループ2|加工した料理素材
圧縮、精製、製粉などの加工で作られたもの。自宅やレストランのキッチンで、グループ1を用いて調理する際に使う食材。
例)精製塩、植物油、バター

グループ3|加工食品
グループ1にグループ2を加えて作る比較的単純な食品。
例)缶や瓶詰めの野菜、果物、豆類、味付けナッツ、チーズ、燻製肉

グループ4|超加工食品
5種類以上の素材を含み、工業的に加工されたもの。加工食品に用いられる素材に加えて、超加工食品にしか使われない素材を含む。
例)ファストフード、インスタント食品、冷凍食品、清涼飲料水、菓子パン・総菜パン、ピザ、ホットドック、ケーキ・クッキー・パイ、ドーナツ・マフィン、チキンナゲット、スナック菓子、アイスクリーム

 超加工食品は、栄養価が低く、高カロリーで、塩分、糖分、脂肪も多いため、高血圧・糖尿病・肥満などの慢性疾患へのリスクを上昇させます。しかし、保存性や利便性があって比較的価格も安いため、ここ20年間で超加工食品の消費量は増えています。実際に欧米は日本を含むアジアよりも加工食品を利用することが多く、アメリカ人は消費カロリーの50%を占めていると言われており、超加工食品から健康への影響を大きく受けています。

超加工食品って体に悪いの?

 超加工食品自体の栄養価が悪いので、確かに控えた方がよさそうなことはよくわかりました。それでは超加工食品と非加工食品で栄養価を全く同じ食事を準備した場合はどうなるのでしょうか?
 アメリカ政府が実際に行った2週間の臨床試験から、超加工食品の方が満腹感が得られず、508カロリーも食べ過ぎ、平均で900g体重が増加したそうです。超加工食品は空腹ホルモンのレベルが上がり、満腹ホルモンが下がってしまったようです。

 つまり、ジャンクフードを食べると、満腹感が得られにくいので、ついつい余計かなカロリーを摂取してしまうようです。確かにファーストフードのセットはカロリーが高いわりに食べ終わっても腹8分目だったり、宅配ピザを1枚全部食べれてしまったりするんですよね。

 動物性食品を含む超加工食品を食べ過ぎると、腸内細菌叢が変化して腸内環境が悪くなり、体内の炎症が増加し、大腸がんの発症リスクを上昇させる一因となるそうです。もともとソーセージ・ベーコン・ハムなどの加工肉が大腸がんを増加させることがわかっていたので、同じことを言っているのでしょう。

ブラジルで1万人以上の中年成人を対象に行われ、1日のカロリーの20%以上を超加工食品から摂取すると、10年の間に認知機能が低下するリスクが高まるとの結果も明らかになってきています。

 日本では、欧米の加工食品を利用した食生活とは異なり、家庭で料理する食事が中心のため、欧米よりも超加工食品の影響は受けにくいため、今まで注目されることはありませんでした。
 ただし、日本の食生活は和食中心から欧米化し、高齢化や共働きの増加によって、加工食品からの摂取がどんどん増えていくので、今後は超加工食品への注目も上がってくる可能性は高いと思います。

農林水産省「我が国の食料消費の将来推計(2019年版)について」

超加工食品は環境にも悪い

 加工度が高いということは製造工程でエネルギーは大量に必要となり、製造工程が多いことで廃棄物は発生しやすくなります。また水や土壌のような資源が生産地と消費地が遠く離れることで、資源の偏りが発生しています。超加工食品は大量生産する製品が多いため、資材調達や販売先までの輸送距離は長くなり、フードマイレージも大きくなります。
 また、超加工食品は保存性が効くことによって地産地消の必要性がなくなり、製造の一極集中を招き、規模の経済性が効くことから大量生産で製造することで地域が偏ったフードシステムを構築していったとも言えます。そのおかげでフードシステムはグローバルで結びつき、ウクライナ侵攻や米中貿易戦争のような局所的な問題によって、世界のフードシステムが大きなダメージを受け、地域性のある食文化や農業が消えてしまっていくことで、レジリエンスがない非常に脆いフードシステムに陥ってしまってます。
食料自給率が低い日本は、グローバルなフードシステムの恩恵を一番受けており、問題が発生したときに世界の中でも大きな影響を受けてしまう国となってしまっています。それなのに、今の日本では地産地消やスローフードを盛り上げていく意識は薄く、日本の食の地域性はどんどん壊されていってしまっています。

超加工食品を鵜吞みにしない

 加工度が高い=健康に悪いというのはわかりやすいですが、加工度が高くても栄養価が高い製品は有り、さすがに歪曲している部分もなるのでは?と疑問もあると思います。

今まで取り上げてきた論文にも下記のような問題点が潜んでいるようです。
 1.超加工食品の分類が恣意的
 2.インターネット調査は参加者にバイアスがかかっている可能性が高い
 3.食事が自己申告
 4.超加工食品の摂取を重量で比較している
 5.参加者が真実を申告しているかどうか確認していない
 6.教育レベルや経済力などの要因をどの程度調整しているかわからない

食事による大規模調査は検体者の選定、質問内容、比較対象が少しでも異なると、大きく結果が異なってくるため、恣意的に少し結果を変えることができてしまいます。

 確かにヨーロッパ人は自然、ナチュラル、オーガニックが大好きなので、日本人とは価値観が異なります。日本ではレトルト食品、カップラーメン、カニカマなどの加工食品が発明されたように、食事を新たな形へ作り直す、新規食品を創り出す能力があり、一概にすべての加工食品の栄養価が悪いわけではないと思います。

まとめ

 超加工食品は体に悪いだけでなく、環境にも悪く、消費量は抑制していていかないといけませんが、加工食品比率がそこまで高くない日本では、海外の流行りに惑わされずに、冷静な選択をしていく必要があると思います。加工食品の利便性、保存性、低価格はとても魅力であり、現代人によって賢く利用できる食品の一つと言えます。

 加工食品の栄養を評価するために、欧州ではNutri-Scoreという5段階評価による包装全面表示の義務化されようとしています。脂肪、砂糖、ナトリウム、たんぱく質、食物繊維などの含有量で評価されますが、オリーブオイルや乳製品のように一部不利となる業界からは反対を受けていますが、製品への導入は進んでいます。

Nutri-Scoreの表示

 さらにはNutri-Scoreだけでなく、超加工食品だけを狙い撃ちしたNOVA評価ができる携帯アプリも生まれており、日本とは温度感がまったく異なります(リンク:Open Food Facts - World)。

Open Food Factsの画面


 環境、地産地消、食文化を考慮すると考えると、人類は未加工食品へ少し戻ってバランスをとる必要性もあると考えるため、日本でも「超加工食品」という認識を今後は広げていかないといけないと思います。