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予測不可能な世界だけど

 1990年8月、1年半のロシア留学を終えて、休学中の大学に戻った私を待ち受けていたのは、ゴルバチョフ大統領が押し進めるペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)政策の下、ロシアとの交流が政府間でも地方レベルでも急速に拡大している日本でした。

 交流の現場では、通訳者が不足して猫の手も借りたい。猫よろしく駆り出されて通訳の仕事に追われた私は、就職活動をする間もなく大学を卒業、1991年4月、成り行きでフリーのロシア語通訳翻訳者になったのでした。

 あれから33年。

 まさか、その年の末にソ連が崩壊し、その22年後にはロシアが(ソ連崩壊までは同じ国だった)ウクライナに侵攻、今のように日露関係が停滞するとは、当然のことながら、その時は思いもせず。

 そして、AIが目まぐるしい進歩を遂げ、人間の通訳翻訳者に取って代わるようになることも、もちろん知らず。

 うーん、本当に世界は予測不可能です。

 今後、ロシアはどうなるのか?

 ウクライナ侵攻はいつどのような形で終わるのか? 

 日露関係はどうなるのか?

 そもそも、「通訳翻訳者」という職業は、AIに駆逐されて世の中から消えるのか? 恐竜やカセットテープみたいに? それとも、首脳会談などハイレベルの通訳者だけが、絶滅危惧種として生きながらえるのか?

 それら諸々の想定外の疑問が、日々、脳内をめぐるようになった時、今後どうなるにせよ、ロシアやロシア語、通訳や翻訳という仕事について、書いてみようと思ったのです。

 私のこの文章が、かつてあった「ロシア語通訳者」という職業の貴重な歴史資料に...なることは、まずないでしょう。でも、ロシアという国について、かつてはソビエト社会主義共和国連邦という一つの国の構成国どうしだった、ウクライナを含む14の旧ソ連諸国について、通訳や翻訳という、普段は人の目に触れない黒子的な仕事について、この文章を通して、少しでも興味を持って理解していただけたら嬉しいです。

 今、ロシアは、隣国ウクライナに侵略したことで欧米や日本などから非難され、孤立しています。ですが、今の全体主義的なロシアは、決して一枚岩ではありません。国内外に、現政権の政策に反対して民主的な社会を作ろうとしている多くの人たちがいます。その人たちの声も、ここで、できるだけ届けていければと思います。この戦争が一日も早く終わり、ロシアが民主的な国になり、ウクライナが戦後復興を果たして、時間はかかっても両国関係が正常化していきますように。

 というわけで、「超楽天的ロシア語通訳者の日常と非日常」、はじまりです。

(写真はモスクワ アルバート街の古書店)

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