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チープなアメコミ要素が排除されて上質なスパイ映画に【キングスマン:ファーストエージェント】

今まで触れてこなかったキングスマンシリーズだがアマプラに追加されたので初めて見た。

007も好きなおじさんには1作目から全くウケている意味が分からなかったが、シリーズを追うごとにその理由が分かってきた。

あらすじ
ロンドンにある高級スーツ店キングスマン。その実体は、どの国にも属さない最強スパイ集団のアジトだった。そんな中、チームの一員が殺害されて新人をスカウトすることになったエリートスパイの男は、元エージェントの父を持つ街の不良少年に声をかける。

ゴールデンサークルの二作目までを追うごとにめちゃくちゃアメコミみたいな映画だなと思ったが、調べたら原作はアメコミだったらしく納得した。

日本や韓国、アメリカでも結構一作目からウケていたようだが自分のような重厚感のあるスパイ映画が好きな人には受け入れられない要素はあるので普段見る趣向で別れる作品なんだろうと思う。

政府から独立した諜報機関として表向きは世界一のスーツ屋として裏ではアジトとして構えていたり、極わずかな繋がりの民間の若者から新たに諜報員を訓練して継承していく話も同時に進行していく設定自体は今までにないことをしようとしていて良かったのだが

武器が改良されてびっくり道具として戦っていたり、007を明らかに意識したパロディ要素が多かったりかなりエンタメに振った世界観は個人的にはスパイ映画としては安っぽい。

アクションも斬新な演出にウケているようだったがコリンファースの立ち振る舞いがよかっただけにも思う。

この辺のアメコミにありがちな特殊な異能力を武器やチップに置き換えたり、映画というジャンル自体をメタ的にした話の構成をスパイ映画に置き換えたらこうなるという感じが最初の2作品に感じた。

原作がアメコミであるという視点で見ると若干見方も変わるのだろう。


大体アメコミに共通するストーリーの構成は二つだと言われる。

一つはある異能力を持つ特別な人間として生きながらも市民としても偽装生活をしながら乖離する二面性を強いられること。二つ目はヒーローとして人助けをしながらも一般には理解されず後々批判され乖離した生活に苦しんでいくこと。

これらの共通の法則を見るとスパイという職業にフォーカスを充てたのは確かに人間的な側面を多く持ちながら二面性と言う上で相性もよく、それを苦悩として起伏をつけやすいテーマに感じる。

ただ最初の二作品にチープさを拭いきれなかったのはエンタメに振ったアクションにストーリーにもスパイとしてのパーソナルな二面性に苦悩する姿が見えなかったからである。

キングスマンの主人公は一線で活動するハリーだけでなく次世代を継承する若いエグジーを据え、貧困街の不良から訓練試験で唯一諜報員としてのし上がっていくスパイ成長物語を一作目から組み込んだ。

訓練から過程として見るのは面白いのだがエグジーの成長を描く修行ストーリーとしてはどこか過程がぶっ飛んでいて、気づけばハリーをもしのぐ強さを持っていたりする。

またキングスマンでは2作目に向けて敵だけでなく重要な仲間も序盤から平気で退場していく。

正直制作側の大人の事情の方が垣間見えてしまうのだが、この辺でも元々民間の少年でしかなかったエグジーの苦悩もあまり見られず飄々と任務をこなそうとしていく。

1作目でエグジーの底から始まったバックボーンを見せた割には2作目でいつの間にか完璧な諜報員として生きていて、そこまでの成長過程がすっ飛ばされていて戸惑うのである。

007のダニエルグレイグでさえ時折対立していた仲間が死んでからは他国に逃げて酒浸りになるぐらいであったのに。

なにかエンタメ的なヒーローイズムと裏切りの要素だけつまんで、ストーリーの枠組みにしては薄い話で終わってるのが目立ったのがゴールデンサークルまでの二作品だったという正直な感想だった。


前日譚の三作目からまさかの「重厚な」スパイ映画に

「スパイエージェント」は第二次世界大戦を舞台に史実を踏襲したキングスマン創設までの前日譚シリーズへと早くも舵が切られる。

あらすじ
第一次世界大戦を舞台に世界初の独立諜報機関キングスマンの心躍る誕生秘話を描く「キングスマン:ファースト・エージェント」。史上最悪の暴君や犯罪者が結集し、数百万の命を奪い去る戦争を企てる中、彼らを阻止すべく一人の男が時間と戦いながら奔走する。

ここで前日譚という時代設定を全て利用してまさかのおふざけ、パロディ一切なしの重厚スパイ映画へと舵が切られてて驚く。

前作までのファンには評価が落ちたようだがやはり国内や映画ファンにはそこまで評判が良くなかったのだろうとも思えた。

2作目まで追いかけるとこれはキングスマンでやる必要があるのかも疑問には思ったがめちゃくちゃ面白かった。

アクションもカメラワークやCGのかけかたはシリーズ中上手かったのでそこに改造秘密道具も排除して真面目に振るとかなり良さが際立ってくる。

おそらく前日譚も原作にはないから完全オリジナルに振り切ったのだろうがこれが良かったのかもしれない。

史実に基づいてラスプーチンを敵として登場させてたが不気味な演出の仕方も上手かったしシリーズでも一番印象に残る。

またアーサーと息子における戦争社会における母国愛と諜報員という規模の大きな二面性の乖離に目覚めていく過程や悲劇を描いたのもより話の起伏を強めて面白さも増した。

初めからこういうのでよかったのに。おそらく元のキングスマンシリーズとは別にこれはこの時間軸と設定でシリーズを作っていくのだろうと思う。

量産型に入ったから今後はあまり期待はしないで見るがまさかの前日譚の方がいい味を出している稀な例を見てしまった。












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