(16)第5部:職場におけるストレス環境:ストレスをもたらす職場の環境因子

前回は職場の環境が個々人に与えるストレスの背景について解説を加えた。

近年ますます増加しているようにみえる職場における精神的不調をかかえる労働者の問題は、本質的には個人の問題か職場環境の問題かという二者択一の問題ではなく、労働者とそれを雇う企業という職場環境の関係性の問題であり、社会の変化によって必然的に引き起こされるものであるといって過言ではないだろう。

このような状況で、その対策という点で西欧に大きく遅れを取っている本邦においても企業の成績の相対的な低下により否応無しに職場におけるメンタルヘルスに向き合う必要を余儀なくされており、働き方改革など主に制度的な側面から改善を図りたいという意思自体は見えてきている。

ただ、多くの労働者が感じているであろうように、現場の職場環境としては当事者にそのような全体を見渡す知識があるわけでもなく、また変化自体に抵抗を感じる人間の本来の性質のせいもあり、そのような制度的な介入も”法律で必要だから”仕方なく手続き上行っているのが大部分であり、それに主体的に取り組むことが労働者本人の状態や職場の生産性の改善に繋がると考えているところは少ないのではないかと考えている。

職場における精神社会的リスクという発想は欧州では近年盛んに提唱されており、各国のレベルのみならずEU全体のレベルでも様々な調査や取り組みが行われており、その報告書なども数多く出ている。

そこでは労働者と企業を対立する存在として扱おうとするのではなく、個人と組織という二つの存在を職場環境の改善という介入において如何に協力的かつ双方にとってメリットがもたらされるように改善できるかというところに重点が置かれている。

今回はその中で、職場環境が労働者に対してどのようにストレスを引き起こすのか、という個別の要素について解説を加えたい。今回のこの燃え尽き症候群のシリーズでは職場における精神的負荷を与える因子を解説するに留めそれをどう改善していくべきかという問題には触れないが、燃え尽き症候群に苦しむ当事者が自分の職場はどのような環境にあるのか、それに対して個人としてどう対処すべきなのか、場合によってはそこから去る必要があるのか、などの判断に役に立てばと考えている。


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