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フェルさん

とうとうこのリリースを見る日が来てしまった。

遅かれ早かれこの日は来ると思っていたので、このリリースにも特段の驚きはないが、しかしながら、フェルナンジーニョがガイナーレ鳥取で現役を辞める、というのは、やはり感慨深い。

なお、以下文中では敢えて「フェルさん」と呼ばせていただくことをご了承願いたい。

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フェルさんの鳥取加入の挨拶があったのは、2014年6月22日の藤枝MYFC戦@チュウブYAJINスタジアムのハーフタイムでのこと。

そこから遡ることおよそ10年。ガンバ大阪に、決して大柄ではないブラジリアンがやってきて、卓越したテクニックと人懐っこい性格で、人気を得た。それがフェルさんだ。

彼はただ、一つところに落ち着けない選手でもあったようだ。ガンバ大阪こそ2004年~2006年にいたが、以後、清水エスパルス(2007年~2008年6月)、京都サンガ(2008年6月~2008年いっぱい)、大分トリニータ(2009年7月~2009年いっぱい)、ベガルタ仙台(2010年)、その後、母国のモジミリンを経てヴァンフォーレ甲府(2012年7月~2012年いっぱい)に在籍して、再び母国に戻った後、例の「野人と漁師のツートッププロジェクト」により得た資金(だけかどうかは知らないが)で、鳥取にやってきた。

それが2014年6月のこと。

正直、まさかフェルさんが鳥取如きに来るとは思わなかったし、来てもどうせ1季程度しかいないだろうな、と思っていた。確かに良い選手だが、何しろお高いイメージ(本人の性格が、ではなく、彼の年俸が、という意味)があったので、鳥取にそれが賄えんのか?という気もしていた。

だが、2014年途中からやってきた彼は、その翌年も翌々年も在籍した。結局のところ、2017年1月のリリースで、彼は母国のフェホヴィアリアへと移籍したことが明らかになった。当初はこのチームで現役を終える腹づもりだったようだ。

ところが、その年の暮れのこと。

なんと、フェルさんは戻ってきてしまった。何がフェルさんをそうさせたのかは、フェルさん本人でないとわからない。たぶん、余人には窺い知れない思いがあっての鳥取復帰だったであろうことは容易に想像がつく。

2018年、再び鳥取の選手になったフェルさんには、今までとは一味違うミッションが課せられた。若い連中を導くという役目だ。

同じシーズンにレオナルドとヴィートルガブリエルという二人の若者が鳥取の選手となった。

レオナルドに関してはもはや説明不要だろう。J3の得点王になった彼は、翌年移籍したアルビレックス新潟でもJ2得点王に輝き、次に移籍した浦和レッズに於いてもJ1の得点王レースに名乗りを挙げようとしている。

ヴィートルガブリエルは活躍度という点ではレオナルドほどではなかったものの、翌年も在籍したので、相応に期待されていたと思う。

こうした選手たちを生かす役割も担った。レオナルドも大ブレイクしたが、その一方でフェルさんも大きく活躍した。

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フェルさん、自分と大して身長変わらん(自分は162cm程度、フェルさんは161cmらしい)のだけど、あの身体のどこにあんなに動ける源泉があるんだろう、と時々不思議になる。ま、君とは鍛え方が違うと言われるとそれまでなのだが・・・。
とりあえず、見てて思うのは、この人って実は結構マッチョなんだよな、ということ。
うちの若い子たちが少々可哀想に思えるほど、胸板分厚そうだものね。フェルさんの裸見たことないから知らんけど、さぞ逞しい身体なんだろうなって思っちゃう。
たぶんそれだけの身体を維持するには、相当な努力があっただろうし、彼自身の意思も相当なものがあったはずだろうなって思う。きっとそれだけのことをしてきたんですよ、フェルさんって人は。

2018年シーズンにあわや二桁ゴールを奪えるかってとこまで言ったんだけども、実際それを本当にやっても不思議でないシーズンだった。あのシーズンのフェルさんは、まさにキレキレだった。背番号10をこのシーズンだけ加藤潤也(現ザスパクサツ群馬)が着けてたけど、フェルさんが10番を着けるべきだろうって思ってしまった(断っておくが、加藤が着けたこと自体は異論は無いし尊重もする。単純に個人的な印象の問題に過ぎない)。

このシーズンが一種のエナジーピークみたいなものだったように思う。2019年は成績そのものはそれまでと遜色はなかった(25試合7ゴール)が、レオナルドのような自身の爆発を誘発させてくれる存在に恵まれなかったことが尾を引いた(ユリはその意味では物足りなかった)のか、フェルさんは巧いと思ったけど、さすがに歳かな、と思える気もしてきた。
無論、その本当のところは自分の乏しいサッカー審美眼なんかではわかりようもなかっただろうけれど、加齢は事実としてフェルさんにも容赦なくやってくる。それによる体力等の低下はあったのかもしれない。それがトーシローの自分でさえ窺えるほどだったのかも、と。

2017年末にガイナーレ鳥取に帰ってきた頃から漠然と思っていたんだが、若い連中がフェルさんに「フェルさん、お疲れ様でした。あとは俺たちに任せて、安心して休んでいてください!」ぐらいのことを言って、強引にでもポジションを奪って、彼の後釜に据わらないとダメだ、と。
たぶん、フェルさんも心の何処かではそれを望んでいたんじゃないか、と。今にして思えば、そんな気がしてならない。

彼との時間を過ごした若い選手たちの中に、それができた選手はいたのか。彼らが「フェルさん、スゲー!」と畏敬の念を以てフェルさんを見るのはもちろん良いのだが、くどくど言うようで申し訳ないが「今までお疲れ様でした。俺たちがフェルさん以上の働きをして、この先のガイナーレ鳥取を盛り上げます!」ぐらいのことを言って、フェルさんを安心して引退させてやってほしい
フェルさんも、今自分の周囲にそういう若者たちがいれば、安心して次を託せると思いつつ、引退するはずだ。
今のガイナーレ鳥取の選手たちなら、きっとそれができるはずだ。いや、できなくては困る。そういう連中だと思っているからこそ、自分は彼らに期待して応援もしている。
無論今後も応援はするけど、偉大な先達を凌駕して、乗り越えていこうって気概のない連中には期待しない。フェルさんのような大きな存在を超越しようとチャレンジする連中が出てきてこそ、ガイナーレ鳥取は一段とでっかくなる

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(これを書いているのは2020年10月22日)はまだシーズン中だし、「お疲れ様でした」も「ありがとう」も言わないでおく。GMのコメントにもあるように、残り試合にも大いなる奮起を期待するだけだ。

ただ、フェルさんが6シーズン近くガイナーレ鳥取にいてくれた中で、様々な驚きをもたらしてくれたし、高揚感を与えてくれたことはずっと忘れないだろう。
そして、この先の残り試合でも、フェルさんはガイナーレ鳥取にいた、という確かな証を刻みに来るだろうし、今いる、フェルさんよりもずっと若い選手たちは、そんなフェルさんに強い敬意を抱きつつも、いつかは必ず超えていかなければならない選手と認識し、フェルさんがかつてもたらしてきた以上の何かを生み出そうと日々努力を重ねていくだろう。

その目処が立った時が、本当のフェルさんとの別れの時なのかもしれない。フェルさんはガイナーレ鳥取に於いて、紛れもなく唯一無二の選手。これまでも、これからも。誰もそれを否定することはできないはずだ。

フェルさんがあと何試合に出場できるかはわからない。今月10日にリリースがあったように、フェルさんは故障を抱えている身でもある。

だが、仮に試合に出場することがあったなら、フェルさんは必ず何かをやってくれるだろう。それを期待できる選手だ。そして、その期待が、あと少しの間しかできないけれど、いつかは来る時だ。そう思おう。

この先、フェルさん以上のワンダーを見せられる選手が、ガイナーレ鳥取から多く登場してくることを願いつつ。

あと少しの間、フェルさん、たくさん驚かせてください。楽しみにしています。

基本的に他人様にどうこう、と偉そうに提示するような文章ではなく、「こいつ、馬鹿でぇ」と軽くお読みいただけるような文章を書き発表することを目指しております。それでもよろしければお願い致します。