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研究で明らかになった、「才能」とは何か

この記事は、フロリダ州立大学のアンダース・エリクソン教授の30年間に渡るスポーツ、音楽、チェスなど様々な分野における『超一流』とされるプロフェショナルに対する研究とロチェスター大学のエドワード・L・デシ教授の動機づけに関する研究を主に参考として論じます。


60秒でわかるこの記事の概要


生まれながらの天才は存在せず、IQも関係ない。超一流/一流/二流/三流を分けるのは『練習時間と練習の質だけ』である。

質の高い練習(限界的練習法)を長期間に渡り行うことによって最も変化するのは『脳』。MRI画像を用いた調査により対象分野に適応した脳の変化が能力の正体だとわかった。

身体的特徴(身長・骨格など)以外には才能といえるものは発見できず、トッププレイヤーに共通する遺伝的要素もない。短い時間で超一流になった例は存在しなかった(天才といわれるモーツァルトも誇張されていた)。伝統と歴史ある分野で成功するには、長年にわたる途方もない努力が必要である。

限界的練習法のノウハウと、どうすれば長時間練習に打ち込めるようになるのか動機づけのメカニズムを理解することにより自分自身や子供、会社の仲間たちを一流にすることができる。かもしれない。

この記事だけでは十分とは言えないし、正確な理解をしてほしいので、超良い本だから興味があったら是非読んでほしい。


言い訳ができなくなった


この研究は、『自分には才能がない』という言い訳はできなくなる、という事を意味します。

また、才能は関係ないと知らなかったことで自分の夢が叶わなかったり、子供が苦労をしたあと手遅れになったあとに知ってしまったらきっと後悔するのではないだろうか。

正しいやり方で努力をすれば誰でも一流になれる可能性があるというのは、素晴らしいことでもある。願わくば、このことが多くの人に伝わり、夢をかなえる人が増えれば嬉しいな、と思います。


超一流研究から明らかになった事実


音楽家

超一流のバイオリニスト、チェリストが左手をコントロールする脳の領域は、音楽家以外と比べて有意に大きい。また、楽器を始めた時期が早いほど拡大の度合いは大きい。

数学者

数学者としてのキャリアが長い人は、右下頭頂小葉の灰白質が有意に多かった。そしてアルバート・アインシュタインの右下頭頂小葉は平均より明らかに大きく、形状も特異だった。

スポーツ選手

体操や水泳などのスポーツでも身体的能力だけではなく、身体を注意深くコントロールする必要があり、それぞれの身体部位に応じた脳が変化していた。

難関試験

世界一難しい試験と言われるロンドンのタクシー運転手試験を合格した人は、合格していない人と比べ、記憶を司る海馬が有意に大きい。


また、脳に及ぼす影響は年齢で変化する。子供は脳自体が成長している時期であるため変化が大きく影響する。例えば、2歳~6歳までにトレーニングをすれば全員が絶対音感を得られる。


限界的練習法とは?


例えば、筋トレだと、ゴール設定、正しいやり方、適切な負荷、フィードバック、食事が重要である。脳のトレーニングも同様。

限界的練習法とは、歴史ある高度に発展と競争がある分野において、具体的な理想の姿(①心的イメージ)と現在の自分のギャップを明らかにし②コンフォートゾーンから出る、ギャップを埋めるための③インプット、アウトプット、フィードバック、その繰り返し④集中した環境⑤頭打ち(プラトー)になった際の手法の変更


①心的イメージ

具体的なゴールのイメージ。自分が目指すべき明確な目標。大抵の練習が効果を上げないのは、心的イメージを持たないため。心的イメージの質が能力の上限を決める。


②コンフォートゾーン

居心地の良いゾーン。コンフォートゾーンになった瞬間に能力開発は止まる。同じことの繰り返しは能力の停滞と衰退を招く。


③インプット・アウトプット・フィードバック

アウトプットを出すためにインプットをする。適時フィードバックを得て、心的イメージに近いアウトプットを出すためにフィードバックや教師からインプットを行う。アウトプットを起点にする。アウトプット超重要。


④集中

超一流のプロで練習を楽しいと思っている人は一人もいなかった。彼らにとっては、理想と現実を埋めるための一歩一歩の模索。常に全力。長時間の70%よりも短時間の100%。


⑤プラトー

学習が頭打ちになり、停滞する時期。手法の工夫によって克服する。自分の躓きを明らかにするために探求する。


歴史と教師


限界的練習法では、体系化された歴史と競争がある領域を対象にしている。個人がゼロからどんなに努力を重ねても、歴史には敵わない。

素人は独力ではスケートリンクで4回転ジャンプは飛べるようにならない。フィギュアでは一世紀のあいだ積み上げられてきた4回転を飛ぶための理論と練習法が体系化されてきている。コーチの指導によって近いところまで辿り着いた後、さらにコーチングと自らの高レベルな心的イメージ、そのギャップを埋める絶え間ない努力で実現する。

学問やプログラミングなどの技術も同様のことが言える。登場した当時は出来ること自体が価値があったが、理論やベストプラクティスが体系化されるとそれを正しく身に着けた人たちは、高レベルの基礎(歴史)を得たうえでスタートすることができる。経験が長い人も、体系化された理論とアウトプットを身につけなければ(技術のアップデートをしなければ)、時代の進歩に対し相対的に能力が下降する。

ただ、経験が豊富でありながら最先端を走り続けている人は、心的イメージの持ち方、正しいフィードバックの得かた、プラトーを打ち破る引き出しを持っていて、めっちゃ強い。

教師の差というのは、この体系化された部分を身に着けるための技能の差である。優れた教師はその時点で持つべき心的イメージ、理論、フィードバック、躓いた際に乗り越えるための手法を持っている。


教師がいない場合の能力の磨き方(3つのF)

Focus:構成要素を分解し、最小で具体的な課題に集中する

Feedback:映像やタイマーなどを用いて、客観的に原因を発見する

Fix it:改善策を考案し、取り組む


モチベーション


意志の強い人などいない。

継続する理由を強め、続けられない理由を弱くする。例えば、決まった時間を定例で設ける。外的要因を排除する、など。習慣であり、義務であるという意識が必要。

また、超一流ほどスケジュールを明確にしている。そして、良く寝て体調を整える。練習するうちに辛さに慣れる。ただし、その分野を練習することに対する辛さにだけ。他のことは変わらず辛い。

自分や子供のモチベーションをコントロールするためには、まずモチベーションを学んだ方が良い。デシの自己決定理論によると、以下の6段階にモチベーションは分類される。

例えば、親が子供に何かやらせようとした場合、まず親がそれをやってみせ、面白そうだな、楽しそうだなと思わせるのが良い。実際にやってみた子供に対して、褒めたり賞賛しながらやらせ、楽しいと感じさせる。

親からの期待を受けながらも失敗を繰り返し、出来た際には賞賛を得ることによって自分のアイデンティティの一部としていく。他者と比較して、自分が優れていたり、自分のパフォーマンスによって外部から認められることによってさらに高いレベルを目指す。トップに立ってからは、その分野を先導する責任を自ら感じ、理想とする究極の高みを追求する。

実際には各動機づけはグラデーションになっているので、全部与えながら効くものを選択していくのが良いのだろう。レベルが高くなってからも親からのサポートが必要であるとエリクソンは言っている。超一流になる子供の親は途中で辞めさせないように手を尽くしていた。

内発的でメタな視点、夢、決意、能力に対する誇り、仲間からの称賛、アイデンティティ、成功すると信じる気持ち。こうしたものが能力を超一流に磨いていくうえで必要だ。わずかでも上達を記録できるものを用意すること。少しづつの進歩でも着実に進んでいる。


まとめ


才能とは、脳と身体の適応性であり、それはほぼ全ての人が有する。

超一流になるためには、練習の質と量によって脳と身体をその分野に適応させること。質の良い練習の量とレベルは比例する。

体系化された知識と手法を正しく学ぶこと。

適した教師を選ぶこと。

最も素晴らしい本物のエキスパートを特定し、成果を出すために何をしているかを突き止め、同じことができるように訓練方法を編み出すこと。

限界的練習法で取り組むこと。

継続して適応できるよう、仕組み化すること。

モチベーションを把握し、正しく付き合うこと。


繰り返すが、この記事だけでは正確に把握できないと思うし、良い本なので、買うか借りるかして読むことをお勧めしたい。


自分が一流を目指したり、子供を一流に育て上げたり、HRであればメンバーのパフォーマンスを引き出すのにも使えるだろう。

一つ大事なことも書かれていた。今のところ、人間の能力に限界は見つかっていないらしい。

人の能力は伸ばせる。


Photo by alex-shutin on Unsplash

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