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中小企業における経営幹部の育成と覚悟の重要性

ここのところ、経営幹部育成の課題についてよくご相談をいただきます。私の場合は、中小企業の経営コンサルをしているので、その社長さんからの相談が多いです。

「なかなか次の幹部が育たないんだよね」

そんな素朴なボヤキから始まります。コンサルタントとして、その「育った状態」とはどういう定義なんだろうとまずは理解しようとします。一番多いのは、決めない、決められない、判断を委ねてくるといったものです。「結局、覚悟がないんだよ」とおっしゃることも度々です。

経営者は苦労して、覚悟を育てている

たしかに覚悟が大切だと思います。
中小企業は、同族経営が多いです。2代目、3代目社長の苦労は並大抵のものではありません。社長になったからといって、その瞬間に社長に求められる仕事ができるわけでも、覚悟が定まるわけでもありません。もちろん、覚悟がないと「継ごう」なんて思わないわけですが、継いでみて初めて分かることがほとんどです。その多くは、マネジメントの実務的な課題というより、ひとりの人間としての考え方や存在そのものが問われる課題です。最後の最後、責任を取るのは自分、自分しかいない、逃げることは許されない、とにかく決めて進むしかない…そんな覚悟が問われます。

「技術的な問題」と「適応を要する課題」の違い

そのようにして自分自身の覚悟を育ててきた社長が、部下である経営幹部を見ると「覚悟が足りない」と思うのは、ある意味当然です。ただ、こうした覚悟は育てることができるのか、ということですね。

すくなくとも覚悟は、考え方が変わることなので「技術的な問題」ではなく、「適応を要する課題」です。これは、ハイフェッツによる定義です。

「技術的な問題」は、ある程度正解が決まっているものです。だから、代わりにやってもらうことで解決もできるし、技術を教われば、解決できます。例えば、財務諸表の読み方などがこれにあたります。

「適応を要する課題」とは、問題の当事者が自分の考え方を変容させることが必要になる課題です。財務諸表が読めても、リスクをとって投資することができず、事業の可能性を広げられないといった課題です。分かってはいるものの「失敗したらどうしよう」と踏み出せないでいるわけです。こればかりは、代わってあげることができません。また、リスクをとる必要性を教えても、実行に踏み出せるかどうかはその人次第です。

意思決定プロセスと適応課題への対応

経営幹部育成では、技術的な問題と合わせて、適応を要する課題も織り交ぜるようにします。たとえば、中長期の経営計画を社長と一緒につくるような場を設定します。これは、1回で終わりではなく、半年から1年かけて、ディスカッションを繰り返しながら進めます。戦略を立て、実行計画を作り、最終的な損益のシミュレーションをしていくことになり、その中で技術的な問題に対応するスキルを身に着けてゆきます。

このとき「なぜ、そのような計画を立てたいのか」ということを常に問うことで適応を要する課題に向き合います。この問いに「こっちの方が儲かるから」とか「こっちの方が効率的だから」という回答だと技術的な問題です。自分の信念として、「私たちはこうありたい」と答えられるかどうか。そこに覚悟があります。

100%成功する計画などありえないし、想定通りに進むことはありえません。実行しながら常に考え、矛盾や葛藤を抱えながら意思決定していくことになります。

自己反省と意思決定の権限委譲

しかし、日々、実務の執行に身を置いている経営幹部は、確実に結果の出る効率的な手段を考えます。そして、判断に困ると経営者に意思決定を仰ぎます。そのような仕事を繰り返していると行動力は高まりそうですが「私たちはどうあるべきなのか」「私はどうありたいのか」と内省する機会を得ることができません。

自社の将来像を共に考える機会をつくり、社長が全て決めるのではなく、領域を決めて意思決定の権限を与えることが必要です。自らの右手となって執行を進めてくれる部下の存在は有難いですが、彼らが決められないのは、適応を要する課題に向きあう機会がないからかもしれません。

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