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売れない調香師が帝王と呼ばれた理由が俺だった件。3

「わぁぶ!?」
突然周りが明るくなり、草の上に投げ出され、顔面で草を擦り潰す。上から落ちてきた筈なのに、横から投げられたような落ち方をした自分に頭が混乱する。
「???」
なんだ?急に明るいし…急に暑い。確か今は十月も終わり頃だった筈だ。いきなりの環境変化に身体も驚いたようにドクドク胸が緊張を知らせる。
気持ちいいくらいに転んだ身体は身体も打った場所が痛い。あちこち見てみるが、服が破れたり怪我をしたりは無さそうだ。

次第に鼓動も落ち着いていく。大きく深呼吸をして、俺は改めて周りを見た。
少しだけ自分に余裕が出てくる。どうやら、いきなり何かに襲われるような事は無さそうだ。

「……なんなんだ、ここ…」
ムクリと起き上がると目の前にはゴツゴツとした岩山と、その先に微かに見える海だ。

「はは……夢……?」
さっきまで瀬木と飲んでて…しかも夜で、帰りに…歩きながらスマホを見ていたせいでマンホールに落ちてしまった……はずだ。
こんな所を歩いていた記憶も住んでいた記憶も無い。
手に持っていたスマホと貰ったパンフレットとチケットは近くに落ちていたので、とりあえず拾ってカバンに仕舞う。
頭の中は大混乱なのに、身体はやけに冷静に動く。

なんだここ…。死後の世界とか?俺死んだのか?にしては、身体も痛いしリアルなのだが。
俺はキョロキョロと辺りを見回す。
「誰か人…探すか…」

東京のビル群なんてどこにも見当たらない。

空を見上げれば、見た事がないほど透き通った青空がどこまでも続いている。
小鳥がさえずり風が草木を揺らす。こんな状況でなければ仕事のストレスをリフレッシュするのにとても良い場所だ。

「俺…日本に居たよな…夜だったよな」
瀬木と仕事帰りに飲みに行った……よな?
それは間違いないはずだ。だって俺はスーツ姿のままだ。そうだよな?

……じゃぁなんで、こんな場所に居るんだ?

ふっと足元が無くなったんだ、そしたらここに落ちて……。
「……分からん……何なんだぁ!瀬木ぃい!」
居るはずもない同僚の名前を叫んでみるが、なんの反応もない。
「あ、そうだ!瀬木に電話!」
俺は慌ててスマートフォンを取り出すと、取り敢えず電波状況を見る。

圏外。

「……だよなぁ。そんな気はしたよ。」
はぁ、とため息を吐く。
やっぱり、死んだ?死んだのか?死後の世界って川じゃないのか??

「はぁ。」
俺は考えても仕方ないと、諦めたように周りを再度見渡す。すると、草原を横切るように土を固めただけの道を見つけた。少なくとも、人はいる様でホッとした。

「道を進んでればだれかに会えるよな」
そこで、ここが何処なのか聞こう。死後の世界でもなんでも、場所が、分かれば次が考えられるだろ……。

一つ目標が出れば、途方に暮れていてもなんとか体が動くものなんだな。

俺は、再度スマートフォンを鞄に仕舞い、ヨタヨタと歩き始めた。

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