無題4

花と私の関係性

花を生けることが好きだ。特に疲れて忙しいとき、花が近くにいてきれいに咲いていてくれるだけてとても力になる。

私には、通い続けて4年のひいきにしている花屋がある。「花屋 はせ川」という、家の近所にある小さなお店。店主の名前は「はせ川さん...」というのか、いまだによく分からなくて確信はないんだけど私はいつも「はせ川さん」と呼んでいる。

4年前、引っ越してきたばかりの頃は、どのお店で花を買っていいかわからなかった。試しに近所の花屋をすべてまわり、一輪の花を買って順番に生けてみた。
しかしどの花も、1-2日ほどで枯れてしまった。頑張っても3日くらい。こんなもんなのかな...と、めぐりめぐって最終的にはせ川さんのお店にたどり着いた。

はせ川さんの花は、他のお店と全然違った。

初めて買ったのは、一輪のガーベラだったと思う。
ほとんど水は変えないで1週間以上もった。私は会社員で、平日は仕事だから日中は部屋にいなくて窓を閉め切ってしまう。お花にとっては通気性が悪い、苦しい環境だ。でも、ちゃんと長くもってくれた。
1週間以上たって、元気がなさそうになってきたのでガーベラの花びらに触ってみたら、全部の花びらが同じタイミングでスッと落ちた。なんだかそのはかなさと健気さにとても感動して、すぐにはせ川さんのところへ行った。

「この前のガーベラ、花びらが...落ちたんです。一気に!」

そうしたら、はせ川さんは、

「いい関係性だったんだね」

と言ってくれた。

それから私のお花ライフは始まった。

最初は、私が持っている花瓶の高さやかたち、素材をこまかく伝えて花束にしてもらっていたんだけど、徒歩30秒の家に帰ってうつし変えて...ってなんだか面倒だぞと思い、はせ川さんに「今度花瓶を持ってきてもいいですか」と思い切って聞いてみた。はせ川さんは「もちろん!」と言ってくれて、それから週に1度、花瓶を持って行き、はせ川さんに花を生けてもらう生活が始まった。

はせ川さんは、花瓶を持って行くとたくさん「おまけ」をしてくれる。緑の草類を組み合わせてくれて、主役の花を引き立てる。お店に行くといつも、「今日はどんな気分?」と聞かれて私が適当なことを答えると、季節の花をみつくろって生けてくれる。

毎週毎週、違う花が私の部屋の雰囲気を明るくしてくれる。プロのアレンジを近くで感じることができるし。こんな楽しみ方があるのか、花ってすごいな、と気持ちが高ぶった。

価格は大体、200円〜300円くらい。薔薇が入ったときだけ少し高いんだけど、アレンジ料は取らないし、花の状態があんまりよくないときは「すぐに枯れちゃうかも」と言ってくれた上で安くしてくれる。

ある日、私は手のひらサイズよりも小さい陶器の一輪挿しを買った。
うれしくて、はせ川さんに見せたら「いいねぇ。これからもっと人生が楽しくなるよ」と言われた。「今まで何気なく歩いていた、道端に咲く花に目がいくようになって摘みたくなることが増えるよ」って。
それから本当にそうなった。散歩しているとき、朝のランニングのとき、花を摘んで帰る習慣がついた。ベランダにも花を置くようになって、成長したら摘んで部屋の小さな花瓶に入れるようになった。たった1つの一輪挿しが、私の世界を大きく拡げてくれた。

昨年末、長崎にいる私の大事な友だちが落ち込んでいた時期があった。その子は長い時間を経て授かった子どもが死産となってしまい心がふさぎこんでいる状態に。私は何かしてあげたいけど、何もしてあげられない状況がもどかしく、でも、良い気持ちで新年を迎えてほしいなと思って、はせ川さんに相談しにいった。友だちのことを説明したら、静かにもくもくとスタンドタイプの花束をつくってくれた。

この花は、長崎に着いてから2週間ほどきれいに咲き続けたんだそう。
友だちはこの花の生命力に驚いて、少し前向きになれたと言ってくれた。

花は喋らないけど、近くできれいに咲き誇っていること、もうそれだけが言葉を超えた純真なメッセージなんだと思う。その裏がわには、はせ川さんや生産者さんがいて、丁寧に扱われてきた結果、私のもとにたどり着いてきたんだと思うと毎回「ありがとう」という気持ちになるし、散ってしまうとさみしい気持ちになる。出会いと別れを繰り返しているようだ。

私は正直なところ、花についての知識はほとんどない。少しづつ覚えてはきたけど、まだまだ全然知らないことばかり。でも、はせ川さんから教えてもらったのはもっと根本的に大事なこと、『花と私』の関係性を教えてもらえたのかもしれないなぁと思った。

今日、友だちが花瓶を買ったのではせ川さんのところで花を生けてもらった。うれしそうにアレンジをする、はせ川さん。

奈良に行ってもいい花屋に出会えるといいな。

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