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濃厚豚骨ラーメンで淡い青春を取り戻す


学生の頃、地元北九州のラーメン屋でアルバイトをしていた。

豚骨と魚介のスープがメインで、チャーシューは炭火で炙り、店内はラーメン屋っぽくないカフェのような空間で、とても個性的なお店だった。

チェーン店ではなく個人のお店だったが、地元では割と有名なラーメン屋で、僕はそこで約3年間働いた。

仕事に対する姿勢や丁寧さをはじめ、このラーメン屋でたくさんのことを学び、色々な経験をさせていただいた。
忙しすぎてろくな休憩がとれず、14時間ぶっ続けで働くときもあり、体のタフさと精神力もこのバイト先で身につけた。

3年間でバイトリーダーにまでのぼりつめ、時給は当時、北九州の最低賃金だった701円から最終的に1000円近くにまで上がっていた。

また、店長がいない日は僕がお店をまわし、スープ作りから仕込み、お金の管理等、僕にやれない仕事はもうほぼなかった。
学生ながらたくさん働き、多いときだと月に20万を越えるほど稼いでいた。

このラーメン屋で働く前はスーパーのアルバイトをしていたのだが、そこは3ヶ月しか続かず、僕は社会不適合者なのではないかと焦っていたが、忙しくて大変なラーメン屋を3年間勤め上げたことが僕の社会に対する自信となり、そのまま社会人への階段を登っていくことになった。

最初、ラーメンが特にすきとかではなく、家から近いしなんかおもしろそうだからという軽い理由でそこに応募したのだが、面接のときになんで応募したのかを聞かれ、そんな軽い理由を話せるわけもなく、僕は苦し紛れの表情で「ラーメンがすごい好きでここのラーメン屋が1番美味しいと思ったからです!」と答えた。

そこから僕は自分で自分の脳を洗脳し「お前はラーメンが大好きなやつだ」と毎日唱えることによって、自分を大のラーメン好きに形成していった。
また、まかないで毎日のようにラーメンがでるので、否が応でもラーメンが好きになるというかラーメンを好きになるしかなかった。

今までで一番食べたからというのもあるかもしれないが、僕は本当にそこのラーメンが一番好きで、今でも地元へ帰省すると、必ずそこのラーメン屋に行っている。

毎回OB顔で入店しては差し入れを渡している始末だ。

当時は、ラーメン屋でバイトをしながら色々なラーメンを食べ歩き、地元のラーメンというラーメンを食べ尽くしていった。
なので、僕はラーメンに対して割と口うるさく、僕を唸らせるほどのラーメンを持ってこいと毎日思いながら生きてきた。
特に豚骨ラーメンに対しては思い入れが強い分、厳しい一面もあり、今までたくさんの豚骨ラーメンに辛い評価をくだしてきた。

そして、僕は20歳で地元の福岡を離れ京都へ移住したのだが、この京都に住んでからは、ラーメン好きを封印し、ほんとはラーメンが大好きだがそれがばれないように普通の人の仮面を被って生活しだした。

というのも、京都は醤油ラーメンが主流で、僕の口にはあまり合わなかったからだ。
また、会社の先輩等に勧められた豚骨ラーメン屋に行くと、正直レベルが低いことが多々あり、僕のラーメン好きで本場九州のラーメンを知っているという点が仇になることがあった。
なので、ラーメン好きということを封印し隠すことによって、今度はどんなラーメンでも受け入れるやつという風に自分を形成していった。

日頃からチェーン店やインスタントラーメンを大量に摂取し「お前はどんなラーメンでも美味しいと言うやつだ」と毎日唱え、自分で自分を洗脳した。

そして、24歳で東京へ移住すると、僕のラーメン好き隠しがとことん加速していった。

東京で有名なラーメン屋に行っても、こんだけ並んでこんなにお金払ってこのレベルか、このレベルなら福岡にごまんとあるぞ、というようなことが正直たくさんあった。
だが、土地が違う場所で辛口な評価をするのはナンセンスだと思い、周りの人には「美味い美味い」と言いながら食べていた。

この窮屈さが、ラーメン好き隠しからもはやラーメン嫌いにまでなりつつあった。

地元福岡を離れ、唸らせてくれるラーメンに出会えないまま8年という月日が経ったある日、去年の年末のこと。

東京に住んでいた同郷の友人が、地元の福岡へ帰ることになったので、最後に遊ぼうということで2人で集まった。

朝から喫茶店へ集合し、喫茶店→韓国料理屋→ゲーセン→銭湯→居酒屋→カラオケ→スナック→ケバブ→路上飲み、この最後の締めくくりとして、豚骨ラーメンを食べようということになった。

やっぱり地元福岡の人間は最後に豚骨ラーメンを食べるのが定番。
だが、僕は例のラーメン好き隠し状態なので、もう別にどこのラーメン屋でもいいや、というなんの期待もしていない感情で、まだ開いているラーメン屋を探した。

すると、近くに割と評価が高い豚骨ラーメン屋があったので、ちょうどいいやということでそこに入店した。

ラーメンを2つ注文し、届いたラーメンを口に運ぶと、口の中に小宇宙(コスモ)が広がった。

「、、、うぅんぅ」

唸った。

宇宙の真理に近付いた気がした。

見た目も中身も完璧で、東京にこんなに美味しいラーメン屋があるのかと、感服した。

友人がお腹いっぱいそうにしていたので、ハイエナのように友人のラーメンを奪い取り、1.5杯のラーメンを秒で完食した。

それからというもの、僕のラーメン好き隠しのタカが外れ、今年に入ってから馬鹿のようにラーメンを食べ歩いている。

あの頃の若きラーメン小僧の血が蘇り、もう今年だけで20店舗もまわってしまった。

ラーメンを食べる生活をしていると、今日はもうどんなラーメンでもいいからとにかくラーメンを摂取したいという日があり、最近はチェーンのラーメン屋でも満足してしまっている。

こないだなんかは一風堂で替え玉を5回もしてしまった。

脱出ゲームに行った後にその一風堂で替え玉を5回したのだが、流石に5回もするときつすぎて全く動けなくなり、さっきのゲームよりも一風堂から脱出する方が難しくなっていた。


そんなこんなで8年ぶりにラーメン魂に火がつき、ラーメン道に興じている僕は、何か青春を取り戻したような気分で、毎日が輝いて見えている。

この青春の先に、何か淡い恋愛物語が待っているのではないかと、そう思わせるほどの青春まっただ中なのである。

さあ、唸らせてみろ、東京中のラーメンたちよ。
早く口内に小宇宙(コスモ)を広げてくれ。

もっとドぎつく濃厚でパンチのあるスープがほしい。

そして、その先にある濃厚な恋愛も、少し期待している僕なのである。

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