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#11 「めんどくさい」のひみつ道具③ 「つっこみライティング」

めんどくさいの哲学#11

 前回紹介した「とにかくタイマー」は、仕事など、やらなきゃならないことをスタートさせるためのひみつ道具でした。とにかく20分、仕事をはじめてみると、スタートダッシュできる。けれどそれでもうまくいかない場合があります。「何をどうしたらいいんだろう?」「とにかくやっぱりめんどくさいな」。そんな気持ちになって「とにかくタイマー」の時間が、無為に過ぎていくとき、頼りになるのが「つっこみライティング」です。

 「つっこみ」というのは、漫才用語だと思いますが、要するに「なんでやねん」です。「何をどうしたらいいんだろう?」と思ったら「なんでそれがわからんねん?」と問う。「めんどくさいな」と思ったら「なにがめんどくさいねん?」と問う。この自分つっこみが、思考を回転させていきます。

 たとえば、何をどうしたらいいかわからないとすれば、どうしてわからないのか? と問えば、実は情報が足りてない。ということになるかもしれない。そうしたらこんどは「どうしたら情報が足りるようになるのか?」とつっこみが入り、それは××さんに頼んで情報をもらおう。ということになるかもしれない。でも、××さんに頼むのめんどくさいなと思ったら、「××さんの何がめんどくさいのか?」とつっこみを入れる。疑問や言い訳が生じたら、それをつっこんでいくことによって、「どうしたらいいのかわからない」という問題のありかの精度が上がっていきます。

 めんどくさいの哲学 #8「めんどくさい」はおもしろい。のか? でお話ししたように、「よくわからない」とか「めんどくさい」といった感情は、けっこうおおざっぱです。なのに、その感情に直面したとき、人はそれがすべてだと思ってしまう。そんなときこそ、「つっこみライティング」の出番です。ここはひとつ、「とにかくタイマー」を併用しつつ、20分時間をくぎって「つっこみライティング」をスタートしましょう。「なんでやねん」「なにがやねん」「どこがやねん」をとにかく書きまくります。これは、読書猿さんのブログで紹介されている「マラソン・ライティング」の応用です。

 「つっこみライティング」のキモはもちろん「つっこみ」続けることなのですが、もうひとつのキモは「ライティング」=書くことです。あたまでぼやっと考えていることも、言葉にして書き出すことによって、思いがけない発想・視点が生まれます。これが重要です。

 ちょっとビジネス書風に例をあげてみましょう。

 Aという先輩に仕事の報告をするのがめんどくさいな、と思ったとします。そのときに「Aに報告するのは面倒くさい」と書き出す。「つっこみ」的には、じゃあAへの報告の何が「面倒くさい」のか? と疑問がわきます。そして、報告内容を細かく見て、重箱の隅をつつくような質問をしてくるところが面倒くさいのだ。という答えが浮かび、じゃあ、そのような質問をされないようにするには、どうすればいいの? と考えが進んでいき、問題の精度が上がる。問題の精度が上がれば、解決するべき課題も限定的になり、具体的な解決策を考えられる。これが「つっこみ」の効果です。

 その一方で、こんな展開も考えられないでしょうか? 「面倒くさい」という文字を見たとき、「あれ? 面倒って字、面を倒すって書くけど、どういう意味かな?」というズレた疑問も湧くかもしれません。また、「面倒って、やっかいなとか、骨が折れるとかの意味もあるけど、『面倒を見る』みたいに、手をかけるとか、世話を焼くとかいう意味もあるよな」なんてことを考えるかもしれません。すると「そういや、Aは細かいことにうるさいけど、普段からいろいろアドバイスしてくれているし、私の世話を焼いてくれているのかもしれない。だとすれば、報告のときの面倒くささも仕方ないか」というふうに、意外な角度から「Aは面倒くさい」の問題が解決してしまう可能性もある。「ライティング」の客観性とは、このように、思いがけない方向で作用することがあるのです。

 「つっこみライティング」の面白さは、問題の精度をあげる「つっこみ」と、問題を違った角度から見る「ライティング」の2つの機能にあります。このやりかたは千葉雅也さんの『勉強の哲学』に書かれている勉強の手法、「ツッコミ(アイロニー)」と「ボケ(ユーモア)」と同じです。
 千葉さんはあるインタビューで、このツッコミとボケは、ビジネスにも活用できると言っています。何かの提案をする際に、ツッコミ(アイロニー)で根拠を掘り下げ、ボケ(ユーモア)でプランB、プランCと広げていく。何かをつくるときの基本的なスキルがツッコミとボケなのです。

 というわけで「つっこみライティング」は、ものを考えるうえで基本的かつ最強のひみつ道具である、とぼくは思っています。



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