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初恋のエレメント

「この先、たった一人に出会えればいいと思う」
彼は前を見据えて、そう言った。心から願い、何かに誓うような、意志ある声で。

私は彼のどこか切なげな横顔を見上げてから、ある一つの願いを飲み込んで、静かに答えた。
「私も。たった一人がいいです」

彼はこちらを見て、「一緒だね」と微笑んだ。



あれは真冬の夕暮れ時だったか、春先の昼下がりだったか、記憶はすっかり曖昧で、それに、本当はもう随分前から、彼の声も顔も思い出せなくなっている。

それでも、心の片隅に、いまだ消えずに残っている。

彼と交わした何気ないやりとり。

飲み込んだままの願いごと。

音のない言葉の記憶。

2024.01.23