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「六人の嘘つきな大学生」(朝倉秋成)読みました

あ、これ文庫になったんだーと本屋で見つけて購入しました。気になりつつもまだ読んでなかった作品。久しぶりにミステリーの楽しさ、堪能しましたよ。
タイトルから、湊かなえ作品のようなイヤミスな気配を感じるのですが、読後感はちょっと異なります。
就活中の6名が某企業の最終面接に残り、2時間半のグループディスカッションをする、というお話で、6人のうち“誰が嘘をついているのか”ってことを気にしながら読み進めていく。内容はもうタイトルからもわかるので、帯の“あなたは絶対に騙される”は蛇足だなあ、と感じます。これを読んじゃうと、読み手は“これには裏があるはず、騙されるもんか”の気持ちで読んでしまうものね。気持ちよく騙されるためには、この帯文句は不要と感じる。
が!そんなふうに宣伝しても、読み手をがっかりさせないだけのクオリティがある、と自信満々なんだな、よしそこまで言うなら読んでみるか、と、私のような疑心暗鬼組、陰鬱な気分になる本は勘弁という者にも、本を手に取らせるわけで、やはり、この帯は大成功なんでしょう。
6人とも難関大学の学生。最初、自分とは別世界という距離感があるけど、すぐに感情移入できます。読んだ誰もが、「今の時代の就活って大変だー」と思わずにはいられないはず。
就職試験の圧迫面接がなくなってきたとはいえ、本質は変わらない。『日本国民全員で作り上げた、全員が被害者で、全員が加害者になる馬鹿げた儀式』―まさにね。
時代が変わっても、“何で、たいした人間でもないあんたが、私の何をどう見て優劣つけるわけ?”という、就職面接受ける側の、しらけた気持ちは同じ。
それでも、この馬鹿げた儀式を突破しなければ、社会から脱落してしまうという恐怖。有名大学出身者であるほどに切実な不安。みんな同じ黒のリクルートスーツを来て就活なんて気持ち悪い、やりたくない、のが本音にも関わらず。
就活の時期が過ぎ去って初めて、冷静に振り返ることができる。渦中にいるときは、歩みを止めたら負け、この流れの中で頑張るのみ、と信じて邁進しているから。
未来への安心感が希薄な時代の、就活の息苦しさ。その心情を、同じ時代を生きる者として、ちゃんと“自分事”として捉えたいと思いました。
ミステリーの面白さを超えて、“日本のシステムどうにかしないとだめでしょ”という気持ちが強くなる作品です。

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