【警察物語/300文字】商売道具
始めて触った時はまだ熱も冷たさも帯びていなかった。
次に触った時は私自身が温度を感じる余裕がなかった。
最後に触った時は信じられないくらい冷たかった。
私が掛けたのは無機質な鉄の双輪。
その双輪が手首に掛けられるのは良くも悪くも人生を大きく変える事を強いられる。
この世に生を受けた数多の人間が掛けられる経験無く生涯を全うするだろう。
我々にとっては日常的すぎて気付く事さえないけどもこの双輪は思っているより重たい。
物質的にも概念的にも重たい。重い想いが重く募る。
掛けた経験はあるけども掛けられた経験はない。
一度くらいは掛けてみてもよかったけどもなぜだか気分が乗らなかった。
なぜだろ。
手錠が私の商売道具。
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