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サッカー選手のスプリントとボールを使ったスプリントトレーニング

スピードの向上は、サッカーのパフォーマンスを大きく向上させる可能性があります。スピードの向上を目的に、スプリントトレーニングを行うチームも多いです。

サッカーのスプリントは、陸上競技のスプリントとの違いとして、直線でないことや、方向転換などが加わる可能性があること、スタートのタイミングが決まっていないこと、絶対的なスピードというよりも相対的なスピードで考えられることなどが様々な違いが考えられます。

しかし単純なスプリントでサッカーのスピードが決まるわけではないとは言っても、高いスプリント能力はサッカーのパフォーマンスにもプラスの影響を与えますし、それがその選手の特徴となることも多いです。逆も然りですが。

今回は、サッカーのスプリントの特徴やスプリントトレーニングの負荷設定、ボールを使ったスプリントトレーニングに関してまとめていきます。


■サッカー選手のスプリント

1. UEFAチャンピオンズリーグからみたサッカーのスプリントの特徴

2002年から2006年のUEFA チャピオンズリーグとUEFA カップ(現 UEFA ヨーロッパリーグ)でのスプリントをポジション別に分析した研究からサッカーのスプリントの特徴を見てみます(1)。
データとしては古いものになってしまいますが、見てみましょう。

スプリントは、ここでは「25.2km/h<」のスピードでの走行と定義されています。

ポジション
・セントラルディフェンダー(CDF)
・ワイドディフェンダー(WDF)
・セントラルミッドフィルダー(CMF)
・ワイドミッドフィルダー(WMF)
・アタッカー(AT)


①スプリント回数

・CDF:17.3 ± 8.7 回
・WDF:29.5 ± 11.7 回
・CMF:23.5 ± 12.2 回
・WMF:35.8 ± 13.4 回
・AT:30.0 ± 12.0 回

上の数値や下の1のグラフからわかるように、ポジションごとに違いがみられます。
ワイドミッドフィルダーが最も多くスプリントを行い、ワイドディフェンダーとアタッカーと続いています。

ポジションや、同ポジションでも個人間の違い、その他さまざまな要因で、10回ほどのスプリントとなる選手がいる中で、50回以上のスプリントを行う選手もいることがわかります。

1. ポジション別のスプリント回数、Explosive sprintとLeading sprintの割合


引用:1. Sprinting analysis of elite soccer players during European Champions League and UEFA Cup matches


②Explosive sprintとLeading sprint

Explosive sprint
スプリント以前の0.5秒以内に「高速度のランニング(19.8–25.1 km/h)」で走っていなかったスプリント

Leading sprint
スプリント以前の0.5秒以内に「高速度のランニング(19.8–25.1 km/h)」で走っていたスプリント

ざっくり言うとこのようになります。

Explosive sprint
ゆっくりとしたスピードあるいは止まった状態から急激に行なったスプリント

Leading sprint
速いスピードで走っていた状態からスプリントに移行したスプリント

先ほどの1のグラフから、どのポジションにおいてもLeading SprintがExplosive Sprintよりも多い(77%-23%)ことがわかります。

この数字をどう読み解くかは、実際の試合を見てみたいことにはわかりませんが、Explosive Sprintが多いほどより緩急のついたアクションが多いのではないか?という推測ができます。

この数字は後でまた出てくるので頭の隅においておいてください。


③1回のスプリントの距離

スプリントの距離に着目してみると、2のグラフから、そのほとんどが20m以内のスプリントだということがわかります。

特に10m以内のスプリントが大部分をしめ、短い距離でのスプリントの重要性を考えることができます。

2. ポジション別のスプリント距離の違い


引用:1. Sprinting analysis of elite soccer players during European Champions League and UEFA Cup matches


④ポジション特性と個人特性

ここまででスプリントの回数と距離について書きました。

ポジションや個人の違いによりスプリントにも大きく差が生まれることがデータからもわかると思います。

全員が同じ動きをするわけではないため、一括りにスプリントといっても距離や回数などに多様性が見られます。
このような「ポジション特性」・「個人特性」という視点からの分析も必要です。

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2. プレミアリーグのスプリントの変化

プレミアリーグの2006-2007シーズンから2012-2013シーズンの変化を分析した研究より、その結果の一部を下図にまとめました(2)。これも少し前のデータなってしまいますが、ここから現在に繋がる変化を見ることができるかもしれません。

まず、走行距離が下がっていることが意外ですね。
対して、高強度ランニングやスプリントは大きく増加しています。ここからもスプリントの重要性が高まっていることがわかります。

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この研究でスプリントの総距離に着目すると、下のグラフから、

・選手間で大きな差があること
・年々「スプリントの距離」が増加していること
(7シーズンの間で「
232 ± 114  → 350 ± 139 m」)

がわかります。

3. 2006-07シーズン〜2012−13シーズンのスプリントの距離の変化


引用:2. The Evolution of Physical and Technical Performance Parameters in the English Premier League

またこの研究から、スプリントの回数は、「31 ± 14回 → 57 ± 20回」へ変化したことも報告されています。
80回へ迫るスプリントをする選手もいたということです。

さらに、この研究でもExplosive sprintとLeading sprintの分析をしています。
その結果、Explosive sprintの割合が増えて来ている(34 ± 11% → 47 ± 9%)ことがわかりました。

先ほどのチャンピオンズリーグの研究では

Explosive sprint:Leading sprint=23%:77%

でしたが、
2012-13シーズンのプレミアリーグでは、2006年から大きく増加し、およそ40%:60%となっていることからExplosive sprintがより要求されるようになってきたことがわかります。(もちろんリーグの特徴もあると思いますが)

ここから、

・よりスプリントのタイミングが明確になってきていること(スプリントするときはする、しないときはしない、など緩急・めりはりがついている?)
・瞬間的な強度の高いアクションがより求められてきていること

などを推測できます。


3. 各国リーグのスプリントの定義と回数

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