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#028 固定残業(みなし残業)代

1. はじめに

お疲れ様です!なべパパです。

前回は一度、7/28に発表された"最低賃金"を基に、地域別最低賃金を予測するという記事で脇道にそれておりました。

今回は給与計算の本筋に戻りまして、"固定残業代(みなし残業や固定残業制とも呼ばれます)"に関する情報について整理していこうと思います。

これまでに、法定外労働・深夜労働・休日労働について個々に整理してきました。
これら個別に割増計算をしなければならない手間を、予め決まった時間に対して割増賃金を支払う制度が"固定残業代"です。

この記事を読み終わった後には、

  • 固定残業代とは

  • 固定残業代の設定方法

  • 固定残業代を設定する場合の注意点

の概要についてわかるようになります。

では行きましょう!


2. "固定残業代"に関する法律

まずは、関連する法律について押さえておきましょう。

固定残業代に関する直接的な法律は見つかりませんでしたが、その解釈について通知がありました。

○時間外労働等に対する割増賃金の解釈について
(平成29年7月31日)
(基発0731第27号)
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含める方法で支払うことについて、平成29年7月7日付けで、最高裁判所第二小法廷において別添の判決が出された。

名称によらず、一定時間分までの時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金として定額で支払われる賃金については、不適切な運用により、労働基準法上の問題が生じる事例も発生していることから、この判例を踏まえ解釈は下記のとおりとするので、監督指導等の実施にあたっては遺憾なきを期されたい。



時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含める方法で支払う場合には、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であること。

また、このとき、割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法第37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、その差額を支払わなければならないこと。

別添
平成28年(受)第222号 地位確認等請求事件
平成29年7月7日 第二小法廷判決
<以下省略>

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6480&dataType=1&pageNo=1

3. "固定残業代"のポイント

3.1 固定残業代とは

固定残業代とは、一定時間の残業が想定される場合に、その時間分の残業代をあらかじめ固定給として支払う仕組み(制度)を指します。

一般に「みなし残業制」や「固定残業制」などと呼ばれていますが、上記の通り法律に定められた制度ではなく、正式名称もありません。

法定(時間)外残業代や深夜残業代などを対象に、固定残業代を設定することができます。

法定(時間)外残業代と深夜残業代については、前職で設定していました。

法定(時間)外残業代 ⇒ 固定時間外残業代

深夜残業代 ⇒ 固定深夜残業代

※休日労働についても設定できるとは思いますが、あまり見かけないですね。

3.2 超過分については、別途残業代が発生

固定残業代は、想定される残業時間分の割増賃金を予め支払いをするという制ですので、設定した残業時間を超えて働いた場合は、当然超えた分の残業代を別途支払います。

一方で、実際の残業時間がみなし残業時間に満たなかった場合でも、その分が削減されることはなく、固定残業代が支払われます。
(※ただし、1ヶ月に1度も設定した残業時間が発生しないことが予めわかっている場合は固定残業代を支払わずとも大丈夫なケースもあります。)

例えば、予め20時間分の法定(時間)外残業代が固定残業代として支払われる契約とします。

ある月の残業が30時間だった場合
⇒20時間を超える10時間分の残業代が別途支払う必要あり

同じ契約で、ある月の残業時間が10時間だった場合
⇒20時間分の残業代が支払われます。

3.3 固定残業代の計算方法

多くのページでは、労働者が未払割増賃金を請求するために、固定残業代で実際の残業代が足りているのかという観点で作成されていると思います。

(1)残業未払額=基礎時給×時間外労働をした時間×割増率-固定残業代

この記事では、経営者の方や賃金設計をする方向けに書いてみたいと思います。

賃金を支払う側としては、想定される各種残業に対して、設定した固定残業代で足りるのかということです。

そこで、以下のステップで設定していくと、法令遵守した固定残業代をセットできると思います。

固定残業代=基礎時給×割増率×想定される残業時間
※(1)の式を残業未払額を0として、整理しただけです。

基礎時給(1時間あたりの賃金額を算出する)
(月給制の場合)
月の基礎賃金÷1か月の所定労働時間=基礎時給(1時間あたりの賃金)

割増率
法令通りです。法定(時間)外労働・深夜労働で25%以上

想定される残業時間
リアルなところの残業時間を設定しましょう。
設定の仕方としては、以下2パターンかと思います。

(1)1日あたりの残業時間を設定する場合

例えば、深夜労働
14:00~23:00(休憩時間1時間)所定労働8時間×月21日の勤務の場合、
深夜労働時間1時間×21日=月間想定残業時間21時間

(2)上限値を設定する場合

例えば、法定(時間)外労働
法定(時間)外労働時間数の原則上限は月45時間、年間360時間
年間360時間/12ヶ月=月間想定残業時間30時間

上記のような形で整理して頂ければ大丈夫です。

3.4 固定残業代を設定する際の注意点

固定残業代を設定する際の注意点は、2.の通知にある通り、明確区分性と差額支払の合意です。

明確区分性
残業代(時間外労働に対する賃金)と、通常の労働時間に対する賃金が、明確に区分されていることです。

どの割増賃金に対して、何時間分の手当として支払っているのか明記しましょう。
就業規則、労働契約書等に明記しましょう。

差額支払の合意
固定残業代を超える残業代が発生するときに、差額を払うという合意がされていることです。

割増賃金は全額支払うもの。固定残業代は予め固定の賃金を支払うことで手間を省いているだけであり、必ず全額支払いましょう。

4. まとめ

・固定残業代とは、一定時間の残業が想定される場合に、その時間分の残業代をあらかじめ固定給として支払う制度を指します。この制度は法律に定められたものではなく、正式名称も存在しません。想定される残業時間分の割増賃金を予め支払う制度であり、設定した残業時間を超えて働いた場合は、超えた分の残業代を別途支払います。

・固定残業代の計算方法は、基礎時給×割増率×想定される残業時間で求められます。基礎時給は1時間あたりの賃金額を算出し、割増率は法定(時間)外労働・深夜労働で25%以上となります。想定される残業時間は実態に即した残業時間を設定します。

・固定残業代を設定する際の注意点として、明確区分性と差額支払の合意が必要です。明確区分性とは、残業代と通常の労働時間に対する賃金が明確に区分されていることを指します。差額支払の合意とは、固定残業代を超える残業代が発生するときに、差額を払うという合意がされていることを指します。

今日の記事も、バックオフィス業務で奮闘する"貴方"の実務に、役立つ「リアル」で「すぐ使える」情報であると嬉しいです!

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