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『激怒 RAGEAHOLIC(2023)』を観ました。

理由もないのにぶん殴られたりしたとして「暴力はいけない」とか「やり返せば負の連鎖が止まらなくなる」などとは私は言えない。理由もなく殴られたとしたら「とりあえず同じくらいでぶん殴っとけ」とか思う。舐められて我慢すんな、後のことはまず殴ってから考ればいいとか思う。
今作は好きか嫌いかで言えば、「大好き!」でありました。

激怒すると見境なく暴力を振るってしまう悪癖を持つ刑事・深間は、度重なる不祥事により、海外の医療機関で怒りを抑える治療を受けることに。数年後、治療半ばで日本に呼び戻された彼は、街の雰囲気が以前とは一変していることに気づく。行きつけだった猥雑な店はなくなり、飲み仲間や面倒を見ていた不良たちの姿もない。そして町内会の自警団が「安全・安心」のスローガンを掲げて高圧的なパトロールを繰り返していた。やがて、深間の中にずっと眠っていた怒りの感情がよみがえる。

https://eiga.com/movie/93809/

今作はジャンル映画である。なので、登場人物のキャラクターが一定のパターンで動くことになります。
例えばホラー映画は怖い映画だし、スプラッタ映画は内臓が出たり首が飛んだりとかする映画だし、ヤクザ映画はヤクザが出てきてヤクザなことをするジャンル映画になります。
なのでこのバイオレンス映画にはかなりな暴力が出てきます。(逆にバイオレンス映画なのに暴力が出てこないと「なにやってんだよ、ちゃんと暴力を出せよ」って文句が出てくることになりかねない)
だから今作は殴ったり蹴ったりするし、人の骨が折れたり血が吹き出したり、最悪死んだりもします。受け付けない人は絶対に受け付けないタイプの作品であるだろうと思います。
だからそういう映像を見るのが苦手だったりする人は見ない方がいいし、現実と映画の区別がつかないような年齢の人は見てはいけないです。

フィクション=架空の出来事を想像的に描いた物語なのですから、それを理解した上で今作を「もう我慢ならねえ、やっちまえ!」などと熱くなって観るのがよいでしょう。
このような架空の物語に対して「青少年に悪影響だ」とかコンプライアンス(国が定めている法令を守ること)を出してくることこそ、今作が描いてる今の世の中の状況そのものに感じます。

観た人の感想を見てみると賛と否が順番に出てくるような感じでした。「最高!こういう映画を待っていた」の後には「暴力ではなにも解決しない、最悪」とか書かれている。これも今作で描いている内容的なものがそのまま出てきているようで興味深かったです。

私は見終わって ”かつてあったあの感じがある作品だ” と懐かしいような気持ちになりました。余計な言い訳のような後付けのものが一切なく、「行くとこまで行っちゃいましたけど、なにか問題でも」という潔さが気持ちよかったです。

さらに今作はジャンル映画であってそれだけに納まっていないのです。さらに今の世の中に対して問題提起的な内容まであるのでした。見終わってちゃんとなにかテーマ的なものが見た人に残るような作品なのです。最初の監督作品でこれはスゴいことであると思います。


80年代にオールナイトで夜中に映画を3〜4本見て、始発で帰ってくることがありました。それぞれが自分の描きたいものを描いていて(警察官がアル中になって銀行強盗するとか、老人からお金を騙し取った社長の隠れている部屋の窓壊して刀持って入ってくとか、テレビの中に手を入れたら銃になってるとか、強く念じたら相手の頭が爆発するとか)、そこで見た作品には「後から文句を言われないように辻褄合わせとこう」とか「炎上しないように但し書きを入れとこう」みたいな雑音は一切なくバカみたいに単純(褒め言葉です)で、もう心地良くなるくらい潔かったし、みんなでそういう作品を見て楽しんでいました。

日本ではもうそういう作品には出会えないのかと思っていたら、今作のようなひたすら好きなものを形にするような作品に出会えたのがうれしいです。小綺麗なシネコンで不謹慎なものをすべて取り除いてちゃんとバランスの取れた作品を見るのが「映画を観る」になってしまった現在ではありますが、本来映画ってのはもっと自由度が高かったし、意味不明の熱意があるいかがわしいものだったような気がする。

「先回りしてビクビク考えてないで、とりあえずやりたいようにやっちまえ」「そうでもしないともう今の時代に面白いもんなんでできやしないんじゃないか」企画・脚本・監督の高橋ヨシキさんは信用できる映画評論家でありアート・ディレクターだったので、よくぞやってくれたと思ったし、寝ぼけてきた目を覚ましてくれたような作品でありました。

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