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『アンテベラム(2020)』を観ました。

さて今作『アンテベラム』はジャンルとしてはホラースリラーの映画です。
最初「あらら、別の作品見てるのか?」となって見ていると、「ああやっと現代か、昔と違ってなんかいい時代になったって感じがするよなあ」となって、まあここからのお話が肝心であるので、ネタバレ厳禁です。絶対に前情報を入れないで見ないといけないタイプの作品ですね(なので予告は15秒バージョン)。

まず「アンテベラム(Antebellum)」っていい感じのタイトルだけど何かと思ったら「アメリカ合衆国の南北戦争前」のことなんだそうです。それで、南北戦争っていうのはアメリカの中で起きた内戦で、「黒人を奴隷して使い続けたい州」と北部23州との戦争です。
なので、アンテベラムというタイトルには、「昔は白人がまるで王様のように、黒人を奴隷として使ってた、そんな時代がありました」というような意味が含まれるようです。

『ゲット・アウト(2017)』(ジョーダン・ピール監督)という作品には驚きがありました。今まで普通にあったジャンルに別のものがプラスされることによって、なんだか今までなかった作品ができてしまったような新鮮さがあったのです。
今では黒人差別を扱った作品も増えているので、「黒人差別の何を描くか」ということプラス、「黒人差別をどう描くか」という『作品にどんな仕掛けがあるか』も注目されます。

映画で昔あった話を描くことがよくあります。
はじめは特別仕掛けもなく、「昔々こんなことがありました」というそのままの描き方だったと思います。次に考えるのは、今の私たちに無関係な話ではないと伝える描き方で、「昔のことを想い出してしまったわ」いう、昔の写真とか見て回想するような描き方(『タイタニック』とか)があります。
なにしろ作る側としては「ああ、知ってるよ昔の話だろ、今の私らにはそんな大事な話っていうわけでもないよね」とならないようにしたい、『どういう仕掛けで自分とは無関係と思わせないで見せるか』が大事になってきます。

私の中で黒人差別を扱った作品の注目度が上がったのは、ジョーダン・ピール監督からでした、今までも描かれてきた黒人差別のことを、「ああ、黒人差別なんて見飽きてるよ」ですまされない『仕掛け=工夫』みたいなものが足されていて、そこが面白かったし興味深かったのでした。

『アンテベラム』は『ゲット・アウト(2017)』『アス(2019)』のプロデューサーだったので観たのです(宣伝そのままに乗せられた)。ここでうれしい発見があったのは、今作の監督は長編デビューのジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ(ブッシュ&レンツ)監督(と脚本)がよかったです。映像も美しく、作品のテンポも作品の長さもお見事でした。

ずっとはじめから終わりまで「白人=黒人を差別する悪」という見せ方をすると、ほとんどの白人さんは見たくなくなるでしょう。そういう作品の中でのバランスがうまく取れてるというか、笑ってしまうようなキャラクターが出てきて楽しい部分があるのがよかったのです。
あまりに悲惨すぎて笑えないではなく、あまりに悲惨すぎて笑ってしまう描き方ができてるのがエンターテインメントなんではないかと思いました。
いや、笑うのは失礼かもしれないんですけど、必死になればなるほど笑ってしまうっていうのは、キャラクターがタフで強いってことかもしれません。見終わって悲惨さよりも強さが最後に残るっていうのがよかったし、それでこの監督が上手いと思いました。

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