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【映画】映画『窓ぎわのトットちゃん』

(イラストは丸尾風トットちゃんを描こうとしたけど難しかった)
『窓ぎわのトットちゃん』が映画のタイトルかと思ったら、本編中のタイトルに「映画」ってついてました。
原作は私の小学生時代の大ベストセラーで、私も途中まで読んだ記憶があります。
今回アニメーション映画が公開されると知って、なんで今さら……と思いましたが、劇場で予告を見て「面白いことは間違いなさそうだな」って思ってました。
原作や作者が最近特に話題になったというわけでもないので、流行ってるからというわけではなさそうだと(ネタ切れなんだろうとはちょっと思いましたが)。

そして公開されてみると、Twitterですごいとの声が見られるようになりました。
この流れ、『この世界の片隅に』『若おかみは小学生!』に通じるものがあります。
ということで、観てみました。
なるほどすごかったです。

原作は個性の強い女の子がそれを受け入れるトモエ学園で様々な体験をするというものだったと思いますが、映画はそこから以下のようなテーマを抽出しており、極めて普遍性・現代性・歴史性があります。

-少女が死に出会う
-戦前の豊かな暮らしが戦争によって暗く貧しいものに変わっていく
-自由・自主性・多様性を重んじる教育
-障害者に人として向き合うということ

また映像面では、非常に凝った描写と動きでありながらちょっと明るすぎるなって思わせたのですが、後半では暗くなっており意図的なものでした。
そして劇中挟まれるイメージシーンには「うわっこりゃすごい」と驚かされましたね。
特に最初のはサイケデリックそのもので、のちの黒柳氏の世界ってこういうものだったんだなあと思わせつつもドラッギーで、「ヤバい」感じがありました。
三つのイメージシーンは別の監督が作っているとクレジットされており、まるで『スパイダーバース』みたいなことやってます。
そしてさらにヤバいのが最後の「悪夢シーン」。
この辺から、寺山修司? 丸尾末広? というようなアングラ感のある映像やモチーフがちらちら出てきます。

あと、リトミックを教える場面があったりして、先進的な教育をするトモエ学園なので、戦前(つまりナチ時代)のドイツの影響も結構あったんだろうな……
と思ったり、ナチスから追放された音楽家が出てきたりで、戦前の西洋文化の受け入れぶりも垣間見えて興味深いです。
「英語ダメ」っていうのも戦前というより戦中のムーブメントだったわけですね。

以下はネタバレかな……

なんと! 東京が空襲を受けます! 焼夷弾の雨あられです!

といういつもの冗談はさておき、悲劇的なクライマックスシーンでは悲しみの描写というより、戦争という状況で否応なく見せつけられる死や暴力の恐怖が重なって描かれます。
ここは、現代の世界的な映画監督がやってもおかしくないであろう演出・映像だと思いました。
こりゃー一流だなと。
そして「丸尾末広の漫画で見たやつ……?」っていうイメージがいくつも出てきて驚きました。
丸尾末広は80年代から活躍した漫画家なので、その元になったイメージは、寺山修司とか横尾忠則とか、さらにその元ネタというのもあって、本作が参照したのがどのへんのものかはよくわかりません。
戦争の闇みたいなものをアングラ風味の映像で見る、なんてことがこういうアニメ映画であるとは思わなかったので驚きました。

本作のもう一人の主人公である校長の小林先生ですが、こんなに終始いい人でいいんだろうか……
と思ったら、ラストでは少し狂気をたたえた姿を見せました。
ナレーションではそんな解釈を全然してなくて、最後までいい人、立派な人として語られていたのですが、そこに一抹の狂気があった…… との表現はすごいです。
トモエ学園が完膚なきまでに破壊されるシーンも執拗に描いており、このあたりは全体にどことなくデーモニッシュな雰囲気なんですよね。
宮崎駿の最高傑作『風立ちぬ』に通じるものがあったかもしれません。

こうして死に出会ったあとのトットちゃんは、弟を得て生命のはじまりにも出会うこととなり、小林先生の思いを受け継ぐのだなと思わせて終わります。
ハッピーエンドでもデッドエンドでもない、少し暗い、でもきちんと希望のある終わり方でしたね。

『この世界の片隅に』ほどとは言えないまでも、同じ戦中ものでありながら東京の裕福な家族というまったく別の道具立てで戦時生活を体感させられる大変すぐれた作品でした。


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