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イノベーションのためのユーザー調査とは?『UXリサーチの道具箱』を読んでみた【#004】(後編)

こんにちは!
LOCAL LOGITEXの佐藤慶樹(けいき)です。

前回に引き続き、【読んでみたシリーズ】の第4弾として楢本徹也氏の著書『UXリサーチの道具箱』をご紹介します。


1.ジャーニーマップ

事業構築、特にマーケティング分野で活躍されている読者の方であれば「カスタマージャーニー」というワードは日頃から使用されていると思います。

前編で触れたとおり、プロダクトを利用するユーザー像をペルソナ(Personas)と言いますが、そのペルソナの体験をマッピングしたものが「ジャーニーマップ(Journey Map)」です。

ジャーニーマップはユーザー体験を可視化して、開発チーム内の議論を促進し、ターゲットユーザへの理解を深めてくれます。

引用:楢本徹也. UXリサーチの道具箱ーイノベーションのための質的調査・分析ー (p.93). 株式会社オーム社

ちなみに弊社LOCAL LOGITEX事業の立ち上げ当初、ジャーニーマップを下図のように作成しました。

LOCAL LOGITEXのジャーニーマップ

このようにステージ(上の場合『認知→情報収集→商談/検討→契約→共有/継続利用』)は顧客の調査データに基づいて定義するものですが、「消費者行動モデルを適用できる場合もある」と著者は説いています。

ここで代表的な消費者行動モデルを3つ挙げます。

(1)AIDMA(アイドマ)
AIDMA(アイドマ)は1920年代にアメリカで提唱された古典的な消費者行動モデルと言われています。

消費者は、①まず商品の存在を知り(Attention)、②興味を抱き(Interest)、③欲しいと思うようになり(Desire)、④商品の名前を記憶して(Memory)、⑤それを購入する(Action)というものです。

①Attention(注意)
②Interest(関心)
③Desire(欲求)
④Memory(記憶)
⑤Action(行動)

(2)AARRR(アー)
AARRR(アー)は、デジタル時代の代表的な顧客ライフサイクルモデルと言われています。

オンラインサービスの顧客は、①まずはWebサイトを閲覧して(Acquisition)、②サービスを利用するために登録して(Activation)、③反復利用するようになり(Retention)、④さらに課金サービスを利用するようになり(Revenue)、⑤SNS等で知人・友人にサービスを紹介する(Referral)

引用:楢本徹也. UXリサーチの道具箱ーイノベーションのための質的調査・分析ー (p.93-94). 株式会社オーム社

①Acquisition(ユーザー獲得)
②Activation(ユーザー活性化)
③Retention(継続)
④Revenue(収益化)
⑤Referral(紹介)

(3)AISAS(アイサス)
AISAS(アイサス)は2004年に広告代理店の電通により提唱された消費行動プロセスです。本書には掲載されていませんが、Eコマース時代には欠かせないフレームワークですので、この場でご紹介させていただきます。

①Attention(注意) – プロダクトの存在を認知する
②Interest(関心) - プロダクトに興味・関心を持つ
③Search(検索) - パソコンやスマホでプロダクトを検索する
④Action(行動) - 実際にプロダクトを購買する
⑤Shere(共有) - プロダクトの情報を共有する

インターネットが一般的になったことで”共有”や”紹介”しやすいビジネス環境となり、AARRR(アー)やAISAS(アイサス)といった消費者行動モデルが登場してきました。

2.ジョブ理論

個人的に本書でもっとも感銘を受けたのはこの部分でした。

製品やサービスの開発にとって「顧客ニーズの把握」は最大の課題です。
ただ、作り手は往々にして顧客ニーズを近視眼的にとらえがちです。

マーケティングの大家であるセオドア・レビットは「人はドリルが欲しいのではない、『穴』を開けたいのだ」と戒めていますし、「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」というヘンリー・フォードの格言もよく引用されます。

それにもかかわらず、私たちは「より良いドリル」や「より良い馬車」を作ることに心血を注いでしまいがちです。その結果、例えば「馬車」は「自動車」というイノベーションに駆逐されました

引用:楢本徹也. UXリサーチの道具箱ーイノベーションのための質的調査・分析ー (p.108). 株式会社オーム社

名著「イノベーションのジレンマ」で有名なクレイトン・クリステンセンは、本質的な顧客ニーズ(ドリルではなく穴)に注目することこそがイノベーションの源であるとして、『ジョブ理論』を提唱しました。

「人は”片付けるジョブ”のために製品やサービスを雇う」という有名な一節がありますが、例えば、人は「穴を開ける」ために「ドリル」を雇います。
当然のことのようですが、これを理解できるか(=顧客ニーズを的確に把握できるか)が、プロダクト開発に大きな差を生むことになる
と思います。

ジョブ理論について詳しく知りたい方は是非こちらも読んでみてください!

3.ビジネスモデル・キャンバス

ビジネスモデル・キャンバスは、ビジネスを構成する重要な9つの要素を1枚のシートで可視化し、ビジネスモデル(収益構造)を理解するフレームワークです。

出典:Wikipedia

顧客セグメント(CS):誰のために価値を創造するのか?
価値提案(VP):顧客にどんな価値を提供するのか?
チャネル(CH):どのような経路で顧客にリーチ、デリバリーするのか?
顧客との関係(CR):顧客とどのような関係性を構築するのか?
収益の流れ(R$):顧客は何にお金を払うのか?
リソース(KR):価値提案を実現・実行するために必要なリソースは何か?
主要活動(KA):価値提案を実現・実行するために必要な活動は何か?
パートナー(KP):内部で賄えない活動やリソースを提供してくれるサプライヤーは誰か?
コスト構造(C$):主なコスト要因は何か?

引用:楢本徹也. UXリサーチの道具箱ーイノベーションのための質的調査・分析ー (p.124-125). 株式会社オーム社

一見複雑ですが、
左側3項目は「実現性(作れるか?)」、
右側3項目は「市場性(売れるか?)」、
下側2項目は「持続性(儲かるか?)」
を表していると著者は言っています。

新規事業を立ち上げる際には、ぜひ使ってみたいフレームワークですね!

4.バリュープロポジション

ビジネスモデル・キャンバスの他にも、本書ではバリュープロポジション・キャンバスというフレームワークも紹介されていますので、興味のある方はぜひ本書を手に取って見てください。

ここでいうバリュープロポジションとは「①顧客が望んでいて、②競合他社は提供できず、③自社が提供できる」ようなプロダクトアイデアだと著者は言っています。

出典:株式会社VALUE PROP様Webサイト

ただし、著者は「キャンバスは”絵に描いた餅”にすぎない。会議室で話し合ったことはすべて仮説であり、検証しなければ意味がない」と指摘しています。

そのためには「オフィスを飛び出す」必要があります。
(中略)
顧客にバリュープロポジションを提示してみましょう。
簡単なプロトタイプを作って顧客に使ってもらいましょう。
小さな製品を作って小規模に販売しましょう。
顧客からのフィードバックを得ながら製品を成長させましょう。

そして、もし途中で仮説が棄却されたら、すぐに方針転換して、新たな仮説が検証されるまで繰り返しましょう。

このような開発手法を『リーン・スタートアップ(Lean Startup)』といいます。現代の製品やサービス開発は、全体設計図を完璧に描いてからおもむろに取り掛かるのではありません。仮説と検証を繰り返しながら少しずつ積み重ねていくのです。

引用:楢本徹也. UXリサーチの道具箱ーイノベーションのための質的調査・分析ー (p.134). 株式会社オーム社

Facebookが最初はハーバード大学の学生限定で始まったように、
Amazon.com が書物だけを取り扱うオンライン書店から始まったように、
NETFLIXがオンラインでのDVDレンタルサービスから始まったように、

小規模に始めてスケールしていくには「顧客のフィードバック」が欠かせないことを本書を通じて学ぶことができました。

リーン・スタートアップをもっと知りたい方はこちらも合わせてお読みください!

5.後編まとめ

  • ターゲットユーザへの理解を深めるため、ユーザー体験を可視化してジャーニーマップを作ってみよう!

  • ジャーニーマップ作成には消費者行動モデルを参考にしてみよう!

  • ジョブ理論を意識できるかがプロダクト開発の大きな差に!

  • 実現性、市場性、持続性がひと目でわかるビジネスモデル・キャンバスを活用しよう!

  • 仮説を終えたらオフィスを飛び出し、リーン・スタートアップで検証しよう!

6.最後に

さて、今回は2週にわたり楢本徹也氏の『UXリサーチの道具箱』をご紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

また、前編でもご紹介した続編『UXリサーチの道具箱II ―ユーザビリティテスト実践ガイドブック―』もおすすめですので、あわせてお読み頂ければと思います。
本書のテーマは「調査手法」でしたが、Ⅱでは「評価手法」をテーマにしており、こちらもとても興味深い内容になっています。

「他にもこんな本を紹介してほしい!」、「こんなことを記事にしてほしい!」などのリクエストはもちろん、サプライチェーンを構築するうえで少しでも課題や不安をお持ちの方はぜひ、こちらのページからお気軽にお問い合わせください!

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