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ムジカント兼ブーランジェリー。ホントは声楽、ピアノ&音読講師。歌い手。60年続…

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ムジカント兼ブーランジェリー。ホントは声楽、ピアノ&音読講師。歌い手。60年続く随筆同人誌「蕗」同人。3ヶ月に一度はエッセイスト。

最近の記事

【エッセイ】「いつも楽しませてくれる」

 恵方巻だ、立春だと私たちが浮かれていた頃、小澤先生が逝く。  その日が近い未来であることをみんな知っていたのに、やはりこの世がレクイエムとなった。  あの日以来、私のSNSには小澤先生の映像や音楽が溢れ出し、それを無視することができず見入ってしまって、かなり寝不足の日々。それでなくても今月はいつもより数日少ないのにである。  映像で印象的だったのは、サントリーホールで行われた小澤先生の還暦祝賀コンサート。世界中からお祝いの為に音楽家が集まって、とても華やかな会だった。私もそ

    • 【エッセイ】向田邦子と私

       11月3日、文化の日、地元の図書館で年に3回依頼されている『おとなの朗読会』の本番であった。  5年前のその日がこの会の第1回だったようで、5年に及ぶ我々が朗読してきた書籍の展示や、過去のプログラム、過去の写真などが壁いっぱいに展示されていた。私が朗読した作品を見てみると、「困ったときの向田邦子」というか、向田エッセイがとても多かった。そしてその当日も、私は向田邦子の『胸毛』を朗読したのであった。  向田邦子の魅力は1口には語れない。昭和と言う時代の家族の描写、人間に対す

      • 【エッセイ】北海道のキレンゲショウマ

         朝ドラ「らんまん」を楽しみに視聴していた方は少なくないと思う。私もその1人。第20週のタイトルは「キレンゲショウマ」で、私は母の庭でモリモリと繁殖していたその花のことを印象的に思い出していた。  ある時、茶席に生けられた見慣れない可憐な花に、客人たちは釘付けになったと言う。可愛い可愛いと評判だったそうだ。その日、正客を仰せつかっていた母は、皆を代表してご亭主に質問をした。ご亭主は「キレンゲショウマ」と答えたという。  その可憐な姿に魅せられた母は、早速それを取り寄せて自宅

        • 【エッセイ】美声の人

          ゴールデンウィーク前半、私は北海道に帰省していた。生まれた街では、高校の同級生たちが手を広げ、私の帰省を待ってくれていた。『蘭亭、5時半』。主語も述語もない、シンプルなメッセージ。「どこに行く?」でも「何を食べる?」でもなく、突然の『蘭亭、5時半』。これほど楽な人たちもいない。それぞれの置かれた立場でそれぞれに心を配りながら、自分の役割を果たし、日々を過ごしている仲間とのたわいない会話は、これ以上ない豊かな時間であった。 さて、今回の帰省の目的は法要であった。 ご長男に住職

        【エッセイ】「いつも楽しませてくれる」

          【エッセイ】ナナロク社のこと

           2月最初の祝日、私はお気に入りブックカフェでのイベントに参加するため、嬉々として電車に乗っていた。お気に入りブックカフェ『本屋イトマイ』で、お気に入り『ナナロク社の造本展』が開催されていたのである。  ナナロク社をご存じだろうか。  それは2008年創業の小さな出版社でその代表は76年生まれ、主に詩集や歌集、それはそれは素敵な美本を何冊も世に送り出している小さな会社だ。ナナロク社を象徴する一番の本は、何といっても谷川俊太郎の詩集「あたしとあなた」だと思う。この本のために

          【エッセイ】ナナロク社のこと

          【エッセイ】三大ダメばなし

          「自慢話、昔話、説教話」。  これは、先輩方が若者にしてはいけない「三大ダメばなし」だそうである。これを聞いた時、私は思わず膝を打った。確かに「自慢話、昔話、説教話」を(そしてそれが長ければ長いほど)する先輩方は嫌われる。意地悪な私と、意地悪な私の友人は「そういえば〇〇さんは自慢話が多くて嫌われてるよねぇ」などと噂話(これもどうかと思うが)をしていたのだった。  先日のこと、ご敬愛申し上げるC先輩が、あるコミュニティで「私は最近ここで、なぜか昔話ばかりしておりますが」とおっ

          【エッセイ】三大ダメばなし

          【エッセイ】ストーリーを紡ぐ

           私の手元に、古い日傘がある。  その女性物の日傘は、現代に比べてかなり小ぶりな作りで、骨の数が多い。藍染の木綿の布が貼ってあり、模様が白抜きになっているのだが、あまりの経年劣化で、白色が日に焼けて茶色になっている。持ち手は竹で、こちらも経年により、なんとも言いようのない味を出していた。中棒も、気のせいではなく確実に、若干曲がっている。これは、50年近く前に亡くなった祖母のもので、祖母亡き後、母が使っていたが、そのうち、母が日よけに帽子をかぶるようになり、使わなくなったので

          【エッセイ】ストーリーを紡ぐ

          【エッセイ】佐藤浩市の魅力

           友人と、佐藤浩市が良い、という話になった。そう、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』である。  そうでしょう、そうでしょう。佐藤浩市は、良いのである。  ナマ佐藤浩市に、お目にかかったのは何年前だったか。映画会社に勤める友人から、試写会のお誘いがあった時、登壇する俳優が佐藤浩市と聞いて、よだれをたらしながら会場へ向かったのである。気を効かせた友人が、真ん前の真ん中に席を確保してくれていた。興奮しながら待ち構える私の前に、すっくと立った佐藤浩市。若干開いた私の口が、しばらく閉じるこ

          【エッセイ】佐藤浩市の魅力

          【エッセイ】55分の意味するもの

           「面会は10分だけ」そう言われていました。10分で何を話そう。話せるのかな、と思いつつ、早朝の便に乗りました。飛行機は異常に早く千歳空港に着陸し、あまりに早く、生まれた街の駅に着きました。病室に入ったのは、11時半。母は軽い寝息をたてながら、気持ち良さそうに寝ているようでした。声をかけ、ハンドマッサージをしました。起きる気配がないので、ちょっとつねったりもしてみました。歌の方が強いと思い、それからマッサージをしつつ歌い続けました。  どなたも呼びにいらっしゃる気配はなく、た

          【エッセイ】55分の意味するもの

          【エッセイ】本当の応援

           「カフェは大人の保健室」と疑わない私には、いくつかのお気に入りカフェがある。そのひとつには、昨年のステイホームの開けた5月末に、はじめて訪れた。  その日は久々に、同じマンションの友人に誘われて、買い物に出掛けた。彼女の車でスーパーをはしごした後、80日ぶり位にカフェに行こうという事になったが、なかなか通常営業している店が無かった。こだわりの強い女子2名は、今更ファミレスやファストフード店でお茶を濁す事はしない。それをする位なら、自宅でひとり、珈琲を淹れるのだ。  記憶の片

          【エッセイ】本当の応援

          【エッセイ】米寿の神様

           朗読セミナーに通って、丸6年にもなる。「にもなる」のに、ほとんど上達しているように思えず、我ながら悲しい。歩みは牛歩の如くというより、ハシビロコウのようだ。  ハシビロコウが6年も、ピタリとくっつき、教えを乞うているのは、「ナレーションの神様」と呼ばれる矢島正明先生である。神様は昨年4月、米寿をお迎えになっていた。日本人ならこの神様の御声を、知らぬ者は無いと思うが、念のため、石橋を叩いてみる事にする。  テレビ映画「0011ナポレオン・ソロ」のロバート・ボーンや、「スタート

          【エッセイ】米寿の神様

          【エッセイ】氾濫

           下手(しもて)から車椅子で登場したその人の姿に、動揺がなかったといえば嘘になる。その人は立ち上がり、ピアノ前で微笑みながらゆっくりお辞儀をした後、「6月から車椅子を使っています」とおっしゃった。  緊急事態宣言も解除となった10月の日曜日、長野県の小海町、湖のほとりに建つヤルヴィホールへ向かったのは、舘野泉さんのリサイタルを聴くためである。柿落とし以来毎年、舘野さんはここでピアノリサイタルを開催してきた。20年ほど前に御病気をされた時、1年だけお休みされたが、翌年には復活。

          【エッセイ】氾濫

          【エッセイ】御殿と料亭と私

           Facebookで、岡山県在住のKさんとお友達になった。共通の友人に、倉敷市在住のT医師がいる。  「普通以下のおばさんですが、よろしく」と自己紹介メールを送って下さったので、私もT医師との御縁などをからめ、自己紹介をメールさせていただいた。  音楽家でもあるT医師とは、世界的尺八家でいらした故横山勝也先生を通じて知り合った事、声楽専攻だった私は、学生時代、日本の音楽にも精通していたいとの思いから、尺八を勉強していた事。横山先生は「自給自足で、大自然の中、修行出来る場を作り

          【エッセイ】御殿と料亭と私

          【エッセイ】それは物語

          「人は物語が聴きたいの」  時々想い出す、恩師ヴィヴィアンの言葉です。  ヴィヴィアン・マッキーは、1931年生まれ。カザルス最後の弟子と言われた人で、スコットランド人。天才少女との噂も高かったチェリストでしたが、同時代にジャクリーヌ・デュプレという人がいらして、天才少女は二人もいらないと、教育者となった人物です。カザルスの言葉を、世界中の若者に伝えていました。  その日は東京でのマスタークラスで「人は何を求めてコンサートに行くのか」がテーマでした。数人の若手音楽家が集まって

          【エッセイ】それは物語

          いよいよ書いてみようかと

          お友達の投稿を見る為だけに使っていたnote。 せっかくなので、随筆同人誌【蕗】に掲載して頂いたエッセイを中心に、書いていきたいと思います。 どうぞ宜しく!

          いよいよ書いてみようかと