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最新の実証経済学をどう使う?:『経セミ』2020年10・11月号の参考情報

『経済セミナー』2020年10・11月号が、9月26日に発売になりました! 今号は、特集記事の大幅なボリューム増で経済学の実証分析の最前線に迫る、渾身の一冊となっています。ここでは、特集の主な内容と、参考になる書籍やウェブサイトなどの関連情報をあわせてお伝えしたいと思います。

本号の特集タイトルは「変貌する経済学:実証革命が導く未来」です!

■特集の全体像

なんだかすごいタイトルですが、政策やビジネスの現場でもその活用に注目が集まる「実証経済学」にぐっとフォーカスした内容になってます。

特集は、以下のように構成されています。因果推論アプローチや構造推定アプローチ、フィールド実験など、さまざまな実証分析の近年までの動向を第一線の研究者たちがどのように捉えているのか、また、さまざまな実証分析の手法がどのように活用されているのかがじっくりと解説されています。

【特集= 変貌する経済学:実証革命が導く未来】
・鼎談:実証革命が切り拓く、経済学の新地平……奥井亮×伊藤公一朗×依田高典
・因果性・異質性・ターゲティングの経済学……依田高典
・限界介入効果分析入門:観測されない異質性に迫る因果推論アプローチ……柳貴英
・経済理論によるデータ分析……黒田敏史
・実証環境経済学のフロンティア……有村俊秀
・ランキング構築のための統計的推論:社会選択理論と計量経済学の架け橋……奥井亮
・経済学の理論と実証に基づいた電力市場のデザイン……伊藤公一朗

■鼎談:実証革命が切り拓く、経済学の新地平

冒頭の鼎談では、ソウル大学の奥井亮先生、シカゴ大学の伊藤公一朗先生、京都大学の依田高典先生にご登場いただきました。「今日の実証経済学を発展を支える根底にあるのはどんな研究だったのか」というテーマからディスカッションが始まります。

奥井先生は2020年の日本経済学会中原賞を、伊藤先生は同年の日本経済学会石川賞を受賞されています。そのお二人のこれまでの歩みを振り返り、実証経済学の発展の中でどのように位置づけられるのかについても語っていただきました!

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お話の構成は次の通りですが、鼎談ではさらに、2019年にノーベル経済学賞を受賞したバナジー、デュフロ、クレマーらが大きく発展させたフィールド実験研究をめぐるさまざまな議論や、最近の機械学習と経済学の融合をどう評価するかについても、熱い議論が展開されています。

1 はじめに
2 現代の実証経済学を支えるもの
3 二人のこれまでの歩み
4 フィールド実験研究をどう評価するか
5 機械学習は経済学に革命を起こすのか
6 おわりに:経済学への誘い

本誌とあわせて読むと効果的な一冊としては、本誌特集よりも幅広く最新の実証経済学の動向を解説した『[新版]進化する経済学の実証分析』です。

この本には、奥井先生が「鼎談:実証分析が切り拓く経済学の未来(奥井亮 × 川口大司 × 古沢泰治)」に、伊藤先生が「インタビュー 経済学における実証分析の新たな潮流」にそれぞれ登場されています。本誌とあわせてお読みいただくと、経済学の実証研究の流れが非常によくわかると思います!

鼎談で議論されているランダム化比較試験(RCT)の実践、フィールド実験については、2019年ノーベル経済学賞を大きく取り扱っている『経セミe-book no.17 貧困削減のこれまでとこれから』をぜひご覧下さい!

加えて、上記に収められた2019年ノーベル経済学賞の解説記事をご執筆いただいた一橋大学の手島健介先生による、追加情報をまとめた以下のウェブ付録にも情報が満載です!

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さらに、本誌にご登場いただいた依田先生、伊藤先生とGRIPSの田中誠先生たちが中心となって進められた電力消費に関する大規模なフィールド実験研究をまとめた書籍として、以下の本も参考になります。さらに、依田先生研究室が運営する以下のウェブサイトにもさまざまな情報がアップされています。

鼎談の後半で議論される経済学における機械学習の応用についての解説としては、『経セミe-book no.15 機械学習は経済学を変えるのか?』が参考になります。この中で、依田先生に「経済分析のツールとしての機械学習」を執筆いただきました! こちらでも、経済学での機械学習の応用例を具体的に見ることができます。

また、スタンフォード大学のエイシー先生とインベンス先生による次の解説論文も有用です!
Athey, S. and Imbens, G. W.(2019)"Machine Learning Methods That Economists Should Know About," Annual Review of Economics, 11(1): 685-725

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また、実証経済学が現在のように発展することになった背景として重要な論文として、伊藤公一朗先生が以下の3つを挙げ、本誌でそれぞれ解説しています。いわゆる「ルーカス批判」の論文、RCTと当時の計量経済学的分析結果を比較してRCTの結果が再現できなかったことを示した論文、操作変数法で何を推定しているのかを理論的に改めて定義した論文です。

Lucas, R. E. (1976) "Econometric Policy Evaluation: A Critique," Carnegie-Rochester Conference Series on Public Policy, 1(1): 19-46.
LaLonde, R. (1986) "Evaluating the Econometric Evaluations of Training Programs with Experimental Data," American Economic Review, 76(4): 604-620.
Imbens, G. W. and Angrist, J. D. (1994) "Identification and Estimation of Local Average Treatment Effects," Econometrica, 62(2): 467-475.

■因果性・異質性・ターゲティングの経済学

続いての記事は、依田先生による最先端の実証経済学で活用が進む手法として、「限界介入効果」「コウザル・フォレスト」「経験価値最大化」の3つの手法を、ご自身の研究プロジェクトの成果に基づく具体例も交えて解説します。

実証経済学にもさまざまな進展がありますが、ここではビッグデータや機械学習の活用などにより進展する手法に着目しています。政策介入をするグループの平均的な因果効果からさらに進んで、介入対象対象ごとに異なる効果をデータから見出すことで、より効果的な対象に介入するターゲティング政策を考えていくという方向で解説が進んでいきます。

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本稿では先進的な3つの手法の概要と具体例を解説していますが、そのうち限界介入効果コウザル・フォレストについては、依田先生たちが執筆された以下の2つの論文で、より詳細が解説されています。本誌とあわせて、ぜひご覧ください!

嶌田栄樹・依田高典「因果性と異質性の経済学①:限界介入効果京都大学大学院経済学研究科ディスカッションペーパー。
石原卓典・依田高典「因果性と異質性の経済学②:Causal Forest京都大学大学院経済学研究科ディスカッションペーパー。

■限界介入効果分析入門:観測されない異質性に迫る因果推論アプローチ

次の記事は、京都大学の柳隆英先生による、限界介入効果分析のより詳細な解説です。こちらでは、具体的な推定の方法と理論的な背景を解説しています。

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また、限界介入効果を推定するための統計解析ソフトのパッケージとして、以下が紹介されています。まず、Rのパッケージとしては、「ivmte」「localIV」。

Stataでは「margte」「mtefe」。

また、限界介入効果に関するさらなる参考文献としては、以下の3つが紹介されています。

Cornelissen, T. et al. (2016) "From LATE to MTE: Alternative Methods for the Evaluation of Policy Interventions," Labour Economics, 41: 47-60.
Heckman, J. J. and Vytlacil, E. J. (2007) "Econometric Evaluation of Social Programs, Part II: Using the Marginal Treatment Effect to Organize Alternative Econometric Estimators to Evaluate Social Programs,and to Forecast their Effects in New Environments,"  Handbook of Econometrics, 6, Part B: 4875-5143.
Mogstad, M. and Torgovitsky, A. (2018) "Identification and Extrapolation of Causal Effects with Instrumental Variables," Annual Review of Economics, 10: 577-613.


■経済理論によるデータ分析

次は、東京経済大学の黒田敏史先生による記事です。実証分析を行う際になぜ経済学の理論モデルが重要となるのか。この点を、「需要と供給をデータから推定する」ことを題材に、経済モデルを考慮しない分析例との比較をしながら、その優位性を解説していきます。構造推定アプローチへの入門的な解説になっています!

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本稿では、静学的な価格理論に基づく需要と供給の推定を扱っていますが、ゲーム的状況を捉えたモデルや動学的なモデルについても構造推定アプローチは適用されます。それらの応用例や発展的な手法が学べるものとして、以下の2冊が紹介されています!

ビジネスや競争政策の現場で活用される経済学の動向や、それを支える実証産業組織論を幅広く概説するのが『進化するビジネスの実証分析』です(紹介noteもあります)。部分識別入門』は、近年経済学で応用が進む発展的な手法をじっくり解説した書籍です。

また、部分識別のアイデアをエピソードを交えて平易に解説した書籍=マンスキー著データ分析と意思決定理論も話題ですね!

■実証環境経済学のフロンティア

次は、早稲田大学の有村俊秀先生が、近年の環境経済学における実証分析の動向を、テーマと手法について概説します。環境経済学の分野は初期は理論研究が中心だったものの、最近では実証研究のシェアが非常に増えています。そこでは、ICTの発展とともにさまざまなツールを活用した研究が蓄積され、因果推論アプローチも構造推定アプローチも用いられ、豊かな研究成果が次々と生み出されていて、本稿ではそれらを概説しています。

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ここでは、最近の環境経済学における実証研究のより詳細な解説として、『環境経済学のフロンティア』が紹介されています。企業の活動、消費の活動と環境問題にまつわる研究や、国際的な課題としての環境問題、途上国における環境問題や資源管理の4つをテーマに、じっくりと議論されています。

■日本経済学会中原賞、石川賞講演から

さらに、この特集では鼎談にご参加いただいた奥井先生と伊藤先生に、2020年5月31日に開催された日本経済学会春季大会での中原賞・石川賞の受賞講演でのお話をもとにした解説記事をご寄稿いただきました!

奥井先生には、坂井豊貴(著)『社会的選択理論への招待』を読んでいて研究の着想を得たという「ランキング構築のための統計的推論」について解説いただいています。巷にはランキングが溢れていますが、そのランク付けが本当に正しいものなのか、現実のデータに基づいて統計的に検証する手法を提案しています。具体例として、プロ野球パリーグの勝敗ランキングが、実際にチームの実力を反映した真のランキングといえるのか否かを、データに基づいて検証しています。

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伊藤先生には、自由化と関連して「電力市場」をどのように整備するかを実証的に分析した研究や、近年のエネルギー分野の経済学の動向を、背景となる制度から紹介します。電力の自由化は発電費用や電力価格を期待通りに引き下げるのか否かに着目した研究を紹介しつつ、議論を整理して解説しています。

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■おわりに

以上、「実証経済学の今」に注目した『経セミ 2020年10・11月号』の特集、「変貌する経済学:実証革命が導く未来」の概要と参考情報をざざっとまとめてみました。

今日にいたるまで、経済学がどのように発展してきたのか、なぜビジネスや政策の現場で経済学が着目されるようになったのか、現場では経済学はどのように使われているか、経済学にとってそのメリットやデメリットはどこにあるのか、といった話題にも触れています。

他に、シリーズ「新型コロナと経済」や連載などなど、おもしろくて有用な記事がたくさん掲載されていますので、ぜひ本誌をご覧いただけたら嬉しいです!


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