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第26話:喫煙者はせっかちで、ギャンブルが好き!?

前回のおさらい

人間の頭の癖を利用したマーケティング手法をお話してきました。単純接触効果やバンドワゴン効果など有名なものばかりお話してきました。こうした心理学を使ったマーケティングの流用は日常生活に潜んでいるのでそれを顕在化することでマーケティング脳を養うことをおすすめしました。
今回は、最新の経済学の中の1つの行動経済学をご紹介します。

経済学の限界を突破しようとする学問

前回まで、経済学は、人間を「経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動する」と言う“ホモ・エコノミクス”としてしか捉えないので、マーケティングないしは、マーケットには適応しづらいということをお話しましたが、その限界を突破しようとしている学問があります。
それが、「行動経済学」です。

2002年にダニエル・カーネマンと言う、一心理学者が経済学の分野でノーベル賞を受賞したことはとても画期的なことです。
このダニエル・カーネマンは「行動経済学」を確立した学者です。

感情的な行動、非合理的な行動を人間はとってしまいます。これまでの経済学は合理的な行動をする“ホモ・エコノミクス”が経済学の登場人物でしたが、これからは感情的かつ非合理的な人間が経済学の登場人物として活躍するそんな経済学が「行動経済学」です。

喫煙者はせっかちで、ギャンブルが好き!?

「喫煙者はせっかちで、ギャンブルが好き!?」
こんな例が行動経済学の中で出されることが多いと思います。
「俺は、せっかちでもないしギャンブルはしない!」という人がいると思います。
行動経済学的に喫煙を分析するために、大切なことは個々人の「多様性」をモデルに取り込むことや、「選好」をモデルに取り込むことを大切にしています。
まずは、多様性の導入ですが、タバコの価格が600円に値上がりする場合、ニコチン依存度によって禁煙が成功できる割合がそれぞれ異なります。

合理的嗜癖モデル

行動経済学では、「合理的嗜癖モデル」という考え方で分析をしていきます。タバコを例とした、合理的嗜癖モデルを説明すると、タバコを吸う人は依存性があることだったり嗜癖製であった利することを理解した上で喫煙しているという考え方です。この合理的嗜癖モデルは、消費行動研究に大きな影響を与えました。

しかし、最新の研究では否定されつつあるようです。「喫煙者は、合理的に考えて現在のリスクを受け入れているのではなく、嗜癖に陥ってしまったことを『後悔』しているのではないか」というように嗜癖行動を「限定合理的」に捉える考え方が出てくるようになりました。(これは後ほど説明していきます!)

さて、喫煙者の行動モデルの説明方法として以下の2つの例が研究されました。
・「喫煙者の時間上の忍耐度が低い。」
・「リスクへの慎重度が低い」
これらを見ていくことで、喫煙者がせっかちで、ギャンブルが好きだということがわかっていくと思います。

時間選好率の高い喫煙者

時間上の忍耐度とは経済学で言う時間選好率のことを指します。ある実験で、喫煙者と非喫煙者で調査をしたら、喫煙者は「1週間後に200円もらえる」ことよりも「今すぐ100円もらえる」方を選ぶ人が多かったのです。1週間待てば100円多くもらえるのに、なぜか今すぐもらえる方を選んでしまいます。要するに、金額より今すぐ手に入れるということを好むようです。

リスクへの慎重度が低い喫煙者

リスクへの慎重度とは経済学で言うところの危険回避度を指します。これもある実験で、喫煙者は「絶対に100円もらえる」ことよりも「50%の確率で200円もらえる」方を選んでしまう傾向にあります。これは、期待値が同じで、0円になる可能性を秘めているのにも関わらず多い金額を求めてしまう傾向にあるということが研究でわかっています。

喫煙者の経済心理

先程のモデルを利用して喫煙者の心理を理解しようと思います。喫煙者は将来の健康を犠牲に現在の嗜好を優先させるならば、喫煙者のほうが非喫煙者より、時間選好率が高いとまとめられます。

20年後の健康<今の嗜好

喫煙が将来の疾病の危険因子の1つであると考えるのならば、喫煙者の方が禁煙者よりも危険回避度が低くなります。

がんのリスクが10%以下<がんのリスクが50%以上

つまり、喫煙者は、時間選好率が高く、危険回避度が低いので、ギャンブルが好きなのではないかという結論に到ることが可能になるのです。

実際の喫煙者と非喫煙者の実験結果

実際に行われた喫煙者と非喫煙者の実験結果を見てみましょう。

1年後どれぐらいのリターンがあれば今もらえる100円より1年後を選ぶのかというアンケートと、確実にもらえる100円と等価な確率50%の価値、ようするにどれぐらいの金額をもらえるのであればギャンブルにチャレンジするのかという金額をアンケート取っています。

見ての通り、ニコチンの依存度が高いほど、時間選好率が高く、危険回避度が低いことが実験によって明らかになりました。

実は、驚くのはそれだけでなく、過去に喫煙していたが現在は喫煙していないもののほうが、生涯非喫煙者よりも時間選好率が低く、危険回避度が高いことも調査結果で分かった。
もしかしたら、禁煙成功体験が人間を忍耐強くするのかもしれません。

しかし、この実験で注意をしなければいけないのは、この調査は、時間線効率が高い、危険回避度が低いという衝動的な選好が喫煙の「原因」なのか「結果」なのかということはわからないのです。

数理的に人間の嗜癖性を合理的な行動モデルに当てはめるのには少々限界があるようでした。

アノマリーの適応と限定合理的嗜癖モデル

合理的嗜癖モデルだけだといろいろ問題があることがわかったと思います。
そこで、合理的嗜癖モデルだけでなくアノマリー(異例)と言う概念を使って人間の合理性の限界を分析するモデルを検討していく必要が出てきました。
これを限定合理的といい、ここでは「限定合理的喫煙モデル」と言われています。

アノマリーとは、伝統的経済学が仮定する合理性と実際に観察される行動が乖離することを表しています。
喫煙の開始時点ではタバコなどいつでもやめられると軽く考えていたのに実際にニコチン依存が生じた後になるとやめたくてもやめられなくなる(公開する)ケースがこれに当たります。

 「アノマリー(例外事象)」の経済学での意義付けは以下の通りにまとめることができます。
1.「合理性」に限界のある個人の諸行動。
→保有効果(取引の難しさ)、市場の効率性。
2.セルフコントロールの失敗と、それへの対処。
→公共政策への応用。
3.公平性重視などの社会的選好。
→価格メカニズムの機能の限界。
4.行動ファイナンス(金融市場での判断バイアス)。
→市場の効率性仮説への疑義。

行動ファイナンスの例として言われているのが双曲割引モデルです。
直近の利得に対しては高い時間選好率、未来の利得に対しては低い選好率が当てはまるのも双曲割引モデルもこの一種です。

まとめ

合理的モデルと限定合理的モデルは背反な関係にあるわけではなく、簡単な変換で相互に対応可能な場合があります。行動経済学の発展に伴い、多様性や選好の変化を織り込んだモデルから、合理性の限界を織り込んだモデルへときめ細やかな視点から嗜癖行動を見ていけるようになりました。
多様性を取り入れアノマリーを導入したことの問題点を乗り越えることができそうなのが行動経済学なのではないでしょうか。

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