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アフリカ投資は投資家にとって最後のフロンティアとなるのか?

写真:ビジネス+IT

アフリカは「人類最後のフロンティア」と呼ばれています。
私達日本人がアフリカのイメージとは?と問いますと、「遠いなー。」「人喰い人種とかまだ居るので何となく怖いなー。」とか「映画ライオンキングのようなサファリや砂漠で別世界だろうなー。」くらいしか思えないでしょう。

アフリカ大陸の面積は日本のおよそ80倍。世界の大陸のおよそ5分の1の面積に、54か国が集中しています。人口は12億4700万人以上で世界人口の17%にも拘らず、世界総GDPの僅か 3%程度に過ぎない経済力です。

ところが、資源は豊富で、石油、石炭、鉄鉱石、天然ガス、ウラン、セシウム、ダイヤモンド、金、銀、銅、スズ、亜鉛、鉛、タングステン、タンタル、ニッケル、チタン、コバルト、プラチナ、セレン、ボーキサイト、クロム、リチウム、マンガン、バナジウム、レアアースが埋蔵されてます。

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1. 豊富な資源保有アフリカ大陸が最貧国を多く抱えている理由


2019年6月時点で、世界最貧国47カ国の内、アフリカ大陸のみで33か国が占めています。それは,世界最貧国全体の70%超にものぼり,アフリカ全体の 61%強の国々が最貧国になります。

最貧国であり続ける理由として、
(1) 天然資源は腐敗した政権の利権構造 
(2) 天然資源は反政府軍や外国軍の収奪の対象となるなど、内戦や紛争のきっかけとなっていて、この紛争の背景には、政府が資源を適正に開発し、利益を分配しないことにあります。

例えば、スーダンでは2005年まで天然資源をめぐる内戦が22年続き、アフリカ最長であり死者190万人にも及ぶ最悪な内戦と呼ばれているのです。その後も経済情勢の悪化とインフラの後進の原因となり、2018年には全国で抗議デモが増加しました。

最大の理由は以下に述べます大国によるアフリカ支配と言えます。

2. 欧州列強によるアフリカ分割支配


1912年のアフリカ全土は、エチオピアとリベリアの2国を除いたアフリカ大陸 54カ国中 52カ国が 7カ国の欧州列強により分割されていました。

▶︎イギリス:エジプト・スーダン・南アフリカ・ザンビア・ジンバブエ・ケニア・ナイジェリア・ゴールドコースト(後のガーナ)・ウガンダ・ソマリランド・シエラレオネ・ガンビア・ボツワナ・マラウイ・レソト・エスワティニ・モーリシャス・セーシェル
▶︎フランス:アルジェリア・チュニジア・モロッコ・ジブチ・マダガスカル
▶︎フランス領赤道アフリカ → コンゴ共和国、ガボン、中央アフリカ、チャド
▶︎フランス領西アフリカ → セネガル、ギニア、コートジボアール、ベナン、マリ、モーリタニア、ブルキナファソ、ニジェール
▶︎ドイツ:ドイツ領東アフリカ(タンザニア・ルワンダ・ブルンジ)・カメルーン・トーゴ・南西アフリカ(ナミビア)
▶︎ベルギー:コンゴ民主共和国
▶︎イタリア:リビア(トリポリ・キレナイカ)・ソマリア・エリトリア
▶︎スペイン:イフニ・西サハラ・赤道ギニア
▶︎ポルトガル:アンゴラ・モザンピーク・ギニアビサウ 
▶︎独立国:リベリア(米国の保護国)・エチオピア

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アフリカでは第2次大戦後独立した旧植民地に対して,欧米大国が採用している新しい型の支配政策として新植民地主義という概念が導入されました。特に1950年代後半からアフリカ諸国の指導者たちは、欧州大国の経済援助・軍事同盟・傀儡(かいらい)政権樹立などによる植民地主義的支配体制の復活・維持を受け入れてきたのです。

新植民地主義が植民地主義の継承に過ぎないと主張する人達は、今日のアフリカがIMFや世界銀行から借りた時よりも遥かに多くの金額を返済するために、国民が必需品すら買えない困窮状態に追い込んでしまっていると指摘しています。事実、アフリカ諸国はIMFや世界銀行から福祉や教育、社会基盤の民営化を柱とする構造調整プランを押し付けられたことで、国民の生活水準の低下が顕著に見られるようになりました。後に説明します中国による債務の罠と類似の動きをIMFや世界銀行はしてきたのです。

3. フランスの新植民地主義政策


フランスは1945年にCFA( セイファフラン)という当時のアフリカのフランス植民地の共通通貨を導入することで新植民地主義を実行し始めました。CFAフランはアフリカ人口の14%に相当する1550万人が利用し、アフリカ全GDPの12%に影響を与えています。アフリカ諸国は1950年代にフランスからの独立した後、現在もアフリカ諸国の経済的必要性とは無関係にCFAフランは使用されているのです。

驚くことに、1948年10月に1 CFAフラン=2 フランス・フラン(以下FF)に固定されて以来、70年間で、金・ドル本位制とも言えるブレトンウッズ体制が崩壊し、FFが消滅してユーロが誕生し、世界の金融市場が大きく様変わりしたにも拘らず、交換レートは1994年1月12日にCFAフランを50%切り下げた時の一度のみしか見直されていないのです。

4. CFAフランの種類


CFAフランには西アフリカ中央銀行( BCEAO)発行のものと中部アフリカ諸国銀行(BEAC)発行のものの2種類あり、
① 西アフリカでは、西アフリカ諸国中央銀行傘下にセネガル、マリ(118位)、コートジボワール(89位)、ニジェール(143位)、ブルキナファソ(128位)、ベナン(126位)、トーゴ(150位)、ギニアビサウ(175位)の8カ国、

② 中部アフリカでは、中部アフリカ諸国中央銀行傘下にカメルーン(96位)、チャド(140位)、中央アフリカ(166位)、ガボン(119位)、コンゴ(138位)、赤道ギニア(129位)の6カ国、(括弧内名目GDP世界順位)
合計14カ国となります。CFAフランは統治政策の一環として相互には使用できません。

5. CFAフランの特徴


①CFAフランを発行している西アフリカ諸国中央銀行(Banque Centrale des Etats de l'Afrique de l'Ouest : BCEAO)が保有する外貨準備の一定割合(当初100%、1973年に65%、2005年以降50%)をフランス国庫に預けるように義務付けられたことです。

② BCEAOが保有する外貨準備をその短期負債(主に発行した銀行券)の2割以上にすること等を条件に、
フランスが無制限にCFAフランの通貨価値を保証していることです。

CFAフラン肯定派はCFAフラン圏諸国の経済は安定し、インフレ率は低く保たれてきたと言及していますが、CFAフラン否定派は身の丈に合っていない強い通貨がUEMOA地域の競争力を弱め、経済成長を阻害しているのでフランスへの依存体質から抜けれないように仕組まれていると批判しています。

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6. CFAフランの問題点


① 欧州連合(EU)の共通通貨ユーロが1999年から流通を開始したことで、CFAフランの交換レートはユーロの固定相場制で1ユーロ = 655.957CFAフランと定められており、フランスが決定し管理しているのです。

ここで問題なのはCFAフランの交換レートが非常にCFAフラン高で固定されてしまっていることです。CFAフランを使用している多くのアフリカの国々では豊富な天然資源を輸出するので、CFAフランが高く設定されるのは彼らが資源輸出をする際に、価格競争力を弱めてしまうことを意味するのです。それは日本で円高になると輸出企業がダメージを受けてしまうのと同じ理屈です。

CFAフランの通貨価値は本来ならアフリカ側の経済状況を考慮もしくは反映して決まるべきなのです。ところが、CFAフランはユーロと固定されていますから、ユーロ高の影響を受けますとCFAフランも高くなり、CFAフランを使用する国々は、輸出が低迷し、国の産業化も期待通り進捗せず、国の成長の妨げになってしまうのです。

② 中央銀行が保有する資産の50%をフランス国庫に預けなければならないという現制度は、本来、アフリカの経済振興に使うべき資産をフランスに召し上げられてしまっているのです。それはアフリカの経済活動で得られた年間ベースで約5000億ドル(約54兆円) 以上もの資金がフランス国庫に献上される計算になります。これに関して、以前シラク大統領はフランスはアフリカを失うとフランスの経済力が第三世界レベルにまで下落すると言及したことからも窺えます。因みに、残りの50%は2つのフラン圏の中央銀行(BCEAOとBCEAC)で管理されます。

③ 西アフリカ中央銀行( BCEAO)の役員会には2名のフランス人役員が常駐していて、満場一致でなければ意思決定ができないルールになっていますから、その仕組みはフランスが加盟国の実質金融支配を行っていることを示唆しています。


7. アフリカ各国が通貨主権を獲得する為にすべき事


アフリカでは1975年にベナン、ブルキナファソ、カボベルデ、コートジボワール、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、トーゴの15カ国が加盟する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が設立されました。

2019年6月29日、ECOWASはナイジェリアの首都アブジャで首脳会議が行われ、2020年までに共通通貨の導入を目指すとしており、共通通貨の名称を「ECO」にすると決定しました。

ECOWAS加盟国中、セネガル、マリ、コートジボワール、ニジェール、ブルキナファソ、ベナン、トーゴ、ギニアビサウの8か国がユーロと連動する通貨CFAフランを用いており、ナイジェリアなど7か国が交換性のない独自通貨を使用していますが、加盟国間の越境貿易や経済発展の促進策として約30年間かけて検討されてきた初めての通貨統合が実現する方向性がこの日に確認されたのです。

アフリカ各国はCFAフラン圏を超克し、CFAフランを廃止すること以外、通貨主権を獲得する方法はなく、その他の選択肢ではフランスへ従属というより隷属から逃れられないと言っても過言ではありません。

ですから、ECOWASで検討された新「ECO」の最大の特徴は、新「ECO」がユーロと固定せず変動相場制を採用することなのです。それにより、アフリカ諸国間での①取引費用が削減され、②域内で貿易が促進され、③海外援助、④市場の拡大、⑤通貨主権の取得を目標と出来るのです。

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8. 既得権喪失を懸念したフランスの行動


ところが、フランスはECOWASの経済的中心国であるナイジェリアが域内総生産の3分の2を占めている不均衡な状況を鑑み、ナイジェリアが新「ECO」を通して、将来、アフリカ域内金融政策を支配するのではないかと懸念しました。また、ナイジェリアは2050年には人口が5億人になると予測されたおり、その規模はフランスの脅威となるのです。

フランスは既得権を失ってしまうリスクを回避する為に、ナイジェリア が地域の覇権国家になる前にその芽を摘む必要がありました。(ここでは触れませんが、ボコ・ハラムというナイジェリアのテロリストを背後でフランスが支援しているのもナイジェリアの国政を混乱させるのが目的と言えます。)

そこで、フランスは西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)の親仏国と裏で手を組み新「ECO」の乗っ取りを画策しました。そして、コートジボワールのアラサン・ワタラ大統領は2019年12月21日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との共同記者会見で、西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)の共通通貨であるCFAフランの廃止と、フランス版新「ECO」の導入を正式発表しました。

新「ECO」導入に当たって3つの具体的な決定が示されました。
① 西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)が、外貨準備のための預金の50%をフランス国庫に預託する制度の廃止。それでも、フランス政府は、BCEAOが外貨準備のための資金不足に直面したときには必要額を供与すると述べています。

② BCEAOからフランス代表が撤退。従来は、UEMOAにおいて中央銀行の役割を果たしているBCEAOの理事会、および金融政策委員会にフランス代表を派遣していましたが、これらの派遣制度が廃止されることになりました。

③ 従来のユーロとCFAフランの固定相場制(1ユーロ=655.96CFAフラン)はインフレリスクを回避するため、ECO導入後も継続されるということです。

新「ECO」は元々ECOWASで長期間、検討されてきた「ECO」とは内容が異なるもので、それはあたかもフランスが「ECO」という名称泥棒に走ったと言えるのです。肩透かしにあった英語圏のナイジェリアなど6カ国からなる西アフリカ通貨圏(the West African Monetary Zone:WAMZ)加盟国は2020年1月16日、ナイジェリアの首都アブジャで臨時会合を開催し、英語圏6カ国も加盟している西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が導入を目指すフランス版新「ECO」の導入を見送ることを決定しました。

1975年にECOWASを設立し、安定した通貨体制を作ることでアフリカ人は長年の夢であった金融主権をフランスから獲得しようとしましたが、実際には、フランスに都合の良い「ECO」が導入されてしまい、結果的に、アフリカに於けるフランスの通貨帝国主義は不変となりました。

9. アフリカで親仏大統領が多い訳


過去にフランスの通貨主権を妨げようとした多くの独立系の国々のリーダーは殺害された経緯があります。例えば、リビアのカダフィー大佐はアフリカ全体の共通通貨ディナールを導入しようと計画しましたがフランスの情報機関に後程殺害されました。マリフランを導入しようとしたマリ初代大統領も獄中で不審死を遂げました。50年間にアフリカ26 カ国で発生した67件のクーデターはフランスが背後で操っていたとも言われています。コートジボワールの現大統領のように親仏派(?)の大統領達は反フランス的行動に走った暁に暗殺されることを恐れ、否応なしにフランスの飼い犬のように振舞っているのかも知れません。

10. フランスにとっての新たな脅威


このようにフランスはアフリカの既得利権を手放すことをしなく、時代錯誤とすら思えてしまうような植民地主義を新植民地主義の名の下で継承することに成功しています。また最近では後発隊のアメリカもフランスの動きを牽制しながら地下資源利益を奪取しにアフリカに入ってきています。

そのような中で、最大の要注意事項は中国の動向です。中国は既に多額をアフリカ大陸に投資していて、近未来にはフランスとの資源奪取戦争の可能性すら視野に入れているかのようです。過去10年間にアフリカ大陸の国々への中国人入国者数は過去400年でヨーロッパ人の入国者数を上回っているといるデータがあります。フランスやアメリカはこれまでフランスに従順であったアフリカの国々が中国になびいて、最終的にユーロの代わりに、中国人民元が更に新しく作られる「エコ」と固定するのではないかと危惧しています。

中国が日本円換算で数千億円から数兆円の各種プロジェクトに着手することで、アフリカの国々を手懐ければ、人民元を域内決済通貨として使うことは可能です。ガーナは近年中国資本が急激に注入されており反CFAフランの動きが活発化しています。それは背後で中国が操っている可能性が高いのです。それはまさにフランスと中国との水面下通貨戦争の前哨戦とも言えるでしょう。

2018年9月には親仏であるコートジボアールのワタラ大統領は中国企業に対し、コートジボワールの投資環境をアピールし、特に高いポテンシャルを有する農業、鉱業、一次産品加工、金融分野を中心に投資を呼び掛けました。最近ではコートジボアールのインフラ建設案件は、フランス企業ではなく中国企業が大半を落札している状況です。米国ジョンホプキンス大学のデータに寄りますと、中国からコートジボアールへの融資総額は2010-2015年までの5年間で1400%増となっています。また同時期、セネガルは1268%増です。

アフリカ人は長年、欧州列強の植民地支配にうんざりしている中、植民地経験のない中国に無防備になっているのは否めません。ジブチでも中国は150億ドル余りをインフラ整備に投資しており、外債の82%を保有しています。それは最終的に、債務の罠として黄海やスエズ運河の支配権を中国に譲渡する事にもなり得るのです。実際に、アフリカの債務総額の14%を中国が保有していることから鑑みれば、近未来において中国のアフリカ実質支配の可能性は充分にありえます。

11. アフリカが成長する為の必須条件


アフリカ経済成長には資源を生かすための高い技術開発や労働市場の効率化、将来の発展の為の高い子女教育が必要となります。

科学技術やビジネスの高度化、イノベーションのためには投資が重要であり、海外からのパートナーシップは不可欠となります。これらを実現するため、アフリカの国々の政府指導者は外交や企業誘致などを強く意識し、企業もその意識に呼応するように積極的に努力することです。もちろん腐敗政治の撲滅や治安改善、インフラ整備など課題はまだまだ山積していますが、それらを克服することが必須条件となるのです。

12. 結論


アフリカ大陸の致命的な問題は、資源の宝庫ではあるものの、フランス、アメリカや中国が利権の奪い合いを目的とした熾烈な戦いが激化するリスクは高まっており、流血こそはないものの、資源獲得戦争の戦場になり続ける運命にあるということです。

それ故に、一般投資家がアフリカに投資するのは先進国や東南アジア諸国で不動産案件に投資するのとは次元が全く異なります。アフリカ大陸が投資の最後のフロンティアとなるには長期間の月日が必要なのは言うまでもありません。


立沢 賢一(たつざわ けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資戦略、情報リテラシーの向上に貢献します。

・立沢賢一の世界教養チャンネル
http://www.youtube.com/c/TatsuzawaKenichi

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