日本解体最終章 どうなる菅政権?

9月16日に発足した菅内閣の支持率は、政権スタート時としては小泉純一郎内閣81%、鳩山由紀夫内閣72%に次ぐ歴代3位の高水準に達しました。

9/21実施のNHK世論調査では、内閣支持率は62%でした。8月の安倍政権の支持率が34%でしたので、実に1か月で28ポイントもアップしたことになります。

この支持率アップはご祝儀支持率だけでなく「安倍首相が辞めてくれてよかった。」という国民の素直な喜びの気持ちがあたかも反映されたかのようです。安倍内閣では男性の方が女性より高い支持率でしたが、菅内閣ではその逆で女性の方が男性よりも支持率が高いのが特徴です。

動画でも解説しています。

一般的には秋田の寒村出身の菅首相の苦労人物語が女性の共感を呼んだことに加え、携帯電話料金の引き下げや不妊治療への保険適用という公約が女性に支持されたためと言えるのです。

それでは、菅首相は本当に寒村出の苦労人なのでしょうか?

これまで菅首相は高校卒業後、「集団就職」を売りにしてきました。しかし、実際は、菅さんは高校を卒業してから上京して就職していますので、「集団就職」という言葉は適切ではありませんでした。

菅首相の公式ホームページには、「高校卒業後上京」と記されており、実は「貧しい少年時代を過ごした苦労人」というイメージは正確な説明ではないのです。

確かに菅首相のご実家は農家でしたが、お父様は、『ニューワサ』という品種改良したいちごを開発した方で、且つ、菅首相が高校1年生の頃から4期16年にわたって雄勝町の町議を務めた地元の名士でもあります。しかも、農業で大成功を収めるまでは南満州鉄道のエリート職員だという記録もあります。

幼少時代の菅首相はどちらかと言えば、裕福な暮らしで、当時子供には高額だった月刊マンガ雑誌を定期購読して友達に貸したりしていたほどです。「友達からうらやましがられる存在でした。」とまで当時の友人は語っているようです。

菅首相は、貧しさから這い上がった苦労人で、庶民派の総理大臣というイメージを大衆に植えつけて新政権を樹立したかったのかも知れません。

或いは菅首相ではなく周りがそのようなイメージ戦略をしたのかも知れません。どちらにせよ、貧乏どん底の田舎者ではないのは間違いなさそうです。

それでは菅首相はどのようなリーダーでしょうか?

安倍前首相は三本の矢(金融政策、財政政策、民間投資)というビジョンリーダー型でした。実際には金融緩和という一本の矢しか刺さらなかったのですが、菅首相は小型政策リーダーとなる可能性があります。

日本の安全保障に関しては、アイデアが無いというより無関心なのです。外交に関しては安倍元首相とは比較になりません。

それでは菅首相が安倍首相の女房役として官房長官時代にご自身が中心になってどのような政策を推進したかを検証してみましょう。

(1) アイヌ新法はインバウンド対策の一環として施行しました。

(2) ふるさと納税は導入するのと抱き合わせで、地方交付税を減らしています。つまり、ふるさと納税商品の内容のアップで自治体同士で戦わせているのです。これは結果的に緊縮財政推進したことになります。

(3) 2014年内閣人事局設置により、内閣人事局を使って、政治家が官僚に対する人事権発動で政治家の政策に反対する者を左遷したりする事が出来る様になりました。菅首相は総務副大臣時代、ふるさと納税に反対した総務省の官僚を更迭したことがあるそうです。

それなら是非、日本国経済を縮小均衡にしている緊縮財政政策を支持している財務省の官僚を左遷する人事を施して欲しいのですが、何故かその発令しないのです。

9/13のフジテレビ番組で、菅首相は中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局に見直すべき点はないと明言し、政権の決めた政策の方向性に反対する官僚は「異動してもらう」とも強調しました。

さて、菅首相が実行するであろうこれからの政策は安倍前首相の「実感なき景気回復」から「実感できる景気回復」へと推進するものと言われています。

目玉政策として、
(1) 携帯電話料金の値下げ。これにより国民の可処分所得は増えますが、電話会社の純利益はその分減るわけで、その分を政府が補填しない限り、経済にとってゼロサムゲームです。

(2) 緊急避妊薬の薬局販売解禁など不妊治療支援などの規制緩和。

以上の2つは大衆ウケを狙ったものでしょう。

(3) デジタル庁の設立。これも今回のコロナショックで浮き彫りになりました日本がデジタル劣等生である事に対応した政策です。平井デジタル改革相は元電通マンです。バルト3国の一つであるエストニアは電子国家と言われてますが、彼はそれをお手本に日本も電子国家を目指すようです。問題は、データを一本化した場合のサイバーリスクがあり、そこをしっかりと固めながらでないとデーター漏洩の危険が伴います。

(4) 中小企業改革は利益が出ない中小企業を減らすという方針です。これにより、中小企業庁の中小企業対策費を減額出来ますから緊縮財政の一環と言えます。

日本の産業を支える中小企業は約358万社で全体の99・7%を占め、全体の約7割に当たる約3200万人の雇用を担っています。

中小企業改革は中小企業の数を減らし、最低賃金を上昇させるというものです。問題は、中小企業は生産性、効率性が低いという理由で、再編•合併をさせられる事で、中小企業の中堅企業化や、大企業が吸収する事で規模拡大を目指して問題解決しようとする姿勢なのです。

その内容は、大雑把に申し上げますと現在約358万ある企業の内、140万から150万程度を残し、残りは淘汰されるべきだというものなのです。

先進国の中でも日本は低いとされる最低賃金について、菅首相は全国的な引き上げを唱え、その為にも、中小企業再編を主張しているのです。

元々、最低賃金を上げられない最大の理由は緊縮財政政策による日本のデフレ化の経済状況が数十年続いているからなのです。本来なら、そこに着手すべきなのですが、そこはお座なりにして、中小企業を突っついているのです。

それでは、この政策は一体全体どのような結果を生み出すのでしょうか?

現実的には、下請け企業が潰れてしまうと大企業が負の影響を受けるのは確実です。それは大企業が下請け企業の上に成り立っている構造から当然の帰結なのです。つまり、この政策は究極的に大企業自身の首を絞めることに繋がると言っても過言ではないのです。それこそ、製造業•土木業•建設業などの技術は失くなってしまう可能性は高いです。

この中小企業改革案の原案は元ゴールドマンサックスのアナリストで現在、中小企業社長であるデービッド・アトキンソン氏が作成したものです。余談ですが、自身の会社が関与した日光東照宮修繕に関してはその質の悪さに物議を醸し出しています。

この方は、簡単に申し上げますと、日本の観光立国化政策の頃からの菅首相のお友達です。菅首相は経済産業省の幹部の言葉を借りますとアトキンソン信者で、アトキンソン氏の考え方のコピー&ペイストをしているそうです。

更に、菅首相は、竹中平蔵氏と非常に近い関係にあります。彼は東洋大学教授兼人材派遣のパソナ会長やオリックスやSBIの社外取締役に従事しています。竹中氏が総務大臣時代に、菅首相は総務副大臣で主従の関係でした。それ故に、規制緩和による大企業や外資優遇というグローバリスト優遇政策に走る可能性も高いのです。

中小企業政策は、一般大衆の関心をあまり集めないですが、私達はこれを慎重に考えるべきだと思います。何故なら、次世代を担う中小企業を外資に売却してしまうようなことは絶対に避けるべきだと確信しているからです。

外資による水道事業などの公共事業への参入や土地や水資源の買収、規制緩和による農業問題が進んできてます。今回の中小企業改革は下町ロケットのような日本独自の貴重な技術までもが外国勢に奪われてしまうことになるのです。日本の資源や技術が危ないのです。しかし、それを推進して行こうとしているのが現政権とその周辺にいるグローバリスト達なのです。

菅内閣は言い方を変えれば、構造改革内閣で、竹中平蔵氏やデイビッドアトキンソン氏というバリバリのグローバリストの影響を受ける政権なのです。

企業では、「ワンマン社長がイエスマンばかり集めると潰れる」と言われています。正にこれから内閣人事局の影響で霞ヶ関もそうなりかけているのです。これまでは『安倍・菅』政権でしたが、そこから『安倍』がなくなり、『菅』単独政権となり、独裁色は強まるばかりです。

そのような状況下、株価はどうなるのでしょうか?

もし本当に中小企業を半減させてしまったら、日本経済はボディブローを受けるが如く、ジワジワとダメージが効いてくるはずです。米国株式市場は好調で、トランプ大統領が再選された暁には、史上最高値を更新する確率は非常に高いです。そうなると短期的には日本株も連れ高になるでしょう。

しかしながら、長期的に見た場合、日本経済の屋台骨と言える中小企業を潰していく政策は日本株投資に明るい未来を提供することはありません。

菅首相は大方の予想に反し、次の政権への短期的繋ぎではなく、寧ろ長期政権を狙っているのではないでしょう。

それは、竹中・アトキンソン効果で日本が凄い勢いで解体されていくグローバリズムの渦中に突っ込んでいくことを示唆しています。

私が以前配信しました「日本株を買うな!」というYouTube動画の中でもお伝えしてますが、相対的に見て、どう考えても日本株を長期投資できる環境にはないと言えるのです。

もし唯一、日本株が高騰することがあるとしましたら、それは米国からの指示で、日本の財務省が緊縮財政から財政拡大へ転じることがある場合のみです。その時は迷わず日本株買いです。


立沢 賢一(たつざわ けんいち)
元HSBC証券社長。
会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資戦略、情報リテラシーの向上に貢献します。

・立沢賢一 世界の教養チャンネル
http://www.youtube.com/c/TatsuzawaKenichi


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