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【読書感想】人の集まり方をデザインする/千葉学

 先日、読書会で「人の集まり方をデザインする」を読んで考えたことを発表した。そのとき使ったスライドを基に、内容を少し膨らませて記事を残す。

1要約

 この本は「家族ゲーム」に触れて始まる。この映画を観た著者に衝撃を与えた、家族でカウンター席に座るように横一列に並んで食事をするワンシーン。家族団らんには、正しいテーブルの配置の仕方があるように、よりよい経験には、整えられた空間構成が必須である。建築1つをとっても、常にその場所にあった「テーブルの配置」を見つけ出していくべきだと述べられている。

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 著者は、建築は、どんな用途であっても、基本的にひとが集まるためにつくられる、ということを序盤に明確に示す。つまりこの本は、広くいってしまえば、千葉さんの建築への考え方をまとめたというものである。

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 この記事では、一章で触れられていた、建築と周辺環境の関係性についての考えていくことにする。
 まず、彫刻家ロバート・アーウィン提唱の4つの「site- 〇〇」を切り口とし、それを建築に落とし込んで考察が展開される。筆者の目指す建築は、4つ目のsite determinedである。

・site dominant
特定の敷地について考えられずにつくられている
例:モダニズム建築

・site adjusted
周辺環境へ物理的調整がなされている
例:軒の高さ、窓の位置、色、素材

・site specific
敷地から考えられている、概念的なものも取り入れる
例:敷地における歴史的背景の反映、地元住民・作家の参加、地元の建材の使用

・site determined
その建築がおかれることで初めてその敷地の意味が了解される
敷地がその土地の意味や理由を炙り出す
※受け取り手の眼差しに委ねらる部分が大きいため、例示困難

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 次に、本書で紹介されていた著者の作品うち4つの、site determinedな視点を説明しまとめてみた。

日本盲導犬総合センター「富士ハーネス」
 蛇行するような構造で、様々な用途の部屋が並べられている。富士山に向かう傾斜に沿って登っていく蛇のようで、まるで太古からそこにあったような建築になっている。

Studio御殿山
 あえて窓の見込みを厚くし、鏡面仕上げにすることで、周囲の風景を巧みに借り、まるで万華鏡の中を見ているかのような空間を作り出した。異なる角度で窓をのぞくと、見える風景も大幅に変わり、不思議な外との距離感を感じられる。

諫早市子供の城
 敷地の激しい起伏を、床ではなくあえて天井高に落とし込み、子供の貴重な遊び場となる平面の床と、高低差のある様々な空間を作り出した。

工学院大学125周年記念総合教育棟
 著者は、都市にいる醍醐味=「他者性」と本書で語る。大学という都市で、その敷地の特性である「他者性」を様々な距離感で感じられる。
※自分の解釈含む。

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 次に、「冗長性と象徴性」について考える。
 これは、筆者が考える、長く使われる建築に必要なバランス感覚で、本書の中でたびたび出てくる重要なキーワードである。
 簡単に言い換えると、冗長とは、物事が反復すること、つまりどこかで見た感じ。象徴とは、オンリーワンな感じであり、二つが合わさると、「どこにでもありそうで、どこにもなさそう」という矛盾したような意味になる。
 冗長であることは、例えば原っぱのように、普遍的で様々な用途で使われるという良さがある。象徴であることは、場所の特別性やそこの人々の帰属意識の向上、多様性が何かと大事な今の社会に必要なものである。

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 筆者は、冗長的で象徴的であることと、site determinedであることはほとんど同じである、というように考える。
 「そこにしかない形式」は千葉さんのギャラリー、本のタイトルであり、千葉さんが建築で表現したいものである。建築は一回性のものだが、どこかで普遍的でもあってほしい、という矛盾を孕むテーマにあえて取り組んでいる。

2解釈

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 次に、自分なりにこの本を解釈してみる。
 
 まずは、身の回りの思いつく建築を、site〇〇的な視点で分析してみた。
 チェーン店は、どこであっても均質なサービスが求められるからdominantとして真っ先に思いついた。それがチェーン店の良さだ。ディズニーリゾートの敷地内からは、外の様子が全く見えないらしい。よって外とは完全に遮断された空間、dominantの最たるものなのではないかと考えた。
 世界の歴史的な街並みを保存しようとする地域では、建物に高さや色の制限がある。
 さらに、こうしてみてみると、specificとdeterminedの例が全然出てこない。やはり、作品のバックグラウンドなどを勉強しないとその性質を見つけにくいからだろうと考えた。それはなんかおもしろいなと感じたのと同時に、知らない人は気づけないということや、作品に後からいくらでもこじつけできるという点は、どうなんだろうと考えた。
 リノベはどこに置くべきかわからず、適当なところに置いた。少しリノベということばが漠然としすぎていた。

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 例を出していく中で、建物の分類に悩むことが多々あり、それぞれの違いがぼんやりとしていった。
 本書からもそれがわかる。
 筆者は飛行機に乗り着陸するとき、そこから見る街並みや田園風景に毎回うっとりしてしまうらしい。このとき、田園風景は農業という極めて、人工的な営みが、幾何学的に行われているものだが、どこかそこに自然を感じる。逆に、ゴルフ場では自然に合わせてコースが作られていることが多いが、その均質で退屈な感じはぬぐい切れない。
 自分も、コンビニはdominantなものであるが、始めて訪れた駅の駅前にあるとても窮屈なコンビニに入って、「あここは過密なところなんだ」と感じることがあると考えた。
 このことから、建物に4つの分類があるのではなく、1つの建物に4つの性質が含まれているという考えに至った。

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 その考えのもとにそれぞれを四面体に再配置してみた。意外と難しい。

3感想

 本書を通して実践したいことは4つある。

 1つ目は、常に建築をsite〇〇な視点でも考えて、四面体を考えてみること。
 2つ目は、site specificやdeterminedな建築をもっと知るために、常にその建築の意味や理由を考えること。
 
 3つ目は、とにかくスタディをたくさんすること。この本には、千葉さんの実際のスタディの資料がたくさん載っている。一つのプロジェクトに一か月で30案くらいスタディすることもあるそうだ。この本では、いい建築をつくる具体的な方法は書かれていないが、その資料たちがその方法がスタディしかないということを語っていると思う。敷地の良さを炙り出すsite determinedな形態も、偶然たどり着いたとも述べている。行き詰ったときには、模型をひっくり返してみることもあるようだ。

 4つ目は「窓のしりとり」。これは本書で紹介されていたリサーチ方法で、誰かがリサーチしてきた窓に、別の建物の窓との共通点を見出して、しりとりのようにリサーチしていくというものだ。

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 この本を読んでいくつか疑問も浮かんだ。

 一つは、いまいち、「冗長性と象徴性」と「site determined」の関連がつかめなかったこと。それぞれが建築に必要だということは理解できるが、これらを一緒にするということはわかったようでわからない。読書会でもそこはうまく伝えられなかった。

 もう二つは、ちょっと思いついたこと。
 千葉さんは、建築は人が集まるものって言ってるけど、人が集まらない建築はあるのかなってちょっと考えてみた。自分は下水とかそうじゃないかって言ってみたけど、下水も都市に人が集まるためのもので、建築という人の営みに人が存在しないわけないと言われ、確かにそうだなと思った。この記事を書いていて思いついたけど、宇宙の何とか観測所とかはどうなんだろう。
 あと、「そこにしかない形式」を語るとき、千葉さんは

形式という言葉の意味するところを具体的にイメージすることが難しかったが故に、「そこにしかない」こと、つまりsite specificであることにばかり焦点が当たっていたふしもある。確かにsite specificであることは否定しない。しかし同時に僕にはsite specificという概念が、きわめて環境受動的で予定調和的なものに映っていたことも事実である。

と述べているが、site specificが環境受動的ってどういうこと何だろうと思った。それは悪いことなんだろうか。

4読書会

 読書会では、4つのsite〇〇に自然と焦点が当たっていた。やはり多くの人が4つの違いがはっきりしていないと言っていた。
 また、dominantとdetermined、adjustedとspecific(ちょうど図を対角線で結んだ組み合わせ)のそれぞれで程度の問題として分類できるのではないかという意見もあった。
 さらに、site determinedな建物として、自然に沿ったような形だけではなく、あえて周辺とは正反対のような形態の建物を置くことで、自然を強調させるという方法もあるという意見は参考になった。

おわり

この記事を書こうとせっかく平日の朝から、いつもは自撮りしている人で混んでいて入れないミヤシタパークのスタバに来てみたのに、パソコンの電池がなかった。ミヤシタパークはちゃんとシンボリックなのにそこにいる人はみんな自由にやりたいことをしいてる。「他者性」を感じるのにこんなにいいところはここら辺しかない。都市の人みんなかっこいいし。見始めたオッドタクシーがおもしろくて一気に見た。なんか最後の最後で樺沢のタイムラインみたいなこと書いちゃった。


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