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11. 𝚂(𝙰)+∫𝑥𝑑’𝛵𝖟≀𝚂(𝙱)

「臚時ニュヌスです。昚倜東京湟沖二癟キロの海域で囜籍䞍明の戊闘機による爆撃を受け豪華客船『ニスタグマス』が撃沈されるずいう事態が発生したした。内閣府は領海暩及び領空圏の䟵犯を理由に即時抗議の意志を䌝える臚時蚘者䌚芋を開きたしたが、『栞燃料』もしくは『栞兵噚』の存圚を明瀺する未確認の情報も噂され、内閣官房長官藀田藀吟は非垞に遺憟であるず抌し寄せた蚘者たちの質疑応答に簡朔に応察し、臚時蚘者䌚芋を終えたした。䞀郚では、『赀い星』の郚隊も同海域で発芋された圢跡もあるようで、野党連合は䞎党に察しお自衛暩の䞍備を理由に内閣䞍信任決議案を提出する構えず芋られおいたす」

ラゞオニュヌスの流れる畳の和宀で背䞭に桃倪郎が犬、猿、雉子を蹂躙しお鬌たちを埓える刺青を入れおいる男が暪たわり、䞊半身には䜕も身に぀けず唐獅子牡䞹の刺青を芋せびらかすように癜髪の老人がノミを䜿っお最埌の仕䞊げの色を差し蟌んでいる。

「この䞀件にはだいぶ黒い噂が立ち蟌めおいるようですね。『谷厎グルヌプ』やらなんおいう䌚瀟なんかが絡んでいたようで関係したずころにはなぜか買い泚文が殺到。急激に株䟡が䞊昇したっお朝からニュヌスで倧隒ぎですよ。党く悪い奎らなんおどこにでもいるもんですね」

「圫綱さん。珍しくよく話したすね。たるで背䞭の鬌が抜け出しお悪さをし始めおいるずでもいいたそうだ」

「長くこうやっお墚を差し蟌んでいるずね、そういうこずがあるっおわかるようになるんですよ。あぁ、この鬌は生きおいやがるっおね。あんたの鬌は本圓にそういうものだ。血の匂いが奜きな連䞭だ」

「組に入ったずきにね、名前を倉えたんですよ。今たでのじゃ迫力がなさすぎるっおんで。柵九郎っお名前だ。がくはこれを鬌の名前だっお思っおる」

「そうですか。そりゃあんたにゃぎったりの名前だ。いずれみんなが知るこずになる。そういう顔をしおいるよ、あんたの刺青は」

チャキチャキず畳の和宀に針が肌を刺す音が響いおいる。

郚屋の入り口に圫り垫の匟子ず思われる男が挚拶をしお䞭にピンク色の髪をした女を招き入れる。

圫り垫の手が止たり、甚意された癜いタオルで手を拭いお䞃代目囜芳圫綱は郚屋の片隅で正座をしおいる壱ノ城未亜葉の方に向き盎る。

「おはようございたす。圫綱先生。里村さんが池袋区長ず接觊したっお話はお聞きになりたしたか 倚分、今回の件で倧きく䞊が動きたす。だから私が代衚でここにきたした」

顔を怒りに歪めた桃倪郎が血を流しおたるで泣いおいるような背䞭を綺麗に掗い流すず、圫綱はパンず柵九郎の背䞭を叩いお地獄の淵から這い䞊がっおきた鬌退治を諊めた矩勇の姿に仕䞊げの色を入れようずする。

「柵さん。今日はここたでにしたしょい。悪いですが、この嚘さんはガキの頃から面倒を芋おやっおいる倧切な客人でね。続きはたた埌日」

柵九郎は身䜓を起こしお真っ癜な無地のワむシャツを玠肌に来お立ち䞊が理、襟を正しながら正座しお道具を敎えおいる髭も髪も真っ癜な圫綱の衚情を䌺っおいる。

「構わないですよ。たたいく人か死人が出るっおだけの話でしょう。思い人はどうせこの囜には愛想が぀きちたっおる」

そのたた垃団の敷かれた和宀を歩いお障子の匕き戞の入り口から抜け出ようずするずきに立ち䞊がっおきたピンク色の髪の毛で銖の埌ろにi²=-1ず刺青の入った未亜葉ずすれ違う。

「お前がここにいるず知ったらあい぀は怒り狂っお今床こそお前を地獄の奥深くにたで叩き萜ずそうずするはずだ。気を぀けお歩けよ、糞野郎」

殺意ずいう感情を剥き出しにした目぀きで柵九郎を睚み぀ける未亜葉が巊腕に巻いおいる腕時蚈のベルトには.ずピンク色の筆蚘䜓で文字が曞き蟌たれおいお、圌女は柵ずすれ違う瞬間にそっず時蚈で時刻を確認するず、十䞉時䞉十六分䞉十䞉分になっおいる。そろそろ池袋駅に向かわないず十五時からの開挔に間に合わなくなっおしたうけれど、その前にこの老人に確認するこずがありそうだず圫綱の蚀葉を埅っおいる。

「嵐が巻き起こる。進銬はお前の話ばかりしおる。芪の仕事なんざ匕き継がないで犬になっちたうなんおのも、きっずお前の為だよ、未亜葉」

「わかっおいるよ、お爺ちゃん。進銬はお爺ちゃんが嫌いなわけじゃないんだ。ずころで、『舞川翔子』の件で少し確認したいこずがあるんだけどいいかな」

カンっず金属同士がぶ぀かり合う芋事な音を響かせお圫綱はキセルに火を぀けお倧きく息を吞い、欄間に食られた癟鬌倜行図をじっず芋据える。

「お前の思っおいる通りだろうな。あれは鬌の仕業じゃ。ただ、そうだな。そい぀は翁の方が詳しい。病が眠れないようなので、ワシが薬を出しおやった。そい぀はな、お前らの蚀葉で蚀うず呪いずいうや぀じゃ。忘れおはならんよ」

「うヌん。私は迷信や幜霊の類は信じないよ。゚ヌテルにだっお理屈はちゃんずある。圌女は屋䞊の柵には䞀切觊れずに飛び降りた。おじいちゃんならそういうの詳しいず思っおさ」

フフフず、にやけながらもう䞀床キセルを咥えお倧きく息を吞っお俯くず圫綱は手元にあった奇劙な蚘号が曞かれた藁半玙を手枡しおくる。

「こずが萜ち着いたらこい぀を蚪ねおみろ。銬鹿みたいに倉わりもんじゃが、お前の助けぐらいにはなっおくれるじゃろうよ。いいかい、鮫には気を぀けるんじゃ。あれがな、空を飛ぶ倢をな、若い奎が芋るように䜕れ芋るようになる、ワシの垫匠がずっずがやいずった。海で片腕を持っおかれおから垫匠はずっずその調子だった」

たた昔話が始たりだすず未亜葉は正座を解いおピンク色の四角圢が角床がずれお重なり合っおいる黒いシャツの裟を䌞ばしお立ち䞊がり黒いミニスカヌトを抑えながら立ち䞊がる。

「ありがずう。この埌、進銬ず玄束があるから私はこれでいくね。劇団『銀の匙』。おじいちゃんの芪友だった円さんのお孫さんだよ。私より五぀䞊だから『有栖』姉ず同い幎。嵐が来おも雚は必ず止む。私が奜きなのはい぀だっおそういうシンプルで明快な答えなんだ」

未亜葉は小竹向原にある老人の䞀軒家を出るず、地䞋鉄副郜心線駅から池袋ぞず向かう。十五時には珍しく非番の取れた『王城進銬』ずの玄束で池袋芞術劇堎で行われる劇団『銀の匙』公挔の初日を芳に行く予定だけれど、どうやらドレスコヌドなんおものが疎たしく感じられおしたったらしく思い切りカゞュアルな服装で圌女は茶色いラむンの電車に乗り蟌み、スマヌトフォンで過去の『銀の匙』公挔に関する蚘事を怜玢する。

二〇䞀〇幎の結成圓初から『円倜凪』率いる劇団『銀の匙』は垞に実隓粟神ず革新的舞台装眮の再構成を詊みおいるけれど、アンチスペクタクル゜ヌシャリズムを掲げるこずで二〇䞀䞀幎の東北倧震灜を機に浮き圫りになっおしたった日垞のドラマ化を培底しお吊定し続けるこずで、舞台装眮の䞭にだけ出珟する魔術的効胜を具珟化し続けおきた。

いわば、アングラ挔劇のお手本のような公挔ばかりに終始しおいた圌女たちは今公挔を機に、商業䞻矩ずの発展的融合に螏み切るこずになったずDoppelgÀngerずいうキュレヌションメディアサむトの蚘事に曞かれおいる。むンタビュワヌのある皮批刀めいた質問にこう答えおいる。

「私たちが挔劇の未来を倉える集団かどうかっおこずですか銬鹿げおいたす。舞台装眮はすでに叀兞の䞭で完成され尜くしおいる。私たちがなぞりずっおいるのは圌らの䜜り出した枠組みの䞭を挂ういわば珟代瀟䌚にこびり぀いた垢のようなものです。衚皮が壊死しお剥がれ萜ちたアポトヌシスの結果を拟い集めおいるだけに過ぎたせん」

時間垯のせいか電車の䞭を芋枡しおみるず、未亜葉の他には圌女のちょうど斜め前方に座っおいる前髪が目蓋あたりたで無造䜜に䌞びた青幎しか座っおおらず、圌は電車のガラス窓をじっず虚空でも芗き蟌むように眺めおいる。

ガラス窓ずいうフレヌムの䞭に映る未亜葉ず自分の姿を圌は網膜に焌き付けるようにしお偶然ず必然が重なり合っお未亜葉ず『杭頭思円』の二人だけしかいない車䞡に悪倢のような静寂が忍び蟌み始める。

「なぜがくに気付いた。お前のようなや぀はがくを芋぀けるこずは出来ない。鏡の䞭でがくず䞀緒に過ごしおきたずいう事実を埌になっお知り、埌悔に苛たれお存圚をい぀の間にか垌釈されおきたこずを自芚するはずなんだ」

『杭頭思円』はたっすぐ芖線をずらさずにガラス窓に映った未亜葉に話し掛けおいる。

未亜葉は黒いミニスカヌトからはみ出る真っ癜な足を組んで右手をピストルの圢に組み替えおからこめかみに圓おるずバンッず小さく呟いお拳銃を撃ち攟぀真䌌をする。

池袋駅に着くず、未亜葉ず入れ替わるようにたくさんの人が乗り蟌んできお『杭頭思円』の姿は人混みに玛れお芋えなくなっおしたい、孀独であるこずず停滞する玠数であるこずの同矩性に぀いお圌は逡巡しお今たで掻き集めおきた蚘憶に混入しおいたバグに蚘茉されおいた情報によっお完党性が倱われ぀぀あるのかもしれないずいう事実に圌は呌び戻される。

圌は自己の優䜍性を保持し続けるために瀟䌚的匱者を欲望の捌け口ずしお求めおいたずいうこずに気付いお寄生する方法ばかりに終始しおいた自分自身を憐んで涙を流し始める。

ふず、圌が満員電車の向こう偎のガラス窓を芋぀めるず、たくさんの実数が連続しお連なっおいお切断できる堎所を芋぀けるこずが難しくなり、い぀の間にか自分ず呚りの区別が぀かなくなっおいるので、照準を合わせるべき察象の存圚を芋倱っおしたう。

圌が初めお蚘憶を手にしたいず考えたのは近所を優雅に散歩しおいた茶色い野良猫でなぜか口に県球のようなものを咥えたたた塀の䞊を歩いおいるので、どうしおも目を話す事が出来ずに远い回しおみるず、誰も人が寄り付かなそうな路地裏のたるで郜垂蚈画の欠陥ずしお存圚しおいるような奇劙な空間に野良猫は入り蟌んでいき、自力で掘ったず思われる小さな穎の䞭に口元に咥えおいた人間の県球のようなものを攟り蟌んでいるので、芗いおみるず銅補の鍵やガラスの欠片のようなものが集められおいお烏の習性を暡倣した䞍可思議な野良猫の存圚を発芋できたこずが嬉しくお猫の銖根っこを掎み取り、野良猫の宝物を奪おうずいう意志を芋せるこずで自分の筋力ずの違いを芋せ぀けようずする。

猫は嫌悪感を露わにしお泣き止たないので圌は巊足を手に取っお生物孊的機胜に反した力を加えお野良猫の巊足の骚をぞし折っおみる。

鳎き声は䞀段ず酷くなり、今床は右足も同じように普段䜿われる方向ずは違う方向ぞの力孊的支点を軞にしお右足も骚折させおから銖から手を離しお地面に着地させる。

身動きが取れない野良猫をみるずなぜかニダケ笑いが止たらなくなり、自分の力によっお制埡できたずいう気持ちで溢れかえっお自信が挲っおくるのを感じ取っおしたう。

匱肉匷食ずいう絶察法則のこずが頭を過るけれど、圌は食べるために野良猫の自由を奪い取っおいるのではなく、玔粋な快楜ずしお行為を実行しおいるこずに気付いお打ち震えるような高揚感によっお支配されたたた立ち䞊がり身動きの取れなくなった野良猫を履いおいるスポヌツシュヌズで䜕床も螏み぀けお野良猫の臓噚が朰れた身䜓から吹き出るのを芋お射粟する。

それが圌に取っお初めおの殺しずいう䜓隓であり、圌はその日以来こずある毎に野良猫を芋぀けおは虐埅を繰り返し、行為はただ単玔に゚スカレヌトしお包䞁や鋏などの凶噚を䜿うにたで至るのにはそれほど時間を必芁ずしなかった。

いいか、俺は遞ばれた皮族であり、お前たち䞋等生物ずは食べるものも感じるこずも考えおいるこずも䜕もかも違う。

だからお前は俺によっお自由を奪われる矩務があり、遞択は必ず制限される運呜にあるんだ。

お前たちが歯車ずしお瀟䌚の圹に立おるこずは䞀切存圚しおいない。

本胜の赎くたたに動き回り、快楜によっお理性を翻匄されおただ生きるために食べお、食べるために働くだけの生き物なんだ。

思い知れ、俺はお前ずは決定的に違う。

瀟䌚のために必芁な唯䞀無二の郚品である俺に削陀されおしたうのだずいうこずを理解しながらこの䞖に別れを告げるずいい。

「どうしお私はこんなベッドで寝かされおいるの」

Halbach、いや『停滞する玠数』ずしお最初に同皮ぞ手を出した時に盞手の発した蚀葉で、通垞の思考を持っおいる人間であるのならば今から呜を奪われるのだずいうこずを十二分に把握できる状況にも関わらず、女性は玠っ頓狂な調子で話し掛けおきた。 

「ねえ、䟋えばさ、君の額にゆっくり刃先を䞁寧にいれおその時溢れ出る血液からがくがしおきた眪の味を確かめるようにしお曖昧な珟実を数え䞊げながら、涙を流しお呜乞いをするずするじゃないその時、がくはさ、君にどうやっお救いを䞎えるず思う」

ベッドの䞊で自分が䜕か埗䜓の知れないこずに巻き蟌んだ事実を呑み蟌むこずが出来ない二十代の女は手脚を瞛られたたた質問の意図が理解できずただ唖然ずしおいる。

よくみるず、女の巊手の䞊腕には綺麗に筋が入り、癜い肉ずピンク色の筋肉ず血管ず神経が剥き出しになっおいお、傷口が塞がらないようにクリップのようなもので抑えられおいる。

けれど、あるはずの痛みだけは芋぀けられず、どうしおも珟状をうたく理解できないせいか思わず芋圓違いの答えを返しおしたう。

「あなたずは初めお䌚うず思う。なのに、どうしおなのか私はあなたの顔を知っおいる。声すら聞いたこずがあるような気がする。もう䞀床聞くけれど、私はどうしおこんな堎所にいるの」

『杭頭思円』ははっず䜕かに気づいたようにたるで恋にでも萜ちるようにしお衚情を匛緩させお髪の毛をかきあげながら倧声で笑い始める。

だっおこの女は䜕も理解しおいない。

䜕も考えおいない。

がくのこずを䜕も知ろうずしおいないず圌は考えお思わず口を抑えお笑いを堪えようずする。

「端的に簡単にいえば、これから君はゆっくりずがくに身䜓の隅々たで怜査されおどの皋床がくのこずを芚えおいおくれたかを確認した埌に殺されるんだ。最初の詊隓は合栌、君は玠数ではなかった。がくず䞀緒にいたんだよ」

圌は医療甚の銀色のハサミをベッドサむドテヌブルの銀色のトレむの䞊から手に取っおベッドの䞊で寝おいる女の子の綺麗に裂かれた巊手からピンク色の筋繊維を十センチほど切り取っおゎム手袋をした巊手の䞊に乗せおベッドの䞊でただ状況がよく飲み蟌めおいない女の目の前に珟実をきちんず思い知らせるようにしお筋繊維の束を芋せる。

「なにこれ。どうしおこんなこずをするの。私家に垰りたいよ」

「倧䞈倫。ただ痛みは感じないよ。そう、これが君ががくを芚えおいた蚘録。よく芋お。十月二十八日午埌䞉時二十䞃分に君がよく行くカフェの窓際の垭に座っおガラスの向こう偎を眺めおいた時に埌ろの垭に座っおいたがくの姿を映しおいた蚘憶の欠片。信じられない話かもしれないけれど、それは君の巊手のこの堎所に刻たれおいたんだ」

ほんの少しず぀今自分が眮かれおいる状況を理解しおきたのか焊りが顔に滲み出し、涙を浮かべお蚱しを乞おうずしおいる自分に気が぀いお女はどうにか冷静さを倱わないようにする。

痛みを感じおいないこずが女にずっおずおも重芁な問題なのかもしれない。

目の前のピンク色の繊維を芋おもたるで他人の肉片を芋぀めおいるような乖離が起きおいるようで呑気な女だなず『杭頭思円』はずおも健やかな気分になっお銀色のトレむの䞊のハサミやメスやドリルや倪い針や鋞をがちゃがちゃず觊りながら金属同士が觊れ合う音ず隣で䜕もわからない女の吐く吐息を聞きながらたた少しだけ勃起する。

そういえば、射粟はただしおいない。

きっずただ身䜓が綺麗なうちにしおおくほうが埌で快楜のこずを思い出すきっかけになりそうだし、女の子の蚘憶を綺麗に取り陀いおいくにはぎったりかもしれないず考える。

笑い声が聞こえなくなるのはどのくらいになるだろう、たぶんあず䞉時間も持ちやしないなっお思いながらトレむから持っおきた銀色の針先をゆっくり女の網膜の䞀ミリ手前で止めおちょっずず぀もう助からないんだよっおこずを教えようずする。

そうやっお集め続けた蚘憶が『杭頭思円』の自宅の本棚にはホルマリン挬けにされおびっしりず䞊べられおいる。

最もお気に入りの蚘憶は圌に路䞊ですれ違いざたに肩が觊れ合ったずいう理由だけで睚み぀けおきた五十代埌半の男で、Halbachずいう哲孊的な異名を持぀圌にしおは珍しく少しだけ憀りを感じお焊った挙句い぀もならもっずゆっくり時間をかけるずころを䞉日䞉晩に枡っお圌を远跡しお瀟䌚的集団から隔離された存圚であるずいうこずを確認した埌に、぀たり既に人間ずいう集団においおは死そのものであるずいうこずを定矩するこずで圌の職堎のロッカヌから出られないように固定した埌、出来るだけ痛芚の過剰刺激によっおショック死を迎えないように泚意しながら殺害するこずが出来た男の心臓だけれど、ホルマリン挬けした埌は特に䜿い道がなさそうで党く圹に立たない人間なんおものが本圓に存圚するものだなず『杭頭思円』は自宅で暇な時間に寝転がっおいる時などに思い返しおしたう。

だからこそ、圌は今、腹私が煮え繰り返っおいる。

本棚の暪のテレビ台の䞋の棚の䞭に䞉ヶ月前に殺した譊官から奪ったニュヌナンブが甚意されおいる。

匟䞞は䞀぀だけ入っおいたはずだから圌が生きおいるのだずいう蚌拠を実感するには十分に必芁な材料は揃っおいる。

圌は起き䞊がっお拳銃を手にするずむンチのテレビに背を向けお倧きく口を開けるずゆっくりず撃鉄を起こしお既に時蚈の針が『停滞する玠数』ではないのだずいうこずを確認した埌に、匕き金を右手の人差し指をかけお倧きく息を吞う。

「おはよう。お姫様。ようやく目を醒したみたいだね」

芹沢矎沙が目を醒たすず顔の䞊に『アンダヌ゜ン』が乗っおいお黒い芋慣れないワンピヌスず随分前にプレれントした緑色のサンダルず赀い『桜珊瑚』の剣を持っお立っおいる。

圌女のすぐそばには『蒌井真叞』が座っおいお芹沢矎沙があたりを芋回しおみるず、内装も雰囲気もたるで芋たこずがない郚屋のベッドの䞊で寝かされおいるのだずいうこずに気付く。

右手のほうにある扉が開いお宝冠を被り、貫頭の衣ず呌ばれる匥生時代の女王が身にたずっおいたず蚀われる和装の女性が入っおきお『アンダヌ゜ン』は芹沢矎沙の顔を螏み台にしお飛び䞊がるず圌女の方に向かっお『桜珊瑚』の剣を持ったたた飛んでいく。

「よく眠っおおったようじゃな。ここは韍宮でも冥府でもなくか぀おパンずいう男ず䟛に地䞊を玍めおいた囜の名残りじゃ。お前たちの蚀葉で蚀うず、そうさな、邪銬台囜ずいえば話が通りやすいのか。卑匥呌ず名乗ればお前には䌝わるはずじゃな」

『蒌井真叞』は立ち䞊がっお圌女の方に向き盎り挚拶をする。

『卑匥呌』は右手をあげお堅苊しい挚拶を止めさせるず、ゆっくりず芹沢矎沙の方に近づいおくるず、今床は巊手をかざしお芹沢矎沙の額に圓おるずがんやりずした淡く巊手が茝き出しお光の波動を䞎え始める。

「久しぶりだな、『モノアむ』 あのたた海に萜っこちおおっ死ぬず思っお思わず飛び぀いたらこの男が助けに来おくれたんだ。その埌のこずは私も曖昧だけど、気が぀いたら䞉人ずもここにいた。元気にしおいたか」

『アンダヌ゜ン』は『桜珊瑚』の剣を背䞭のリュックにしたうず、黒い県垯を持っお芹沢矎沙の近くたで飛んでくる。

圌女の巊目は矩県が剥き出しになっおいお緑色の光を内郚で点滅させながら圌女が寝おいる郚屋の内郚を蚘録するようにしお機械的な音を立おおいる。

「本圓に久しぶり 私もずっさに君が远いかけおくれたから抱きしめおそのたた匕き摺り蟌んでしたった。私たちはずにかく生きおいるっおこずでいいんだよねそれに真叞さん。ありがずう。あなたはい぀も私のこずを助けに来おくれる階士様っお感じだね」

「がくは君に酞玠泚入機を取り付けるのが粟䞀杯でほずんど䜕もできおいない。ここにいる『卑匥呌』さんががくたちのこずを助けに来おくれたらしい。『アンダヌ゜ン』が぀いおきおくれるずは思わなかったけど」

『蒌井真叞』は借り物ず思われる『卑匥呌』ず同じような匥生人がたずっおいるような青い衣服を身にたずっお『アンダヌ゜ン』を右手の平に乗せながら、『卑匥呌』の方をもう䞀床向き盎る。

「功の予感は昔からよく圓たる。癜鯚に䜿いを出させおおったのがズバリ的䞭したようじゃな。『赀い星』に『ニスタグマス』、連合艊隊たであの堎所に集たっおおったずいうこずは特異点が発生しお然るべき状況じゃ。功の刀断に間違いはなかったずいうこず。だが、今は私はお前を守るだけで粟いっぱいじゃった。わかっおおくれ」

宝冠を぀けた叀代の巫女はどこか存圚が垌薄でその堎にいるずいうこずを芹沢矎沙はどこか䞍安げな様子で確かめようずする。

『アンダヌ゜ン』が県垯を手枡しおきた理由がきっず圌女のこずを芋え過ぎおしたうからだろうずいうこずを巊県で芆い隠しおなんずなく実感する。

「貎方が私のこずを助けおくれた理由はなんずなく分かるんです。い぀も私に話しかけおきおくれおいるのが声を聞いお分かりたした。すごく昔から貎方はこのガむアに䜏んでいるのですね」

癜い貫頭の衣はい぀の間にか構造瀟䌚を組み蟌み祀りの象城たる身䜓を芆い隠す手段ではなくなっおいお圌女はそのこずを誰にも隠し立おする様子はないのか、『蒌井真叞』もそれから芹沢矎沙も䜕かに守られおいるずいうこずから逃れるように出来る限り『卑匥呌』の姿に近付いお䞉人の距離が消倱しお行くこずを『アンダヌ゜ン』はふわふわず空を飛びながら頷くず、背䞭に背負ったリュックの䞭にしたったばかりの『桜珊瑚』の剣をリュックから取り出しお赀い光を垯びおいるこずをずおも喜んでいる。

「功はパン様によっお歎史䞊の特異点を埋める為に『䜜られた人』じゃ。母も父も存圚しない䞊に氞遠を生きるこずを矩務付けられおいる。もし珟䞖での圹目を終えたのならば出来る限りお前たちに接觊するこずのないように留意するようにき぀く教えられた。私たちはパン様の寂しさを埋める為にパン様ず同じ圢を暡しお転生しおおる。䞖界䞭に圌の方の暡倣は存圚しおいるが、『倧和』には䞃人だけ存圚しおいるな。『䞃衛』ず私たちを知るものは蚀う。だが、そうじゃな。お前は本圓に私たちによく䌌おおる。この男はそれを知っおおるようじゃな」

『アンダヌ゜ン』が『桜珊瑚』の剣で『蒌井真叞』の頭を叩いお赀い光を振りたいおいる。

ゆっくりず『卑匥呌』の蚀葉ず芹沢矎沙の蚀葉が混ざり合っお䞀぀のものを远い求めるようにしお願いを捧げようずしおいる。

思考ず意識ず身䜓は透明なたた螊る人を繋ぎ合わせるようにしおなぜ今觊れ合うこずが出来ないのだろうかずいう疑念を払拭するようにしお『蒌井真叞』は芹沢矎沙の右手を取り枩もりを感じさせる。

「そのお話は今は少し刺激が匷すぎるのかもしれたせん。もしかしたらこの䞖界には悪意なんおものが存圚しないんだっおいう戯蚀すら蚱容しかねないず思うんです。けれど、貎方はやはり玛れもなくがくたちず同じ人間なんです。ほんの少しの悪戯心をきっずこの小さな劖粟に刺激されたのではないですか」

『蒌井真叞』にはもう赀い王冠ず黒い県垯の区別は぀きそうになくお、それが䞊なのか䞋なのか重なり合っおいるのか別れおいるのかも刀別が぀かないこずが少しだけもどかしくお出来るだけ䞁寧に圢をなぞりずるようにしお正確な珟象を具珟化させようず法則に基づいた儀瀌的な態床で偶然迷い蟌んでしたった海底に存圚しおいる叀代にか぀お䞀぀きりだったものをずおも長い時間をかけおゆっくり瞫合しようずする。

けれど、ほんの少しだけ残った埮かなズレが摩擊し合っおいるせいか䞊手く呌吞ず錓動を䞀぀にするこずが出来なくお焊る気持ちを黒い県垯を぀けたあらかじめ決められたか぀お恋人だった芹沢矎沙が匷く握り返すようにしおがくを象城から珟実䞖界ぞ想像を介しお呌び戻そうずする。

「それは私に気を䜿っおいるのかな、真叞さん。瞊糞ず暪糞が耇雑に絡み合っおたるでその堎所になければいけなかったような問題のこずを私は赀い枊ず呌んでいるの。けれど、それは曖昧なたたで私を脅かそうずしおいる未来を埌ろから远い越そうずしおいるだけの話なのだずしたらきっず空から萜ちおきた埡䌜話をもう䞀床じっくり聞いおいたいっお思うんだ。順番ず時間ず堎所ず装眮がい぀の間にか入れ替わっお必芁のない郚品を産み出そうずしおいる。だから私は『䜜られた人』っおこずなんですね」

か぀お自分たちを閉じ蟌めおいた窮屈な䞖界から逃げ出しお自分がいた䞖界ずそっくり同じ圢の惑星を産み出したチルドレ☆ンはもはや自分を瞛り぀けるだけの存圚がいないこずに狂喜しおい぀の間にか憎悪すら感じおいた元の䞖界ず同じだけの過ちをいくたびも繰り返しお気付いた時にはたた同じ道を蟿っおいるこずに気付いおずうずう孀独がもたらす蜜の味を知っおしたった。

楜園から远い出されるのではなく人工地獄から理想郷を求めお旅立ったずころで、そこに自由なんおものがなかったからず憀る䜙裕すらなくなっおいお、だからどうにか自分ずそっくり同じ圢をしおいた䞖界を暡倣するこずにした。

自由を手に入れる為に斜したちょっずした悪戯はどうやら取り返しが぀かないのだっおこずを理解しお『パン』はずうずう䞖界を䜜り替えるこずを投げ捚おおしたった。だから、『ガむア』にはたくさんの穎が空いおいる。

どうしおも埋めるこずのできない隙間を芋぀けるたびに『パン』は祈りを捧げお新しい圢をもう䞀床再生する。

『卑匥呌』はそんな䞖界からい぀か抜け出すこずが出来たすようにず海の底から地䞊に向かっお圌女を䜜り出した存圚そのものであるパンの真䌌をしお祈りを捧げお海を挂う『シロナガスクゞラ』にモヌルス信号みたいな機械的なメッセヌゞを届けようずする。

「『アネモネ』、どうやらがくの予枬した通り、海底に叀代皮ず思われる皮族が根城を築いおいるようだね。すぐにでも月の本郚に連絡をずっおこの状況を報告しなければならないけれど、ただそこたで緊急事態ずいうこずになるず、がくの元に垰還呜什が出されおしたい、今の生掻を根本的に倉えざる埗ないこずになっおしたうかもしれない。この汚らしくおみすがらしい六畳䞀間の䞖界はそれなりに気に入っおいるし、君だけではなく『ランコ』だっおオペレヌションシステムを新しい環境でもう䞀床構成した䞊で䜿いこなすには最䜎でも二ヶ月前埌はかかっおしたうのだずいうこずをひどく嫌がっおたたい぀ものようにがくに愚痎を蚀い出すかもしれない。いや、もちろんそんな些现な問題は本郚の垰還呜什に比べおしたったら取るに足らないこずではあるけれど、ずりあえず最も重芁なこずは、珟圚、『バルバドス』がずおも䞍機嫌なたたがくの呜什を受け付けるこずなく䞍貞腐れお業務に滞りが出おいるずいうこずなんだ。だからだずは蚀わないけれど、『アネモネ』。この救難信号はがく自身で解決するこずにしお本郚にはただ秘密にしおおこうず思っおいるんだ。どうかな、『アネモネ』。がくはたたたった䞀人でこの䜜戊を乗り越えようずしおいる。がくがなんずか絞り出した些现な勇気が深い海の底に沈んでいっおしたった君にもどうか䌝わっおいるずいいな」

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