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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第6話 AI創作の権利は?

 昨年はAIに関する話題が世の中を沸かせました。AIと知財という観点では、筆者は約7年前に『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書、2017年)で、AIによる自律的な発明の可能性について少し触れました。
 人工知能が「発明」をする可能性も現実味を帯びてきました。たとえば、IBMが開発した質問応答・意思決定支援システム「ワトソン」は、新しい料理のレシピを考えることも可能です。英語版となりますが、『CognitiveCooking with Chef Watson』(シェフ・ワトソンの経験的知識に基づいた料理)というレシピ本まで出版されています。……食品分野でも様々な特許が成立しているので、ワトソンの考える料理の中には特許に値するものもあるかもしれません。
 その後、「DABUS」と名付けられたAIによる自律的な発明とされるものが世界中で特許出願されました。発明者の欄にAIの名前が記載されたこともあり、ほとんどの国において特許権は取得できませんでしたが……。
 日本の特許庁は「AIを利用した発明については、自然人が学習用データの選択や、学習済みモデルへの指示等で関与することが想定されており、自然人はその発明の技術的特徴部分の具体化に創作的に関与している」(特許庁 審査第一部 調整課 審査基準室「AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について」2023年11月7日)として、「現段階では現行法制度上の発明者の要件の考え方で対応可能ではないか」との解釈を示しています。
 自然人が「道具としてAIを利用」する場合であれば、特許になり得るということです。「道具としてコンピュータを利用」して得られた発明は従来多くありましたから、それと同じといえるでしょう。たとえばあまり知られていませんが、京都大学の山中伸弥教授は2006年8月に4種類の遺伝子を体細胞に導入することでiPS細胞作製に成功する前、コンピュータによる解析を通じて何万という膨大な遺伝子の候補を約100種類まで絞り込んだことで、一気に時間を縮めました。
 ところで、一般の方が興味を持っているのは、特許よりも著作権でしょう。
 Midjourney、Stable Diffusion、NovelAI Diffusionなどの画像生成系AIや、Chat GPTに代表される対話型AIが2022年から世界中で急速に利用者を増やしてきました。
 画像生成系AIは、簡単な文字列(プロンプト)を入力するだけで複雑なイラストを描けますし、対話型AIは簡単な質問文に対し、非常に整理された回答文を生成できます。さすがにこの程度まで自然人の関与が薄くなってくると、「思想又は感情を創作的に表現したもの」には当たらず、著作権を認めることは難しいように思います。
 実際に各国の動きを見ても、英国など一部例外を除き、AI生成物に著作権やそれに類する権利を付与することには否定的です。そのため、今後は「これ全部オレがやったんだ」と、まるですべてが自分ひとりの創作であるかのように装う人が出てくるでしょうし、AI生成物をブロックチェーンや電子透かしで管理しても、その仕組みを回避しようとする人が現れるでしょう。
 ユーザーの立場としては、AI生成物はあくまでも参考程度として利用すべきだと思います。権利が主張できないリスク、他人の知的財産権や肖像権などを侵害するリスクはもちろん、誤った情報の拡散や、コンプライアンス上の問題などのリスクもあるからです。やはりAIは道具として、最初のアイデアを得るためだけに使うとか、最後のブラッシュアップのためだけに使うといった程度にとどめ、これらを呼び水として自らの創造力を存分に発揮することが、未来に向けた新たな創造へとつながっていくように思います。

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2024年2月号掲載

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