夢や理想よりも、愛は大切なものかもしれない

金曜ロードショーで『LA LA LAND(ララランド)』が放送されたことを受けて、周りの友人では「幸せについて考えさせるなー」という声が目立って見えた。僕は映画館で観ていなかったから、なんだいなんだいそんな映画なのかいと、じっくり観ることにした。

ミュージカル映画ということで、全体は音楽とともに盛り上がりながら楽しみ、後半にかけて押し寄せてくる展開には、たしかに考えさせられるものだった。

考えもポツポツと湧いてきたので、ここに少し書き残しておきたい。
※ここからはネタバレも含みます。観てない方はお気をつけて。

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ざっと内容を確認しておこう。

この映画は売れないジャズピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と女優を目指すミア(エマ・ストーン)の出会いと別れを描いた恋物語だ。お互いに夢や理想を語り、愛していた二人にほころびが生まれたのは、ほんの小さなきっかけだった。

ミアは女優を目指していたが、限界を感じていた。大学を中退し一念発起するも、オーディションはことごとく落ちてきたからだ。なんとか現状を変えようと、助言を受けた一人芝居を企画する。一方でセバスチャンも、現状の打開策を探っていた。

そんななか、ジャズバーで旧友のキーンに出会いバンドに誘われることになる。方向性は違っていたが、ミアのことや夢のお店の資金のこともあり、バンドに加入する。

セバスチャンは忙しくなった。ツアーで毎度飛び回り、ミアと会う時間もほとんどなくなった。彼女を想い、ある時喜ばせようとサプライズするも、夢を追えていない状況を突き詰められ、口論になる。その後、ミアが前々から準備していた一人芝居に、仕事でセバスチャンは間に合わなかった。これが決定打となった。

別れを告げて実家に帰るミア。消化しきれない感情の中で、一人芝居を観て興味を持った映画関係者からオーディションの連絡が来る。彼女は長年夢見ていた女優の切符をようやくつかむことになった。ただ、活動の場所はパリになる。アメリカで活動するセバスチャンとはそのまま距離をとった。

それから5年、ミアは女優で活躍していた。夫も子供もいる。夫に連れられたまたま入ったいい雰囲気のジャズバーの名は「SEB'S」。セバスチャンの開いたお店だった。ミアを目の前にした彼は、ピアノを奏でながら「もしあの時こうしていたら」の世界を想像する。

ミアの隣でジャズを聞いていたのは、自分だったかもしれない…

そう思いながら、変わらない現状を受け止め、二人はまた違う道を歩んでいく。

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二人の夢である「ジャズのお店を開くこと」と「女優になること」は叶った。でも最後の回想シーンの後では大きな切なさが残る。それぞれ気持ちは浮かばれない。なぜだろうか。

もちろん、目の前の現実が変わることはなく、受け止めていくしかない。キーンとバンドを組まなければ、セバスチャンはお店を開くこともできなかっただろう。夢を叶えるには、こうするしかなかったのかもしれない。

そうなのだ、そうなのだけれど。それは幸せだったのだろうかと思うと疑問が残る。映画の中で、夢のお店の名は「bird」を譲らなかった。尊敬するジャズピアニストはこぞってチキンを愛したのだからと。でも現実は、ミアの提案した「SEB'S」という名で登場する。ミアの女優業の始まりも、一人芝居に映画関係者の方が観にきてくれたことがキッカケだったが、これをやるといいと勧めたのは、ほかでもないセバスチャンだった。

二人の夢の中には、すでに「二人でいること」というのが含まれていたのかもしれない。

僕がよく読む詩集の中に、若松英輔さんの『幸福論』がある。タイトルとなっている詩「幸福論」には、ここと響くものがある。

闇にあるとき 人は
もっとも 強く
光を感じる そう
言った 人がいます

あなたが わたしの
心に 残していった
この 暗がりも
光との 出会いを
準備する
ものなのでしょうか

でも わたしは
薄暗い 場所で
あなたと いられれば
それで 十分だった

明るいところで
ひとり
何をしろと
いうのでしょう

夢や理想は、とても大切なことのように思う。でも、それが大切な人と共有するうちに、その人の存在の方が大きくなることはあるだろう。

出会いによって影響し合い、夢や理想は、時に形を変えうるものだ。

そういう意味で変えがきくが、人に替えはきかない。若松さんの同詩集にはこんな言葉もある。

忙しすぎては いけない

大切な人に
会えなくなって
ひとりで困っているのを
見過ごしてしまう

忙しそうにしていると
心を開いてくれるはずのない人が
いつの間にか
黙ってしまう

夢や理想を追い求める時、それを共有する人がいるのなら、忘れてはいけないこと。『LA LA LAND(ララランド)』から教えてもらった。

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