見出し画像

コンサルの弊害 ~ 概念実証(PoC)疲れ

最近、どこのコンサルティング会社もみんな「新規事業を企画して、素早くモック作ってポック(PoC)しましょう!」と言っている気がする。

「これだから起業経験のない素人コンサルどもは...」

というのが私の率直な感想だ。大企業はどこもかしこも新規事業に困っており、コンサル会社のお得意なそれっぽいパワポで、それっぽい提案をすると、それなりに受注できるのが今のタイミングだ。

「半年間で企画~モックを作って、そのあと半年間でポックしましょう」というのが彼らのお決まりの提案フォーマットだ。この提案が蔓延ったせいか、市場は空前の「ポックブーム」だ。世の中の新規事業部門は、①まだ困っているか、②ポックしているかの二択と言っていい。この提案フォーマットは、ビジネス界の「タピオカ店」同然だ。この活動の失敗をクライアントが認識するのは、おそらく3~5年後だろう。確信犯的にコンサルフィーを稼ぎたいだけなら、この提案フォーマットを批判するつもりはない。

長らく起業家をやっていて、国内国外のたくさんの事例を目したり、仲のいい友人や自分の身をもって事業創造の経験を重ねると、一つだけ確かなことがわかってくる。それは、

「成功は一夜にしてならず」

ということだ。どうやら、

「成功するスタートアップは一夜にして成功する。ただし、その一夜というのは大抵の場合 1,000 日目から 3,500 日目の間のどこかに起こる」

という言葉もあるらしい。

「新規事業を企画してモック作ってポックする。本格的にやるかやらないかはポックの数字を見て判断する」というのが、彼ら(コンサル会社)の論理だ。確かに論理的には正しいし、本当にそんなことができるなら合理的だと私も思う。しかし、残念ながら、安心して投資できるポックの数字が出ることなど殆どない。この方法論を具体例として表すと、

「会議で検討した企画案に基づき、動画を10本作成して、YouTubeにアップする。どれか一本でも100万再生されれば、本格的にYouTuberになる」

と言っているに等しい。しかし、こんなことはまず起こらない。現実的に起こり得るのは「ファンが10人できた」とか「10回リツイートされた」とかその程度だ。運良くヒットするケースもあるかもしれないが、確率が低すぎる。こうしたポックの結末は明確だ。

「ひとつも100万再生されなかったから、やはりYouTuberは諦めよう」

ポックによる合理的な帰結はこうなる。

「10回リツイートされたし、動画自体は面白いと思うから、明日からも引き続き頑張ろう」

とはならない。

何が言いたいかというと、ポックで市場性を検証をすると、大抵は市場自体がないという結論に至るということだ

しかし、私はポック自体を全否定しているわけではない。有意義なポックもある。ポックで確実に検証できるのは、以下の5点だ。私は自らの事業仮説について、ニーズの有無を検証するよりも、まず以下の5点の検証を優先する。

① それをやることに、違法性がないか
② 現在(近未来)の技術で実現可能か
③ サービスを提供した時に、オペレーションが回るか
④ どの程度の構築・運用コストがかかるか
⑤ 既存ソリューションと性能比較して、何倍優れているか

特に重要なのは⑤だ。⑤が10倍優れていれば、いきなり市場から理解されなくても、徐々にサービスが広がっていく可能性がある。その核となる要素を信じ、市場に対して徐々にフィットさせていく行為を繰り返し、PMF(Product Market Fit)に近づけていく行為こそが事業創造の現場のリアルだ。先に挙げた5つの要素は半年で検証を終えることができるかもしれないが、市場との対話は、いつ答えが出るかわからない。先ほどの話を信じるならば、「1,000 日目から 3,500 日目のどこかに現れる」ということになる。

「半年でモックを作って、半年でポックして、うまくいったら本気で取り組む」というアプローチを繰り返していると、結局はどのモックでも本格的な投資判断に耐えられる成果は出ず、そのうち「概念実証(PoC)疲れ」という現象に陥るだろう。実のところ、大企業でポックを繰り返している当事者たちも、そろそろ気付き始めているのではないだろか。このまま続けても疲弊するだけだと。

「可能な限り早く先に挙げた5つの要素を検証し、いつかその一夜が来ると信じ、成果が出るまで(予算が尽きるまで)やり続ける」

というアプローチがむしろ正解だ。

とりあえず、新規事業コンサルを名乗る者たちは、一度コンサル会社を辞めて、起業したほうがいい。資金繰りの心配もないヌルヌルのぬるま湯につかって、自称プロ集団を名乗る素人集団に囲まれて、しかも他人のお金で事業開発の経験を積むのはハッキリ言って時間の無駄でしかない。LinkedInの創業者リード・ホフマンの名言のひとつに、「スタートアップとは、崖の上からから飛び降りながら、飛行機をつくるようなものだ」というものがある。それくらいのスリルを味わいながら経験を積む方が効率的だろう。皆が大事に守ろうとしているコンサル会社のお給料など、ビルゲイツの稼ぎから比べれば誤差だ。仮に墜落しても、その誤差のような全財産を失うくらいのリスクしかない。そして、全財産を失っても経験は残る。時間と経験は金では取り戻せない。

少なくとも、「モックしてポックする、当たったら本格的に」という現場のリアルをまるで知らないマヌケな提案書でプレゼンする人生は歩まなくて済むだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?