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祭(いのり)のまち / しもつけ随想05

 例えば、年末にどこか都市部の街なかを歩くとする。クリスマスが終わってから、年越し、初詣までの一週間のうちにクリスマスツリーやイルミネーションから正月飾りや縁起物へと、変わり身の早さに驚くことがある。仙台に住んだ時などは、中心部のアーケードに赤い大きな仮設の鳥居とイルミネーションが同時に出現する光景を毎年目にした。不思議に思いつつ、なんだか「日本」を感じた。
日光の社寺の周辺や門前町でも、参道や家々の軒先に提灯がともり、一方でクラシックホテルのヒマラヤ杉にはイルミネーションが光る。考えてみれば、仙台で不思議に思えたあの光景は故郷にもあった。

 その門前町の風景は、近年大きく様変わりしている。駅前から社寺まで続く日光街道沿いの東町(ひがしまち)地区では、道路(歩道)の拡幅事業が行われ、それに伴い沿道の建物もリニューアルされているからだ。
 この目的には「日光連山を眺めながらゆったり歩いていただきたい」という地元の思いがあったと聞く。約20年前の計画段階では、住民と行政のワーキンググループでの話し合いによりコンセプトや考え方が抽出・共有され、まちづくりのテーマを「祭(いのり)のまち」とした。
 社寺とその門前町では、地域総出の大きなものから町内単位の規模のものまで、ほぼ毎月どこかで祭りが行われている。山岳信仰を起点とした信仰が今も息づく門前町の町衆は、自らの地域のアイデンティティーを「祭」に見出した。そして、このテーマに沿って22項目の“あり方”を示した「まちづくり規範」も作成され、街路デザインもこれらに則った。
 龍をあしらった新たな街路灯は、この時の提案が実ったものだ。龍は東の守り神で、旅人を見守り、人々の願いを天に伝えるとされ、東照宮の彫刻類の中でも多くを占めることから「東町」のシンボルとした。歩道の舗装には御幣(ごへい)の形があしらわれている。こうした独自のデザインや、狙いの通り広々とした歩行空間の整備がかなった一方、民地での「家並みづくり」はまだまだ課題が多い。
 さまざまな課題をたどれば「暮らし」に行き着く。職住の分離や自動車中心の移動など暮らしの変容は風景を変える。我々NPOもこの整備や規範づくりと並行して産み落とされ15年が経つが、試行錯誤の中にいる。しかし、時がたつほど、テーマや規範があって良かったと思う瞬間が増えてきた。目に見えるアクションだけではなく、こういうことも重要なのだ、と。

 まちづくりの現場では、守り継ぐことと変えていかねばならないことが常にせめぎ合う。我々のこれまでの活動は「温故知新」という言葉が形容に最適だ。地域の文脈を訪ね、解いてこそ、新しい世界は開けるのではないかと思う。

 ツリーや縁起物は季節によるが、龍の街路灯は年中変わらずにともる。それがこのまちの日常なのだが、年末になると私には一層「いのり」の風景に見えてくる。来年はどんな年になるだろうか。今年は良い年にしたい。それぞれの心に小さな願いの灯がともり、山々に抱かれた社寺と門前町にその思いや祈りが集まってくる。今年ももうすぐいのりの灯がともる。

しもつけ随想_okai05

[2021/12/15下野新聞掲載]

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