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金谷ホテルの150年を俯瞰し、寿ぐ。

昨年、日光金谷ホテルが創業150年を迎えた。
「現存する日本最古のクラシックホテル」という枕の通り、寛ぎと共に時間旅行を体験できる、まさに“日本を代表する”クラシックホテルだ。

今回、創業150年を記念して記念誌「金谷ホテル150年」が出版された。

#日経COMEMO #NIKKEI

150年、と聞いてどんなタイムスケールを想像するだろうか。
人それぞれだろうが、明治から大正、昭和、平成、という幾つもの激動の時代を経験して今なお生きた空間であることを考えると、貴重さが一層増す。
近代化から大戦や様々な時代を経て現在までの日本の歴史を凝縮したものがこのホテルにギッシリと詰まっているように思える。
ホテルの形容に「ギッシリ」とは少々聞こえが良くないかもしれないが、それはバックヤードにであって、ゲストが過ごす空間には大小にさりげなく散りばめられている。
そして、その空間を包むのもまた時を経た建築なのである。

この空間を求め、様々なゲストが訪れた。
その中には著名なゲストも含まれる。
イザベラ・バード、フランク・ロイド・ライト、夏目漱石、渋沢栄一、アルベルト・アインシュタイン、白洲次郎、藤田嗣治、吉田茂、池波正太郎…など、書き出すだけで錚々たる顔ぶれが並び、さらには昭和天皇をはじめ皇族の方々や国外のロイヤルファミリーも訪れている。
自家発電設備、自動車や電話の導入、畜産部の運営など、それぞれの時代に先進的な取り組みをしており、なおかつ、テニスコート、プール、スケートリンクなどのリゾートならではの楽しみを提供する施設も充実させてきた。
それらは、スケート、スキーなど日光のスポーツ文化をも牽引したのだ。

これらを支えたホテルスタッフ(ここでは「無名のアルチザンたち」と表現されている)の物語も収録されている。

ここからはさらに個人的な感想になるが、初代の金谷善一郎と二代目社長の金谷眞一の黎明期から発展期にかけての「物語」は本当に興味深いものだ。
ある時には、一緒にため息をつきたくなり、ある時にはほんの少しクスッと笑ってしまうような温かいエピソードもあり、そして、激動の時代に新たな事業を切り拓き、「経営」していくとはどういうことか、というのを教えてくれるような物語でもあるのだ。
感嘆・感心の連続である。

是非とも、この一冊をお手元に。
「日本のホテル」の歴史を、江戸以降の日光の歩みを、ひいては近代以降の日本の有りようを教えてくれる。

かくいう私も金谷ホテルから直線距離で1㎞くらいの場所で生まれ育ったのだが、このホテルのことを勉強しながら新発見の連続で驚き、感動の連続だ。
「ブランド」という言葉がよく使われるが、この金谷ホテルの歴史の積み重ねを指して「ブランド」という言葉を使うにはいささかチープなようにさえ思えてしまう。

あ、嗚呼、なんだか力が入ってしまった。(悪い癖だ)

たくさんの貴重な写真、それは建築・空間、食器や料理、風景などが詰まっているし、知られざるエピソードも満載だ。
めくって目で楽しむのも良いと思う!
写真は美しく、楽しい。使用されてきたレトロなグラフィックも良い。

現在は、日光金谷ホテルと中禅寺金谷ホテルのそれぞれショップにて販売しているほか、オンラインショップでも販売中。

今後は、各書店にも並ぶ予定だそうだ。

それから、150周年に関連して、「150の宝物」という企画も進行中で、こちらも是非ご覧いただきたい。

150周年ということで、金谷ホテルの宝物を“150”挙げていく企画だ。
150のうち、現在は117まで。
人、物、建築、食などなど、様々な角度で150の宝物が登場している。
(地元でも知られていないであろうことばかり!)
個人的にいくつか推しもあるのだが、また別の機会にご紹介しよう。

繰り返しになるが、この金谷ホテルにはが時間が、その層「時層」が折り重なり詰まっている。
それらに触れ、辿り、楽しむのに大切なのは「俯瞰」と「イメージ」ではないかと思う。
この大きな助けになる「金谷ホテル150年」と「150の宝物」を是非ご一読いただきたい。

岡井 健 | 界隈創造舎

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