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Texas大学交渉コンペ

今回は、去る10月14日に学内の交渉コンペ(Texas Transaction Skill Competition)がありましたので、それについて書きたいと思います。

結果を先に書きますと、晴れてUpper Class Best Negotiatorを受賞することができました。

以下では、コンペの概要に触れた上、どのように準備したか、コンペ当日の雰囲気、感想等について書いていきます。

同じような交渉コンペが他のロースクールでも行われているのではないかと思います。私のように実務経験がある場合、それだけでだいぶアドバンテージではあるのですが、他方で、必ずしも英語での交渉に慣れているとも限りません。そのような前提の下、実務経験を生かしつつ、英語力の不足を補うために、どのように準備して臨んだかといったあたりが参考になりましたら幸いです。

なお、冒頭の写真は、今回のコンペの受賞者全員(1L、Upper Classそれぞれにつき各3部門で、計6名)で受賞後に撮影したものです。


コンペ概要

まず、コンペ概要について書いていきます。

主催者

主催者は、Texas Business Law Societyという学内の団体です。ビジネスローに関心のある学生向けに、学外の諸組織(Texas所在のローファームなど)とのネットワーキングの機会を提供することを目的としているようです。

同団体は、ネットワーキングの一環として、毎年1回、intramuralのコンペを開催しています。今回のコンペもその一つのようです。

流れ

コンペ当日の3週間前から具体的な動きがあり、以下のスケジュールで進みました。各ステップの詳細については、後ろの方で書きます。

9月24日(日) Term Sheet (TS)などの共通資料配布
10月1日(日) 基礎知識確認のための全体向け講習会@Zoom
10月6日(金) TS等に関する質問提出期限
10月8日(日) TSマークアップ提出期限
10月11日(水) 交渉相手方のTSの配布
10月14日(土) コンペ当日

事案

交渉対象となる事案は、新規事業(エネルギー、データセンター関係)に係るJVの契約交渉です。当該事業において既に豊富な経験を有するマジョリティ投資家と、当該分野への投資を今後活発化させようとしているマイノリティ投資家(PEファンド)の2者が当事者として登場します。事業を担うビークルは、Delaware州法に基づくLLCです。

コンペ参加者は、いずれかの当事者の代理人役をアサインされます。その上で、クライアントが本交渉を通じて何を獲得したいかのリクエストについても各当事者固有の機密情報として開示されます。リクエストについては、色々ディテールはあるのですが、最も重要なのは、「いずれの当事者も、ローヤーがディールをまとめることを強く望んでいる」という点です。

私は、マイノリティ投資家の方の代理人をアサインされました。

参加者

コンペ全体の参加者は、100人超と聞いています。

ただ、全員が同じ事案について交渉するというわけではなく、まず、1LとUpper Class (2L, 3L, LL.M.)で別の事案に分けられます。上記で説明した事案は、Upper Class用のものです。

Upper Classの参加者は、24人でした。このうち、5人がLL.M.からの参加です。5人の内訳としては、3人が実務経験あり、2人が実務経験なしです。

コンペに向けた準備

当日までの流れは上記のとおりですが、その流れに沿って各ステップの詳細を書きます。

共通資料の配布

コンペ3週間前に各参加者宛に以下の共通資料が配布されました。

  • Case Statement
    :事実関係について書かれたもの。両当事者共通。

  • Prompt
    :自分がどちらの当事者を代理するかと、当該当事者の交渉方針・意向が書かれたもの。各当事者に固有の機密情報。

  • Term Sheet
    : 全参加者がマークアップの対象とするもの。LLCを使ったJVに関する基本的事項が手短に書かれています。2ページなので短いです。

  • Redline Instruction
    : Wordの比較機能を使ってRedline版を作る方法についての説明です。配布されたオリジナル版と、提出用のクリーン版の2つを比較することで、Redlineを作成することが前提となっていました。(※)
    (※)他方で、私は、編集作業をすべて変更履歴をOnにして行ったので、それをRedlineとして提出しました。このアプローチの方が、変な変更履歴になりにくいです。というのも、クリーン版同士をWordの比較機能で比較すると、差分が正確に出るのは間違いないのですが、時折、思考過程に忠実でない変更履歴の見え方になることがあります。・・・やや潔癖すぎる感も否めないですが、この辺は、日本で契約実務に関与されている方ならピンとくるのではないかと思います。

  • Negotiation Rubric
    : 審査員の採点表です。以下のような感じでした。

Negotiation Rubric

全体向け講習会

コンペ当日の2週間前に、Mandatoryの講習がオンラインで開催されました。

講師は、Holland & Knightの弁護士と、White & Caseの弁護士でした。交渉に臨むにあたっての基本事項(①そもそもTSとは何なのか、②交渉対象であるJVとは何なのか、③JV交渉においてよくイシューとなる点)について教えてもらいました。

また、基本知識を補うために有用な教材も教えてもらいました。一つは、Practical Lawです。Practical LawはWestlawからログインできます。日本にいたときからちょくちょく聞いていたデータベースですが、あまり使ったことはなかったです。今回は、後述のとおり、だいぶお世話になりました。

もう一つが、以下のFeeFieFoeFirmというサイトでして、ここでは、U.S.のlaw firmが公表しているクライアント向けアラートなどが検索できるようになっているようです。今回は使いませんでしたが、いずれ使うかも知れません。

https://www.feefiefoefirm.com/

質疑応答

上記講習会後、TSにマークアップするにあたって不明点等があれば随時主催者にメールで質問することができます。個別に行った質疑応答の結果は、随時全体宛にも公表されます。

当方としては、そこまで深刻な疑問があったわけではないものの、ドラフトを1週間握らされるよりは、何らかのインタラクションを主催者との間でした方がcomfortableだったので、少しだけ質問しました。具体的には、マークアップをする上でのスコープ(※)を確認する趣旨での質問を複数提出し、回答を得ました。

(※) 細かくなりますが、今回の事案の前提事実として、マイノリティ投資家による具体的な金銭の拠出は、LLCへのエクイティ出資ではなくて、別途ローンの形で行うことになっていました。このことを前提に、今回の交渉対象となるJVのTSにおいては、金を出すまでに必要なステップ(DDをCPにするなど)は対象としておらず、あくまで投資実行後のJVのガバナンス・配当方針等にフォーカスすることでよいか、というのが質問の趣旨でした。情況的に質問するまでもなくそのような理解でよさそうでしたが、念のため確認した次第です。

マークアップの提出

コンペ当日の1週間前にマークアップを提出しました。提出までの準備については、通常どおり、①よく読んで理解し、②クライアントのリクエストに沿ってマークアップしていく、だけではあるのですが、とりわけ以下の点について留意しました。

Practical Lawをだいぶ参考にした

JVについては、これまでの実務経験において、文脈は異なるものの、再エネ関係でたくさん見たことがあるので、十分勘所はあったと思います。ただ、Delaware州法上のLLCを触ったことは当然なく、また、米国における相場感も分からなかったので、この辺を前提知識として補う必要がありそうでした。

そこで、講習会において示唆されたとおり、Practical Lawをだいぶ参考にしました。日本にいたとき、いずれ使い慣れておきたいと思っていたので、この際、今後の実務での練習も兼ねて、しっかりめに使ってみました。

そうすると、"Minority Protections in Joint Ventures"や、"LLC Agreement Checklist"といった割とピンポイントな記事を見つけられたので、これらが相場感の把握等に役立ちました。

どういう方針でマークアップしていくか?

マークアップの全体的な方針について、Judgeによる採点という観点から悩ましかったのが、以下のいずれの方針で臨むかです。

①Promptに書いてあるクライアントのspecificなリクエストを適切に反映していることが、一見してわかりやすくなるように、最小限かつto the pointのマークアップに絞る(例えば、マイノリティ投資家のconsent rightにつき、当事者が具体的に希望しているアイテムだけに絞る) OR

②引き出しの多さを示すために、実務上もままあるように、market standardなマークアップは幅広に入れていく(現に今回のpromptにおいても、「一般的なマイノリティ投資家(15%程度の持分)の観点から必要そうなものは入れてほしい」とあるので、この点に沿ってはいます)(例えば、consent rightについては、Practical Lawなどで把握した相場感から、一般的かつ本件の文脈に即していると思われるものは、もれなくカバーしておく)

結局、②の方針にしました。というのも、そちらの方がより実務的ではあるし、審査員がしっかり読んでくれるという前提であれば、少なくともポイントを落とすことはないはずだと思ったからです(ただ、審査員の好みによっては、to the pointでないということで印象が悪くなる可能性はやはり否めません。これは、実務において、クライアントや、レビューワー弁護士を相手にするときも同じだと思います。)。

②の方針で望んだ結果、当方のマークアップは、それなりのボリュームになりました。元々2頁だったTSが、4頁超になりました。

相手方マークアップの受領

コンペ当日の3日前に、交渉相手が誰になるかが公表されるとともに、当該相手方によるTSマークアップが送られてきました。

これをもとに交渉ポイントを検討します。具体的には、現場でクラリすべきポイントや、どこが譲れて、どこが交渉対象になるかをまとめておきます。特に、相手側のTSをベースに議論をする場合、自分側のマークアップを交渉の現場で押し込んでいく必要がありますが、時間の関係で口頭で全部伝えるのは限界がありそうだったので、どのタイミングでどれを優先的に伝えるべきかをシミュレーションしておきました。

コンペ当日

当日の流れ・前提

交渉当日は、1回30分のラウンドが2回行われます。各ラウンドで相手方は異なります。また、各ラウンドで、自分のTSからスタートするか、相手のTSからスタートするかも異なります。

交渉には、双方の代理人だけが来ており、Principalは同席していないという設定です。なので、その場で合意することはそもそも目的とされていません。むしろ、お互いのマークアップを手元に置いた状態で、相手方の意向のクラリや、合意できるところは合意しつつ対立点の抽出、Principalに持ち帰る宿題の確認など、がゴールとなります。

以下、各ラウンドについてなんとなくの雰囲気を書きます。

1st Round

相手方は、JDの学生さんで、Judgeは、NRFの弁護士でした。相手方が数分遅刻したのですが、その間にJudgeと話す時間がありました。お互いエネルギーを専門としていることが分かり、ちょっと仲良くなりました。

このラウンドでは、相手方のTSからスタートしました。先方のTSをベースに諾否を回答するのが自然な流れである以上、全体的に私の方でリードする形になりました。相手方のTSについては、全体的に概念整理のような玄人っぽい?マークアップが散見されたので(※)、特にサブスタンスを変えるものではないことを確認していきました。
(※)なお、後で聞いたら、相手方は卒業後はMilbankでFinance Lawyerとして働く予定みたいです。マークアップを見る限り向いているように思います。

その次に、こっちのマークアップの検討です。前述のとおり、こちらもたくさんあるので、結構時間がかかりました。前述のとおり、Consent rightsを大量に仕込んでおいたのですが、相手方が「結局、当事者は何を重要視しているのか?」というナイスなツッコミをしれくれたので、「実は…」という感じで、To the pointな交渉ができました。

Judgeからはその場で口頭で講評をもらいましたが、全体的に高評価でした。なお、Judgeの正式な講評は、書面にてnext couple of weeksに送付すると聞いておりますが、本稿執筆時点では受領しておりません。

2nd Round

相手方は、JDの学生さんで、Judgeは、Private Equity関係のファームに努めている弁護士2人です。

このラウンドでは、当方のTSからスタートしたので、向こうが議論をリードして、応諾可否を伝える流れになりました。

相手方がやたらこだわるものの懸念点がよくわからない論点があったので、そこは結構粘りました(特に、1st Roundで特にイシューにならなかった点だったので、こだわるのには何か行き違いがあるのでは?という気がしたというのもあります。)。対応としては、自分のクライアントのこだわりポイントを示した上で、他論点も組み合わせたパッケージディールを提案するなど工夫できたように思います。また、歩み寄るための中間案などのアイディアも当意即妙に出てきたので、その点もよかったです。

講師からの評価は、全体的に高かったです。特に、上記の中間案などの点もあり、クリエイティブだったと言われました。あと、ディテールに拘らず、大きなコンセプトレベルで議論できていたのがよかったとのことです。この点は、自分ひとりではどうにかなる問題ではないので、相手方に恵まれたというのが大きかったと思います。なお、講評が始まるや否やProfessional Backgroundを教えてくれと言われたので、実務家感が溢れ出ていたのだと思います。

Happy Hour+結果発表

交渉が2ラウンド終わったら、その後は、Happy Hourということで、Judgeを務めて頂いた弁護士の方々も交えて懇親会でした。

懇親会の最中に結果発表がされましたが、冒頭記載のとおり、私は、Upper Level Best Nagotiatorを受賞しました。一応賞金($1,000)がもらえるみたいです。

また、LL.M.から参加したクラスメートのうち他の2名も、Upper Level Best Overall ($1,200)、Upper Level Best Drafter ($1,000)をそれぞれ受賞していました。Upper Levelの3部門については、LL.M.が独占したことになります。大変誇らしいと思います。なお、Best Drafterの受賞者は、私と同様、母国(メキシコ)での実務家ですが、Best Overallの受賞者は実務経験はありません。

感想・今後の展望

感想

今回事案となったJVについては、前提となる法制度や文脈は異なるものの、日本国内の実務(とりわけ再エネ関係)で多く経験していましたので、引き出しの多さは全参加者の中でもおそらくトップだったのではないかと思います。

ということで、スタートの時点で相当なアドバンテージがあったのは間違いないのですが、英語力が全参加者の中でワーストだったのは間違いありません。英語力の不足を実務経験で補った上で、受賞という結果を得られたのはやはり喜ばしいでした。なお、英語力の面で言うと、今回は、1対1の交渉であるため自分がコントロールできる局面が多く、かつ、内容にも勘所があって、事前に作り込んだ書面をベースに話せる、という好条件が揃っていたので、弱点が目立ちにくいという面はあったと思います。

今後の展望

来年の春に他大学も交えたCompetitionがいくつか予定されており(UCLA、Dukeなど)、UTからも、今回のコンペ参加者を中心にチームを組成して派遣する予定のようです。私もいずれかのコンペに参加するかもしれません。

動きがあったら、また何か書きたいと思います。

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