地球との鬩ぎ合い

 紹興酒がまるでイタリアのワインセラーのように並ぶ、なんとも異空間な立ち飲み居酒屋の2階で一人で呑んでいた。

 地球温暖化が進む地球で、負けじと冷たい風を送り込んでくる北風は、10月下旬にようやくやってきた。毎年のように”観測史上”という言葉を耳にする。地球は人間によって、年々、確実に年老いているのだろう。もし地球そのものに生命が宿り、知力があるのならとうの昔に人間なぞ滅ぼしているに違いない。
 19時から執り行われる大学のゼミの飲み会に向けて、夕方に終わったゼミのメンバーは、一度それぞれに散った。

最後の授業に出る者。
一度家に帰る者。
友達との0次会へ足を軽やかに動かす者。

一人で0次会を開く者。

 高校時代から、一人で外に出るという行為に対して、胸の高鳴りを覚えた。自分がこの世界の中でどれだけ非力かを痛々しいほどに痛感する。一人でカフェやラーメン屋に入るにも、買い物をするにも、心臓が少しジャンプする。敵地へ放り込まれたかのような感覚へ陥る。
そして初めてサッカーの試合のスタメンに選ばれた小学生は、世界に挑戦する。この時の胸の高鳴りがどうにもクセになる。特殊性癖になりかけている。心拍フェチ。

 一人で0次会を開く自分へ半ば自惚れながらキーボードを動かす。
憧れだった。バイト先の居酒屋に来る、酒を飲みながら、パソコンを持ち出し、居酒屋には馴染まないであろう音を奏でるあの人が。
今僕は見知らぬ居酒屋の見知らぬ店員の前で、あの人を模倣する。

みんなと飲むまであと30分。

自分に酔い痴れる。



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