短歌連作『三月のはなむけ』

掲示物すべて取られた教室は春の空気を蓄えだした

伸びすぎた枝が切られた通学路むかしはもっと冒険だった

もこもこのダウンを着ない選択が次の季節を引き連れてくる

言い訳のように春だしねって言う 春なら仕方ないねと笑う

あたたかくなった町では全員がスキップするのを我慢している

きみだけが川面を見てるきらきらと揺れる車窓を独り占めして

終劇のあとの何より雄弁な沈黙みたいに話していたい

はなむけの言葉がぜんぶ嘘っぽい 嘘っぽいってことはほんとだ

明日から来ない主任に渡されたたぶん高価な菓子を頬張る

春の雨 春の匂いに思い出す顔がぼやけていき少し泣く


サポートをいただいたら、本屋さんへ行こうと思います。