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グループ変革がドライブに!日揮みらいファンドが描くオープンイノベーション戦略とスタートアップ協業事例

私たちケップルは、オープンイノベーションを促進するきっかけを作ることで、スタートアップエコシステムに関わる人たちが増え、その結果スタートアップが資金調達や協業に対してより前向きに取り組んでいくサポートができればと考えています。今回は、11月に開催したウェビナーのレポートをお届けします。日揮みらいファンドの取り組みやCVC設立の背景、スタートアップがCVCと組む理由などの理解を深めていただける内容となっておりますので、ぜひご覧ください。

▼スピーカー紹介文
坂本 惇(さかもと あつし)
日揮みらい投資事業有限責任組合 フロントチームリーダー
日揮株式会社 未来戦略室 マネージャー

2011年に日揮株式会社(現日揮ホールディングス株式会社)へ入社。主に中東、東南アジア諸国のオイル&ガスプラントの設計に携わった後、デジタルをキーワードに”エンジニアリング”、”事業開発”及び”経営企画”の三本柱でキャリアを積む。
現在は日揮株式会社(以下、日揮)の経営企画、 事業開発部門のマネージャーとして、中期経営計画策定、M&A、新規事業開発等の幅広い分野を担当。2021年4月より運用を開始した「日揮みらい投資事業有限責任組合(以下、日揮みらいファンド)」の企画・立ち上げを行い、CVCフロントチームリーダーを務める。


日本が抱える社会問題を解決するスタートアップへの出資

-日揮みらいファンドの取り組み内容や事業についてお聞かせください。

坂本氏:日揮は日揮グループの国内事業会社として、主にエネルギーやインフラ領域の産業プラントを手がける総合エンジニアリング会社です。弊社では2021年4月にグローバル・ブレイン株式会社(以下、グローバル・ブレイン)及び日揮ホールディングス株式会社と共に日揮みらいファンドを立ち上げました。本ファンドのファンドサイズは50億円で、主にシード・アーリーステージのDeep tech系のスタートアップに投資をしています。日揮が掲げる長期ビジョンの実現のため、これから日本が直面する様々な社会課題の解決に向けて共創いただけるスタートアップが投資対象となります。

具体的には、日揮の長期ビジョンで掲げる次の4つの領域がターゲットになります。「カーボンニュートラルの実現」ではCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)や新エネルギー、「持続可能で強靱なインフラの構築」ではスマートシティに資する技術やサービス、「人生100年時代を見据えた生活の質の向上」では予防医療や遠隔医療、そして「産業のスマート化」ではロボット遠隔制御やサイバーセキュリティ一などが含まれます。

-スタートアップが貴社に求めているもの、または貴社がスタートアップに提供できるものを教えてください。

坂本氏:弊社ではエンジニアリング会社の強みを活かした生産設備のスケールアップ(エンジニアリング)支援や、弊社が保有、関係する施設等の実証実験の場の提供、国内外の営業、調達ネットワークの紹介等を行っています。スタートアップ側からはこれら支援に加え、弊社人材出向を希望いただく事が多くなってきており、出来るだけ希望に沿えるよう調整しています。

グループ全体の変革という問題意識がファンド設立をドライブ

-CVC設立以前からスタートアップ投資は行っていたのでしょうか?

坂本氏:弊社グループはこれまでスタートアップ投資をほとんど実施していません。ほぼオーガニックグロースで成長してきた会社であり、技術開発や新規事業開発の多くは内製で進めていきました。一方、VUCAの時代に突入し、世の中の変化が激しくなる中、弊社中心の開発に課題感を感じています。そのため、近年は特に社外とのオープンイノベーションを促進し、長期ビジョン実現に向けた社外連携の機運が高まっています。

私は以前から弊社のオープンイノベーションに課題感を持っていたため、本ファンド設立以前にも、同様にファンドの立ち上げや各種教育プログラムなどを上申してきました。いくつかのプログラムは実行に移す事ができましたが、当時は自身の勉強不足もあり、ファンド設立は見送られてしまい、悔しい思いをしました。

その後はいつか来る日に備え、社外の有識者への相談や資料を読み漁り、勉強を続けました。その結果か分かりませんが、持株会社体制移行のタイミングで、グループ全体で変革への意識が高まった事をきっかけに、再度ファンドの立ち上げを加速させ、設立までこぎつけることができました。

-CVC立ち上げに際し、苦労したことを教えてください。

坂本氏:特に苦労したのは、ホールディングス含めたマネジメントにファンド設立意義や効果を腹落ちいただくまでのプロセスです。問題意識を共有する上長と共に社内外を行脚し、必要であればマネジメントに個別に何度も説明に伺いました。本格検討開始から意思決定までに9か月ほどかかりましたが、それぞれの立場から会社を良くするための本気の議論ができたと思っています。結果、最終的には多くの方が味方になってくださり、CVC設立の推進とその後の運用を力強くバックアップいただいています。

-グローバル・ブレインと一緒に投資をするに至った経緯を教えてください。

坂本氏:大企業のスタートアップ投資にはいくつかのパターンがあると思います。私共も当然ながら外部VCとの連携を考える前には、本体からの直接投資や投資子会社からの投資等のスキームも検討しました。
しかし、大企業特有の長く険しい投資意思決定プロセス、スタートアップ投資の社内知見者の不足や、キャリア設計を含む異なる給与体系の整備の困難さなどがあり、それぞれ当時の選択肢から外しました。最終的に、経験豊富なベンチャーキャピタルに協力いただく事で、弊社が足りない知見、ノウハウが補完でき、本来の目的であるビジョン実現に繋がるはずという結論になりました。グローバル・ブレインを選んだ理由は幾つかありますが、検討に協力いただいたキャピタリストの方の熱意や、当社が投資領域と定めるディープテック領域にさまざまな知見や投資実績をお持ちという事を踏まえ、総合的に判断しお願いさせていただきました。

-1年半CVC活動をしてきた中で、活動開始以前と大きなギャップはありましたか?

坂本氏:頭では理解していましたが、案件毎に投資環境が異なる事が改めての驚きでした。例えば、案件によってはソーシングからシナジーの見極め、投資判断、入金するまでをごく短期間で行わなければならないことがあります。戦略的シナジーを重要視する弊社としては、先に関係性があるスタートアップへ投資することが理想ですが、必ずしもすべての案件に適用できるわけではありません。そのため、投資判断に猶予がない案件は、投資担当者が短期間で仮説を構築し、将来の可能性を見極め、主管部門と共に腹決めする必要があります。また、グローバル・ブレインには特にファイナンス面での勘所を適時適切にアドバイスいただき、弊社側の意思決定を進めます。最終的な投資判断はGPであるグローバル・ブレインに一任されますが、その時点でLPである弊社側は投資候補先に惚れ込んでいる状態です。

我々はまだまだスタートアップ投資の“ひよっこ”ですので、やっと投資フェイズでの楽しさと難しさを実感している最中です。今後は、ファンドとして徐々にExitが検討される投資先も出てくるかと思います。円滑な運用を続けていくためにも、担当個人の更なるスキルアップとチーム全体で経験値を蓄積することはもちろんですが、スタートアップエコシステムの関係者の皆様に信頼いただけるよう、たゆまぬ努力を続けていきたいと思っています。

(左)坂本氏/(右)ケップル COO 江口

社内外への活動認知のためのコミュニケーションを意識

-投資に関連して事業部との連携はされていますか?

坂本氏:はい。弊社は戦略的シナジーを重視していますので、投資検討時から事業部を巻き込んだ検討を行っています。弊ファンドでは投資検討時に主管部門を定め、当該部門担当者を中心に投資先との協業を推進する体制を作っています。直近すぐに既存部門との連携が難しい案件については、弊室(未来戦略室)が新規事業開発部門として主管部門となり、事業連携を進めるようにしています。そのため、日々のグローバル・ブレインや各スタートアップ等との外部との直接的なやり取りは弊室のフロントメンバーが対応していますが、具体的な協業事業や共同開発になると担当部門が中心になって進めています。

日揮みらいファンドは、財務的リターンを追い求めるより、戦略的リターンとして中長期視点でパートナーと連携し成果を出すことを目的としていますので、弊室を含め事業部がコミットしない案件には投資をしないという方針です。

-投資後のスタートアップと事業部との連携で難しいことは何ですか?

坂本氏:投資後のシナジー創出は永遠の課題だと思っています。事業部門の立場にたてば、会社として経営目標が決められており、やはり短期的な利益を優先、追求せざるをえません。一方、そもそも将来の会社の継続性という観点からパートナーとの共創を目指していることもあり、中長期的目線でのリソースの分配や、連携シナジー創出の実現は大きな経営課題です。この微妙なバランスについては、部門長だけではなく経営マネジメントも大きな課題として認識しています。特効薬はないと思いますので、会社や部門運営の状況を見ながら、マネジメントと議論しながら柔軟に対応したいと思っています。

-スタートアップや事業部との連携で意識していることはありますか?

坂本氏:先述の通り、主管部門を決める際、既存事業に近い案件は既存部門、時間軸としてシナジー創出が先になりそうな案件は弊室が担当するようにしています。また、弊室で受け持った案件の中でも、連携のステージや成熟度を勘案して、タイミングを見計らって事業部に移管できるよう社内では調整しています。CVCフロントチームでは、時間が経って投資先との連携の意義を見失わないよう、社内や投資先へのケアに細心の注意を払っています。コミュニケーションを取る上で、それぞれの立場を尊重し、誠実に対応することを意識しています。

加えて、社内外で活動の認知度を高めることにも力を入れています。マネジメントに対しては、四半期に行われる経営会議でファンドパフォーマンスや投資先との連携状況を報告しています。全社向けには、社員が出席出来る全社会議、会社ニュースリリースや社内SNSを通じて、定期的に投資先や連携事例の紹介を行っています。また、本日のように、私含めたCVCフロントメンバーが社外イベントに出席させていただき、露出を増やすことで社外のみならず社内にもアピール出来ればと考えています。
積極的に活動をアピールする背景には、私自身の経験から、少しでも何か動いていることを見せ続ける事が安心と信頼につながり、結果的に活動の継続性に繋がると考えています。

他にも、特にスタートアップの方々に対しては、常にリスペクトの気持ちを持って接する事を意識しています。スタートアップは大企業以上に個人のリスクを取って、大きな課題に挑戦しています。弊社が中長期にわたり良きパートナーとして認識頂けるよう、苦しいときにこそ寄り添い、協力できるようスタートアップファーストの気持ちを心がけています。

スタートアップと日揮グループの技術を上手く融合させる連携事例

-スタートアップとの連携事例を教えてください。

坂本氏:現在、8社のスタートアップに投資をしています。連携事例に関しては、ファンド設立から1年半しか経っていないため、まだ公表できる事例が多くありません。そのため、公表ベースで期待する投資先との連携内容や今後の方針について、いくつか紹介致します。

ライフサイエンス分野では、骨膜由来のMSC(※)を使った細胞治療製品を提供する株式会社ツーセルと同社が持つ最先端の培養技術に、弊社が有する自動化を含めたエンジニアリング力を融合し、細胞培養効率の向上を図りたいと考えています。また、弊社知見を活かしながら、安全かつ安価な量産体制の構築に向けた議論しています。
(※)間葉系幹細胞を意味し、自己複製能力と分化能力を備えた多能性細胞。再生医療のほか、細胞治療にも応用可能な細胞源。

現場DX分野では、騒音環境下でもクリアに音声を認識できる音声認識AIを搭載したウエアラブル端末を提供するフェアリーデバイセズ株式会社と、同社技術を適用し弊社メンテナンス現場などでの現場DXによる生産性向上に向けた検討を進めています。

エネルギー分野では、核融合領域で先進的な技術を有する京都フュージョニアリング株式会社との連携を進めています。弊社内の原子力ソリューション部は長年原子力の事業に携わっていますので、弊社が有する核融合および低レベル放射性廃棄物処理などの原子力関連分野で培ったエンジニアリング技術を融合させる、核融合領域でのエンジニアリングの連携を相談しています。

成功の鍵は「リーダーが折れない熱い心を持っているか」

-投資判断のポイントを教えてください。

坂本氏:まず入り口として、弊社の長期ビジョンを構成する4つの領域に該当するかが重要です。素晴らしい技術を持ち、成長を期待できるスタートアップでも、弊社ビジョンとリンクできなければそれ以上の議論は難しくなります。そのため、初期の意見交換の段階で「この会社との連携によりミッシングピースが埋まる」と判断出来れば、積極的に出資や連携に向けた検討を進めていきます。

また、私個人としては、投資検討時に“人”を見ています。私自身も事業開発を経験していますので、特に事業を推進するリーダーが折れない熱い心を持っている事が成功の秘訣と考えています。そのため、実際に投資候補先の経営者を含めた中核のリーダーたちとお会いする際、絶対に課題を解決する、成功させるという熱意を感じられる方と一緒に仕事をしたいと思っています。この人となら最後まで一緒に進めたいと思えば、投資担当者としても確信を持って事業部やマネジメントに薦める事ができます。

-最後に、今後の展望や意気込みをお願いします。

坂本氏:弊社はスタートアップ投資として100億円の投資枠を確保しており、今回そのうちの50億円を日揮みらいファンドとして動かしています。まずはスタートアップ投資に関する知見を蓄積し、活動を継続させていきながら、残りの50億円の使い方を真剣に検討しています。

今後スタートアップエコシステムの中で弊社の認知度をさらに高めていきたいと考えています。弊社はまだまだ業界の新参者ですし、弊社の強みや想いを積極的にアピール出来ればと思います。是非、スタートアップだけではなく、ベンチャーキャピタルや事業会社の方などとも共創機会をいただき、日本を盛り上げられるような具体的なムーブメントを作っていければと考えています。

また、CVCからの出資はあくまで一つの支援の手法であり、個別のパートナーシップ契約や具体案件での連携を進めているケースもあります。ぜひ投資の有無に関わらず広く連携できる部分はないか議論させていただけると嬉しいです。

-坂本さん、本日はお時間いただきありがとうございました。

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