見出し画像

山下達郎のフェイバリット・コミック、そして細野不二彦を考える。

驚いたわ。びっくりでしょ。

何がって山下達郎の最近のフェイバリット漫画が原秀則だったこと。スポーツ紙WEB記事で見つけたんですが原の最新作「ダンプ・ザ・ヒール」を真正面から評価してるなんて意外っていうか唐突すぎて困惑しちゃいましたよ。ならばぜひ原秀則の「とりあえずON AIR」も読んでほしいところですよ。80`sのミニFM局を舞台にしたラブコメなので。シティ・ポップブームの今、あえて山下達郎に読んで欲しい。そして感想が知りたいな。知ってるひと、どれだけいるかな?「とりあえずON AIR」。そもそもミニFM局って何だよってレベルかと思いますが、コミュニティFMなどなかった時代。個人がトランスミッター購入して近場だけ電波を飛ばしてラジオ局的なことをやるのが流行り(っぽい)時代があったんですよ。そんなミニFM局を舞台にしたドタバタラブコメはサンデー増刊に連載、単行本は2巻まで出ております。たしか「高気圧ガール」かなんかをオンエアしたエピソードあった気がするんだけどなー(うろ覚え)。

さて。ここんとこのボクは本棚を整理している。ひたすら整理。断捨離ってわけじゃないですよ。ピュアに整理オンリー。この10年ほどほぼ整理してこなかったので、確実にいらない本が多い。いや、多かった。

そして必要だったものを買い直す作業も同時並行。これはこれで楽しかったりするんだよなー。村上春樹の「羊をめぐる冒険」2セット、「ノルウェイの森」2セットには我ながらあきれたが。そうかと思えば元光GENJIメンバーの自伝2冊発掘。ふう、いったいボクは諸星和巳と大沢樹生の何を知りたかったのだろうか。好奇心が強いのも考えものだよなァ。

本棚の整理に追われてたからってことじゃないが、ここ最近note更新をサボっていた。これは単に外で原稿を書く機会が増えたからなんですが、ちょっと反省している。週1ペースで書いてた頃に戻さなきゃだな。猛省。

ちなみに本題とはまったく関係ない話で恐縮だけど先週末はキム・ゴウンが出演している映画を観た。

キム・ダミもいいけどゴウンもいい。

「その怪物」の演技は実に可愛いし、話自体はムチャクチャだけど彼女が輝いてるのでOK。(シチュエイションに対する)余計な説明がほぼ皆無なのも素晴らしい。説明が過ぎるのはよくない。何事も余白、行間はマストじゃないですか。キム・ゴウンはもっと注目されるべき。「トッケビ」だけじゃないよ。

さて本題だ。

本棚を整理していて、といろいろ見えてきた。続刊忘却、つまり途中で買うのをやめたマンガたち、なぜか1巻が抜けたままの「バタアシ金魚」(望月峯太郎著)、5巻以降も買ってたはずなのに部屋中探しても見つからない「ワイルドマウンテン」(本秀康著)、歯抜けの「美味しんぼ」(雁屋哲/花咲アキラ)、途中からKindleに乗り換えた「クッキングパパ」(うえやまとち著)、大好きな「気分はグルービー」(佐藤宏之著)は12巻以降、誰かに貸したんだろうか。「BECK」は全巻保持継続してるけど「REN」(ともにハロルド作石)はどうしたんだっけ。そして藤子不二雄Aは秋田書店版、つまりチャンピオン・コミックスの形状が一番スマートだよなァ、なんて思ったり。

とりあえず整理してみて歯抜けになってるものを日々買い直したり探したりしているが、前ほど容易に手に入る時代じゃなくなってしまったのだ。特に80〜90年代ものはそう。あっても高値だったりと、まるでシティ・ポップブームにあおられて高値更新中の山下達郎のアナログみたいに。「買えるうちに買え」は大瀧詠一さんの名言ですが、ほんとそうだ。あとで買えばいいやは後悔しか生まない。あるうちに買わなきゃいけねえよなァ。全然関係ないけどUNIQLOのU-T企画で復刻されるんですね。梅図かずおの「グワシ」Tシャツ。そもそもラインナップされてたことも気づかなかったんですけど、ちょっと気になってる。いや、買ったところでボクはそれを着用して外出する勇気があるのか。つげ義春のねじ式Tシャツはヘビロしてるんですけどね。先日偶然遭遇した佐野史郎さんには「キミはなんちゅうTシャツを着てるんだ(笑)」と指摘されたのは嬉しかったな。

ちなみに本棚とレコード棚(CDでも)って見られるとやっぱり恥ずかしいものだし、今時ならプレイリストもなかなか気恥ずかしさはある。昔で言うところの自分で編集したカセットテープ。曲を並べてて「自慢したい」渾身のポイントとどっか隠しておきたい、だけど知られたいというアンビバレンスさ。ボクの本棚でいうところの柳沢きみおコーナーはまさにその最たるものだし(近々大幅整理予定)なーと思いつつ。

そんな状況下でボクは何を思ったか細野不二彦の「電波の城」全23巻を一気読みした。かつてビッグコミックスピリッツで連載されてたこの作品。実は結末までたどり着けておらず、ずーっと途中で挫折していたのだ。レコードやCDでもよくある話だが「ぱっと聞き」で断念、数年置いたらめちゃくちゃよかったってパターン。

細野不二彦の作品で好きだったのは若手ジャズミュージシャンを主人公にした「BLOW UP」(「GIANT STEP」より早かった)や「あどりぶシネ倶楽部」といった少年誌〜青年誌への移行の過度期な作品たち。「りざべーしょんプリーズ」や「ギャラリーフェイク」は嫌いじゃないけど、それほど夢中で読んでなかった。80`s初期の週刊少年サンデーがプッシュするネクストニューカマー(作家)たちの中でかなりプッシュされていた。「さすがの猿飛」に「GU GUガンモ」とコンスタントにヒットを飛ばしてたし。だけどむさぼるように読んだ記憶がない作家でもあるんですよ。だけど「ヒメタク」や「ジャッジ」、「SOS」といった漫画アクションに連載した作品、読んでるんだよなー。結局好きってことなんでしょうな。読者としてのボクの印象はもともと多作志向で資質としては石ノ森章太郎や永井豪に近いなーと思ってはいたんですけど、ここまでストーリー派に開眼するとは思わなかった。多作といえば柳沢きみおんですけどね。柳沢きみおの場合、自ら語ってるようにアドリブでいきなり原稿描き始めるタイプ。つまり物語の破綻も込みで読み手をドライブさせていくタイプ。星野不二彦の場合はおそらく真逆なんですよね。ネームの段階で物語の先の先まで緻密に計算して構築してる気がするんですよ。80年代以降、もともと多作でジャンルは広めだった石ノ森章太郎が「HOTEL」みたいな大人の群像劇を描き始めたじゃないですか。細野氏の作品作りのスタンスってあの時期の石ノ森にすごく近い気がする。

そんな(漫画作りの)手法の最高峰が「電波の城」だと思うんですよね。テレビ局を舞台にしたサスペンスミステリー。札幌でFM局の女子アナをやってた主人公が上京して地上波キー局、つまり「全国ネット」を目標に成り上がるストーリーかと思いきや、実は復讐劇であり途中新興宗教のエピソードも絡んできて、物語の細部に張り巡らされた伏線は一気に回収と物語が進むスピードは終盤加速していく。特に10巻以降、「あとで読めばいいや」が通用しない吸引力はさすがの猿飛、恋の呪文はスキトキメキトキスの作曲は小林泉美的なネ。シティ・ポップ再評価の中この曲も無視できねえんじゃねえかなー。って、なんだか意味不明なたとえ連発しちゃいましたが、よくある芸能界ものとか思わないでもっと注目されてよい力作なんだってことを主張したかったんですよ。

「電波の城」連載終了後に発表された「商人道」で手塚治虫の「グリンコ」的世界をアップデート(もっと続けて欲しかった)、「バディドッグ」で大人の日常SF(AIものでこちらも同様)と扱うジャンルも幅広く、年を重ねるほどに円熟味を増してるとしか思えない細野不二彦ワールド。まずは「電波の城」をおすすめしときます。ストーリーテラーとしての氏がもっと評価されるべきだってことがよくわかる傑作なので電子でも古本屋でも見つけたら買いだと思いますよってに。韓流で実写化されたら物語の魅力はさらに増幅されると思うんだよなー。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?