渋谷の夜のこと

高校時代の友人が東京にいるやつで飲もうぜ関西のやつも出張で来るから、とLINEしてくる。渋谷。どうしてもバーベキューがしたいらしい。10年ぶりくらいだ。

雨の中、室内バーベキューの店に行く。30分ほど遅れて着く。

異常に明るい店内は大学生のバイトだらけだ。テーブルに山盛りの焼きそばが置かれている。関西から来た友人が家庭用ホットプレートで成型肉と鳥と豚を焼いている。中年のおっさんが集まる店としては、明らかにミスっている。笑う。遅れて2人来る。5人になる。

バーベキューがしたい、と皆を集めた友人は喋り続けていて、肉を一枚も焼かない。ゴールデンウィークに家族とバーベキューをしたけど、子供が夢中だったので、そっちでも自分は肉を一枚も焼かなかった、という話をしている。ほな今焼けや何やねんお前は何がしたいねんと言いながらゲラゲラ笑う。

バーベキューを早々に切り上げ、渋谷ストリームに移動する。関西の友人は会社の飲み会があるから、と1人で東京駅に去っていく。4人になる。IPAビールの店で別の1人が合流する。5人に戻る。家を買った話や子供の話を聞く。

22時過ぎになると店が閉まる。もう良い大人なので解散する。バーベキューの彼が帰りたくなさそうにしている。「クラブとか行ってみる?」「ええやん、行こか」となり、2人で道玄坂を登る。

wombに入るとドラムンベースのパーティーをやっていて、重低音が心地良い。久々にこういう音を浴びる。若い女性のDJがゴリゴリした選曲を繋いでいる。長髪の外国人が1人で踊っている。時間が早いのか、身内のパーティーなのか、満員ではないが寂しくはないフロア。たくさんの若者が談笑している。久しぶりー!とか何とか。

小一時間ほど経つ。wombを出てヒップホップのクラブに行く。おっさんだからクラブのはしごも出来る。ビール1,2杯飲むのに3500円くらい使う感覚。昔は考えられなかった。

中に入るとトラップが流れている。友人が、これヒップホップなの?ヒップホップって心の闇とか歌うやつじゃないの?と言っている。チキチキいってて明るくて軽いヒップホップが今風なんだよ、と僕が言うと、おっさんにはわからんぞ、と言われる。高校時代の僕らが行ってたのは、TBHや土俵オリジンのパーティーだからそれはそうだ。

タバコと酒とスモークが混じった独特の甘ったるい匂い。色んな人がいる。踊る客、DJをじっと見ている客、ブースの内側で身内面の客、クラブっぽい服装の女性グループ、男だけのグループ、何語かで談笑する外国人達。大体の人が若い。うさん臭そうなおっさんも混じっている。壁のプロジェクションは薄い。見知った風景。

昔はクラブに何かを探しに来ていたような気がする。知らない音楽をでかい音で聴くと、世の中の秘密の一部を知ったような気分になった。クラブでは何かとんでもないことが起きそうな気がしていた。今の自分は、もう多分ちょっと違う。

ここはヒット曲ばかりでYoutubeのプレイリストと変わらんな、と思って飽きたところで、会社の飲み会で離脱した友達が戻ってくる。結構酔っている。とんでもないチャラ箱にこいつを連れていきたいと言われる。

女の子もたくさん並んでたしな、と思ってエイジアに行く。僕はエイジアとalifeを間違えて覚えている。そもそも場所が違う。頭韻だけ合っている。

デカい黒人のセキュリティから発熱チェックを受ける。中に入ると明らかにチャラ箱のレイアウトではないので、あー間違えたかも、と気づく。蒸し暑い。階段にも人が座っている。バーカウンターに行列が出来ている。Vtuberのイベントをやっているらしい。

メインフロアは超満員でめちゃくちゃ盛り上がっている。セル塗りのキャラクターがプロジェクションの中で客を煽る。客は合唱している。手を上げている。これは俺が好きなクラブだなと思う。2曲ほど聞いてサブフロアに戻る。

サブフロアはメインフロアよりは隙間があり、客が頭を振って暴れている。「さっきのヒップホップより全然ええわ」良かった。しばらくアニソンのガバリミックスとかを聴く。

3時も回ったのでそろそろお開きにするか、とバーベキューの友人はクロークに荷物を取りに行く。サブフロアはDJの男性からオートチューンをかけた女性シンガーに変わる。相変わらず客は飛び跳ねている。待っている間、関西の友達と2人でフロアを見つめる。

「俺はクラブは初めて来たけど、カンディーも昔はあんな感じやったんやろ」「おー。せやなー。せやったわ。」

外に出る。雨は止んでいて空気がしっとりしている。「ケザさん、何か勘違いしているけど、エイジアの向かいがチャラ箱なんですよ」とVJ仲間に教えて貰ったことを思い出す。そちらはまだ行列が出来ている。

今度はレゲエダンサーがいる箱とか、ちゃんと調べとくわ、と言って解散する。

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