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読書のはじまり~はじまりの時間~


自分の読書のはじまりを覚えている人はどれだけいるのだろう。

2020年も後半になって、私はひとつの目標を定めた。

『3年以内にwebでも雑誌でもいいから連載を持つこと』。

我ながら大きい目標だなぁと呆れるのだけれど、大きい目標もまずは口に出さなければ始まらない。

私は言霊の力を信じている。それは、今まで大きいと思っていた目標や、周りに呆れられてきた目標も、達成することができたという成功体験があるからだ。

そしてその目標は、必ず口にしてきたことだから。

本好き=真面目の固定観念

『読書女子』。今だからこそ、お洒落で知的な響きに聞こえる。今『趣味は?』と聞かれたとして『読書です』と答えることはなんら恥ずかしいことではない。

しかし、私が学生だったときは違ったのだ。趣味が読書というと、『真面目』『黒髪』『地味』のようなステレオタイプを貼られた。私が中高生だった頃は、読書なんてしないほうがかっこよかった。バイトをしたり、読書は読書でも流行りの雑誌を読んだり、クレープを食べたり、プリクラを撮ったり。そういうことがかっこよかった。そう思い込んでいただけかもしれないけど。

私はひとりっこで、両親も共働きだった。家には祖母がいて、祖母がよく面倒をみてくれた。

なので、ひとり遊びがすごく得意で、その中でも本を読むことはあっという間に時間が過ぎる、とても楽しい遊びだった。

読書は大好きだった。『クレヨン王国』シリーズや『おかしな王様』シリーズ、『エルマー』シリーズを何度も何度も読み返した。本は図書館でも借りることができたし、出かければ好きな本を買ってもらえた。ひとりで暇でつまらないときも、私はいろんなことを妄想して過ごした。もし空を飛べたら、もし未来に行けたら、もし突然違う国にワープしてしまったら…。私の妄想力はきっと幼少時の読書の影響がものすごく大きいと思う。

小学校まではそれでよかった。図書室が大好きで、図書委員もしていた。それが中学生になるとどうだろう。いつの間にか、周りに本を読む友達がいなくなって、おしゃれや恋愛に夢中になる友達が多かった。

そんなものかと思って私は簡単に読書を手放した。その代わり、アイドルやマンガが私の学生生活を支えてくれた。それでも、国語の授業は楽しみで、教科書をもらうともらった日に国語の教科書はすべて読み切っていた。

読書から遠く離れたまま、私は高校生になった。たまに読書がしたいと思っても、まさか小学生で読んだようなものはもう読まないし、だからといって他のものは難しくて読む気にならなかった。何を読んだらいいのかわからなかったのだ。

そんなときに、母親から『コバルト文庫』を読んでみたらどうかと勧められた。そのときに手に取ったのが山本文緒さんの『おひさまのブランケット』で、衝撃を受けたことを覚えている。本ってやっぱりおもしろい、と感動したことを覚えている。今まで読んだものとまるっきり違った。それは今まで読んだような不思議な話ではなくて、普通の高校生が主人公の物語だった。舞台が普通の、自分のような学生でも、その登場人物の人生を頭の中で一緒に経験することは本当に楽しかった。その瞬間から今まで、私は山本文緒さんのことが大好きだ。母に勧められたこの瞬間が、読書との第2の出会い…いや、第1.5の出会いだった。

なぜかというと、それでもやっぱり高校生。部活が忙しかったり、例に漏れず周りに読書をする友達がいなかったりで、私はやっぱり読書をしなかった。どこかで『かっこわるい』『真面目と思われる』という恐怖があったのかもしれない。

『真面目』は決して悪口ではないけれど、高校生のときの私は『真面目』と言われることが嫌いだった。できるだけ真面目に見えないような服装や、メイクをしていた。

身近な人が読書をしている安心感

そして私にも彼氏ができる。同じ部活で、ギターが好きで、少し影のある人だった。が、私の友達のことを好きになってしまい、別れた。かわいらしい高校生の恋愛だけど、当時は傷ついた。

二人はつきあうことになったのだけれど、彼女が浮気してして、別れてしまう。彼と私は別れても友達だったので、さまざまな恋バナをした。彼が失恋したときに、私も違う人に失恋をした。

ある日、その彼が部室で本を読んでいた。何度も言うが私の周りに本を読む友達はいなかったので、驚いて思わず「何読んでるの?」と聞いた。すると彼は「難しくてよくわかんないんだけど嫌なこと忘れられるから。読む?」と読んでいた本を貸してくれた。

自分の身近に、読書をする人がいる。

そのことだけで、こんなにうれしくなれるのか、というくらいうれしかった。彼が貸してくれた本は村上春樹さんの『海辺のカフカ』。正直、当時の私には彼が言ったとおり意味がよくわからなくて、難しいという印象しか残っていない。まったく失礼な話だ。それでも、はっきり言えるのは、間違いなくここが私の読書との第2の出会いだった。

いろいろな固定観念にがんじがらめになる中で、彼が読書をする人だという事実は、私の中で大きいもので、本当にうれしいことだったのだ。それが自分の好きになった人、というのも大きかった。身近な人が読書をしている、本が好きだ、というだけで、安心感があったし、人前で堂々と読書したっていいんだ、と素直に思えた。

読書のきっかけになりたい

そして大人になった今、私は本をたくさん読んでいる。その中で思うことがある。「学生のときに読みたかった」と感じる本が山ほどあること。学生のときの自分が読んでいたら、「世界は広いんだ」「世界は学校と家だけではないんだ」と強く実感できたかもしれないということ。今では、本をたくさん読む芸能人がいたり、アイドルが小説を書いていたり、イケてるライターさんが書評を書いたりしていて、読書=真面目な人間という固定観念は薄れているのかもしれない。

でも、もちろん学生ではなくても、何かのきっかけがないと読書が出来ない人ってたくさんいるのではないだろうか。だから私は、本を、読書を勧める仕事がしたい。

彼の言うとおり、読書の時間は現実から離れることができる。違う人間の人生を体験したような気持ちになることもできる。どうしようもない現実から、その時間だけ逃げることができる。

だから私は、誰かの読書のきっかけに、ほんの些細な取っ掛りに、私もなれたら、と思うのだ。


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