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〜ドラマの時間〜『この恋あたためますか』里保への共感 少し大人を休みたい

「ひと粒、大人を休みませんか」

森永製菓のチョコレート『DARS』のキャッチコピーだ。私はこの手のキャッチコピーに弱い。大人を休みたい。行き詰まる度にそんなことを思ってしまう。

毎週火曜22時放送の『この恋あたためますか』(TBS系)。森七菜さん演じる井上樹木は、かつてアイドルをしていたが、新しいメンバーにその座を奪われ、アイドルをクビになってしまった女の子。コンビニでアルバイトをするようになった樹木は、大好きな新作スイーツのレビューをSNSにアップすることが楽しみだった。

業界最下位のコンビニ『ココエブリィ』の立て直しを図る浅場拓実(中村倫也さん)は、樹木のSNSを見てスイーツを作るように命じる。一緒に働くようになり、浅羽への想いを募らせていく樹木。しかし浅羽はかつての彼女・北川里保(石橋静河さん)とヨリを戻す。そして浅羽への想いを断ち切ろうとした樹木は、自分にまっすぐに想いをぶつけてくれる新谷誠(仲野太賀さん)とつきあい始める。

樹木は、世間知らずで“大人の事情”というものをあまり受け入れない。大人が抱えている常識を突き破って、スイーツを開発したり、人の心に立ち入ったりする。一方、里保はいわゆる“大人の女性”。常識もあるし、“大人の男”浅羽ともお似合いだ。どこからどう見てもお似合いのカップル。それなのに、里保の気持ちはどこか浮かない。樹木にモヤモヤしたものを抱えている。

ジェラシーとも違う里保の感情。未完成な樹木の、ひたむきさや、怖いもの知らずさに言葉にはできない感情を抱えているのだ。大人は、今まで自分が得た経験から、どうしたっていろんなものに縛られる。「こうしてはいけない」「空気を読まなければいけない」「“普通”そうだから」。日常ではそれを当たり前だと思っているのに、周りに“大人じゃない”人がいると、実感してしまう。そしてそれは過去の自分もそうだったはずで、自分が思う自分の絶頂期と彼女を比べてしまうのかもしれない。

樹木のひたむきさは、浅羽にも伝染していて、いつの間にか浅羽は“大人の当たり前”を少しずつ脱している。そんな浅羽を目の前で見ている里保は、何よりも浅羽の変化を実感してしまって、苦しくなってしまう。

過去の私であれば、間違いなく樹木を応援しているだろう。樹木と浅羽がうまくいってほしいと願うし、少女漫画さながらのシンデレラストーリーを応援する。里保のことをライバルだと思うし、邪魔者だとすら思うかもしれない。

しかし、今の私は違うのだ。どうしても里保を応援したいし、里保の気持ちがわかってしまう。大人になって、自分の中に蓄積してきたいろいろな「常識」が邪魔をして、動けなくなってしまって、樹木になんともいえない感情を抱える里保の気持ちが。

第8話で、浅羽の感情が樹木へ向いていることを実感した里保は、浅羽に別れようと告げる。次の日に里保は、同僚でもある新谷に浅羽と別れたことを報告し「好きだけど別れたの。良い女でしょ」と笑う。しかし、その後すぐに「何やってるんだろう、掴んでた手、私が離しちゃった」と号泣。大人だからわかっているフリをして、大人だから良い女のフリをする。大人でもちゃんとひたむきで純粋な心はどこかに残っているのに、それでも好きな人の背中を押してしまう。

ドラマはおもしろい。ドラマだけではなくて、映画、小説でももちろんそうなのだけれど、自分の年齢や経験によって、誰に感情移入するかが変わる。だから良い作品は何度同じものを観てもおもしろいし、自分の受け入れ方の変化も楽しめる。

今の私は、里保の気持ちの方がよくわかる。そして里保の気持ちを考えれば考えるほど、少しだけ大人を休みたくなる。そんなときに食べてほっとできるスイーツを作り出すのが、里保たちの仕事。セブンイレブンでコラボしているスイーツを目にする度に、そんなことを考えるのだ。

来週はいよいよ最終回。この様子だと里保は浅羽とは幸せになれないのだけれど、大人の里保が、恋愛でなくてもどうか大人の幸せを掴んでくれることを願っている。

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