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〜映画の時間〜『きみの瞳が問いかけている』

横浜流星さんの演技が好きだ。そう思ったのはつい最近のことだけど、映画を観て初めて、それを文章に残しておきたいと思った。

TBS系のドラマ『初めて恋をした日に読む話』で主人公・春見順子(深田恭子さん)に片思いする由利匡平・通称ゆりゆりを演じて大ブレイク。それからまだ2年も経っていないのは驚きだ。

『はじこい』以降も『あなたの番です』(日本テレビ系)などの話題作に出演し、テレビによく出ているイメージがあるが、実は映画出演作も多い。朝井リョウ原作の『チア男子!!』では男子チアリーディングに夢中になる主人公を演じ、ミステリ小説の実写化『いなくなれ、群青』では口数が少なくミステリアスな主人公を演じている。

そんな彼の最新作が韓国映画『ただ君だけ』のリメイクで三木孝浩監督がメガホンをとった『きみの瞳が問いかけている』。横浜さんは過去の過ちに苦しみながらもただひとりの女性を大切に愛する元キックボクサー・篠崎塁役を演じる。キックボクサー役を演じるにあたって、10kgの増量をして肉体を磨き上げたという横浜さん。ニュースではそのシーンが多く取り上げられているけれど、あえて違うことに注目したい。

【Story】
不慮の事故で、両親と視力を失った明香里(吉高由里子さん)。過去の過ちから、キックボクサーとしての道を絶たれた塁(横浜さん)。2人は偶然出会い、恋に落ちるが、予想もしなかった過去の繋がりがあることが判明する。過去から逃れられない2人が、究極の愛の末に選んだ結末とは。

『きみの瞳』とは誰の瞳か?

最初に観たときに、塁は横浜さんの魅力を存分に発揮している役だと思った。ゆりゆりがクールなキャラだったことも影響しているのか、最近横浜さんが演じる役はどこかに影がある、暗い役どころが多い。正直そういう役が続くと、観ている側としては「またか…」という感情になる。

今回の塁役も、予告編や前情報を見ていたときに「またか…」と思ってしまった。決してそれが悪いわけではないのだけれど、それでもちょっと違う役どころを見てみたいな、と思ってしまうのも正直な感想だ。

しかし、蓋を開けてみると、塁は横浜さんにぴったりマッチしていて、彼の魅力を存分に引き出している役どころだと思った。塁は感情を表に出すタイプではないけれど、細やかな瞳の動きや声のトーン、口角の上がり方などで「これうれしかったんだな」など、感情の変化が伝わってくる。静かで繊細な演技が、横浜さんにマッチしていた。というよりも、横浜さんが塁として生きていたことがとても強く伝わってきた。

横浜さんの演技を好きな人たちの多くが「瞳の演技がいい」と言うだろう。希望に溢れてキラキラ輝いている瞳を見ると、こちらまでワクワクするし、すっと光が消えて、絶望や怒りを表現する瞳を見ると、背筋が凍る。塁は外に感情を出すタイプではないぶん、瞳で語っていることが多い。

ここで忘れてはいけないのが、吉高由里子さんが演じるヒロイン明香里の存在だ。明香里は不慮の事故が原因で、視力と両親を失った。タイトルの『きみの瞳』は、目が見えない明香里の瞳のことを指しているのだと思いがちだけれど、横浜さんの瞳の表情が素晴らしくて、私は塁と明香里の2人の瞳のことを表現しているのだと解釈した。

明香里もまた、暗い過去を抱えていながら、そんな暗さはまったく見せない。いつも天真爛漫で明るくて、笑顔でいてくれるので、救われる気持ちになる。そして明香里はとにかくかわいい。吉高さんの表現力の豊かさで、グッと心を掴まれる。明香里が登場してからすぐにみんな明香里のことを好きになってしまうはず。

感情を現すのは言葉だけではない

それともうひとつ、声を大にして言いたいのが、横浜さんの声の演技が最高だということ。この映画の中で一番好きなシーンが、明香里が塁にどこかに連れていってほしいと頼んで塁が「いいよ」と言うところ。なんてことないシーンで、他にも良いシーンはたくさんあるのだけれど、私は見終わってからもそのシーンが頭からこびりついて離れなかった。

映画は、120分ほどでまとめることもあって、たまに観客側が置いてけぼりになってしまうことがある。恋愛映画だと「え、いつ好きになったの?」「いつの間につきあってるの?」と思うことがあるけれど、この映画も実はお互いに「好き」だとか「つきあおう」なんて言っていない。そして塁も言葉が少なく、静かな青年だ。けれど、横浜さんの瞳の演技や、声の出し方、絶妙に変化する表情で「明香里のことを好きになったんだな」と感じる瞬間がたくさんあった。その中でも特にそのシーンの「いいよ」の言い方にはかなりグッときたので、これから観る方にはぜひとも注目してほしい。

全体を通して切なくて、幸せそうに見えるシーンでも「絶対これから何かが起こる」という感じが離れない。ハラハラドキドキとは違うけれど、息が止まりそうになりながら2人の幸せをずっと願ってしまう映画だ。画が美しくて、見終わったあとには何かとても素敵で、せつない夢を見たような感覚になる。

人の運命は、時にはとても残酷で、何の因果か大切な人を知らないうちに傷つけてしまっていた可能性だってある。それでも人は出会って、関わって、大切にしたいという感情が生まれる。お互いにどんな過去があったとしても、出会うことで、繋がることで、救われることがある事実を、忘れないで生きていたい。どんな出会いも、どんなに辛いことも、きっと無駄じゃない。

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