カップラーメン

月が綺麗だなと思って眺めていたら、夜空に浮かぶその球体の輪郭が少しずつ大きくなっていくのに気がついた。

それが月がこちらに近づいてきているのだと理解するにはしばらくかかった。

つけっぱなしにしていたテレビが緊急速報に切り替わり、この世の終わりみたいな表情をしたアナウンサーが告げる。

『月がもの凄い速度で地球に近づいています!』

聞けば地球はあと3分程で粉々に砕け散るとNASAが発表したという。

どうやら僕たちは月に殺されるらしい。

唐突に突き付けられた3分間の余命宣告。

そうだ、カップラーメンでも作ろうか。

僕は手早くポットからカップラーメンにお湯を注ぎ、タイマーを3分にセットする。

別段腹が減っているわけではないのだが、3分間というワードに真っ先に連想されたのがカップラーメンだったのである。

もう直ぐに死んでしまうのに呑気なものだと思われてしまうかもしれないが、僕のこの行動は不可避の「死」に対する諦めなのだと思う。

刻々と寿命を減らしていくタイマーの数字を見つめながら、これまでの人生を思い返す。

あの時は楽しかったなあ、とか、あの時は辛かったなあ、とか。

将来は安定した職に就いて、結婚して、子供は2人で、なんて人生設計も考えてたり。

こんな形で終止符が打たれるなんて想定外だ。

事実は小説よりも奇なり、とは誰の言葉だったか。

そうやって記憶に思いを駆け巡らせていたら、いつの間にか残りは10秒を切っていた。

意外と長く感じた最期の3分間。

僕の生きた19年間はとても短く感じたけど。

もう直ぐカップラーメンが出来上がる。

あ、待てよ、とそこで僕はようやく気がつく。

これじゃあ食べる時間がないじゃないか。

なんだ、僕は最後の晩餐も食べられないのか。

僕はため息をついて、0を4つ並べたタイマーの音がうるさく鳴り響いた。


#小説 #ショートショート #短編小説


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