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子どもが出てくる映画の話をしよう。その14『打ち上げ花火 下から見るか? 横から見るか?』オリジナルVr.

8月といえば花火。2020年現在の夏は、花火大会もおこなわれなくなっている。経済効果云々ではなく、ただもう残念でしかない。個人的には、花火が大好きで、じじばばがいた愛知・岡崎の花火は他県に自慢したいものである。お座敷を借りて、親戚一同が集まり、巻きずしなんかを食べながら花火を見る。もうすぐそばでうちあげるせいか、首が痛くなるのだ。

と、郷愁にふけったところで、本題。

この時期になるとよく(ネットで)オススメされるのがアニメの『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』である。大根仁監督のだし面白いのだろう。ともあれ、ここではアニメの話はいちおう封印して、この原作となった岩井俊二監督によるテレビ版『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(1993)に思いをはせたい。

これは、ある年齢より上の人しか知らない、フジテレビの「if ~もしも~」シリーズの中で公開されたテレビドラマだ。

タモリの「世にも奇妙な物語」の次に来るものとしてつくられたオムニバスのテレビドラマシリーズで、「世にも~」に続き、本当に多くの習作が生み出された。チャレンジングなこういうシリーズは、若い映画監督や脚本家が育てられ世に出てくるきっかけにもなっていたんだと思うし、たしかに面白かった。テレビが今の映画人たちを生み出していたんですねえ。

さて、『if ~もしも~』は、ひとつのストーリーが途中の分岐でふたつにわかれて、さあどうなる? という設定なのだけれど、そのなかで『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は異色だった。正直にいえば、細かいあらすじはちょっと忘れてる。そんな設定だったかなとさえ思う。なんといっても30年近く前にテレビで一度観たきりだから。でも映像のはしばしをちゃんと覚えてる。よほど印象深かったんだろう。

この我がそうなのだから、もちろんこのドラマは大注目を浴び、新人監督賞をとった岩井俊二監督の名が世にとどろいた。ちなみに助監督には行定監督らが名を連ねておられます。

さて、当時の我がなにが印象深かったかというと、まず、映像。映像がテレビではなくて、どうみても映画のフィルムだった。

昔のテレビドラマは、映画フィルムの、あのぼさぼさした感じもまああるのだけど、少しずつ変わってきているころだった。が、このドラマは明らかに映画で、観る人が観れば、映画の撮り方だとすら気づいたかもしれない。

知らない人のために簡単にストーリーをいえば・・とある田舎の小学生高学年?くらいの夏休みの話で、打ち上げ花火は下から見るか横から見るかと話題になる。そんななか、主人公の少年が気になる少女が、親と折り合い悪く家をでるといいだして・・。というわけで、キモとなるのは少年と少女の淡い恋物語、らしい。らしい、というのは、まだそこまでもいっていない感じなんだよね。二人のたたずまいが。

ここで、データをひっくりかえしてみると、なんと少年役は山崎裕太。当時12歳、かな。少女は奥菜恵。当時14歳。同級生なんだけど、このくらいの年の子たちは、どうしたって女子のほうが大人びている。だから、実年齢とは関係なくこの感じはよくでていた。少年はまだやっぱり小学生男子で、自分より少し早く大人びていく少女がまぶしいのですよ。さて、少女・奥菜恵が家をでて都会にいくとうちあけた。このときの二人がむちゃくちゃいい。

古い記憶からシーンを再現してみよう。

〇××駅・ホーム。

   少女、そっと指先で口紅をさし、少年をふりかえる。

少女「ねえ・・あたし、大人に見えるかな」

少年「・・・!」

「大人」といったか「大学生」といったか忘れた。でもたしかこんな感じ。背伸びした少女がきれいなの。大人の女性の片鱗が見えかけてる。いっぽう山崎少年は、そんな同級生にはっとして、どぎまぎして何も答えられない。引き留めることもできない。この「・・!」がすごくよくでていた。

もうひとつ。ものすごく印象に残っているシーンがある。これは子どもの演技ではない。少女の母親が、娘を引きとめ怒るのね。そのときドキンとするほど鬼の形相をみせたのが、母親役の石井苗子。彼女はじつはこの、ほんの一瞬しかでてこない。でもあの表情だけで母親がどういう人か、これだけでわかる。しかも観る人の記憶に鮮烈に残っている。すごいわ~。

劇場版もあるようだけど、そちらは観てないので言及せず。でも、いまだにこうして再現できるほど覚えているというのは、若かったから・・じゃなくて! やっぱりいい映画だったからだろう。もうテレビドラマじゃなくて、映画といっちゃうよ。

自分がいい映画だなあと思う条件は、いくつかあって、そのひとつが、こうして「ひとつでもシーンをはっきりと覚えていること」がある。そのシーンは何度も何度も脳内で反芻されてしみ込んでいく。

もうひとつ、「未知の役者がすきになること」もあると思う。マイナー(失礼!)な映画や、外国の知らない役者さんばかり出ている映画で、観ているうちにだんだん「この人すきかも!」と思うようになったら、それはかなりいい映画だと思う。

余談だけれど、まえに南米チリの映画を見たときのこと。それは詐欺師がでてくる、だましだまされの話なのだけれど・・実は途中まで主人公がだれかすらわからなかった! なにしろ主人公の男性はわりと平凡な顔立ちで、現地では有名かもしれないが異国の自分には未知の役者さんだったから。おかげで誰がメインかさっぱりわからず、話がいっそう複雑になりおもしろくなった。もちろん最後には、その地味に思えた主人公がかっこよく見えたりするから、やっぱりいい映画なんだろう。タイトル? 忘れちゃったけど・・ごめん。

『打ち上げ花火、上から見るか下から見るか』いずれアニメも見よう。なんたって声が音楽がプロデューサーが・・は、おいといて、観よう。夏だもの。

今回もみんなのギャラリーから画像をお借りしました。Thanks.









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