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ショートショート:2人の灯り

ばあちゃんちの台所に灯りがついた。僕はいそいでジャンバーを羽織って、徒歩5秒のばあちゃんちに向かう。

「ばあちゃん、今日のご飯は?」
「親子丼ときんぴらごぼうにするよ。ひろちゃん、宿題は終わったの」
「ううん、これから」

ばあちゃんと僕ら家族は隣同士に住んでいる。僕の父さんと母さんは共働きで、帰ってくるのがいつも遅い。だから僕はばあちゃんちで毎日ご飯を食べる。ご飯を作るばあちゃんのそばで、宿題をするのも毎日のルーティンだ。台所が見えるところに椅子を運んで、テーブルの上にドリルを開いた。

「木曜日は体育だったね。今日は何したの」
「今日はね、体操。跳び箱した」

ばあちゃんはトントンとリズミカルに牛蒡を切りながら、僕は算数ドリルを解きながら、ぽつりぽつりと今日の話をする。お醤油のいい匂いがしてきて、お腹がそろそろぐうっとなりそうだ。

「ひろちゃん、そろそろできるから、お皿とお箸並べてちょうだい」
「うん、わかった」

僕は、ばあちゃんと僕のお皿とお箸をテーブルに運ぶ。ばあちゃんは、2人分のごはんをよそって、それから小さなお椀にも少しだけごはんをよそう。

「ひろちゃん、これ、じいちゃんの分」

僕はじいちゃんのお仏壇の前に、小さなお椀を置いた。それから、小さい蝋燭に火を灯す。

「ありがとう。じゃあ食べようか」
「「いただきます」」

じいちゃんがいなくなってから、ばあちゃんはすごく寂しそうだった。台所に灯りがつかない日が続いて、ばあちゃんもいなくなっちゃうんじゃないかと、僕は怖くなった。父さんと母さんもおんなじ気持ちだったようで、しばらくしてから僕はばあちゃんちでご飯を食べるようになった。ばあちゃんは、母さんみたいに、グラタンとかオムライスなんかは作らない。茶色くってお醤油味のおかずが多いけど、なんだか安心する味だった。

「ごちそうさまでした」
「ひろちゃん、みかんあるけど食べる?」
「うん、食べる」

ばあちゃんは、いつもちょっとしたデザートを用意してくれる。僕とばあちゃんは、横目でテレビのニュースを見ながら、一緒にみかんの皮を剥いた。気がつけば、じいちゃんのお仏壇の蝋燭はもう消えていた。そろそろ父さんと母さんが帰ってくるころだ。

「ばあちゃん、また明日」
「はい、また明日。おやすみね」

僕はゆっくりジャンバーを羽織る。玄関でばあちゃんに手を振って、徒歩5秒の、まだ真っ暗な家へと戻る。僕が玄関の灯をつけるまで、ばあちゃんは玄関の前で僕を見送ってくれた。玄関のドアを閉める前に、もう一度ばあちゃんに手を振った。

***

今日もばあちゃんちの台所に灯りがつく。今日のご飯はなんだろう。僕はいそいでジャンバーを羽織って、徒歩5秒のばあちゃんちに向かう。

(1,111字)

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微熱さんのショートショートを読んで、ピリカさんのグランプリに出そうと書いてみました。スマホで書いたので、文字数がちょっぴり不安だけど、多分大丈夫。

今年のお正月、僕はばあちゃんに会えなくて寂しかったので、ばあちゃんを題材にしてみました。1200字で表現するって難しいなぁ、でも、とっても楽しかったです。

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