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東京の東

東京の東に、住んでいた。

荒川区、最寄り駅は三ノ輪。古い商店街があって、路面電車が走っていて。自転車で走れば、浅草も上野も近い。住むにも、遊ぶにも、ちょうどいい場所。日暮里の繊維街を回るのも、谷根千まで歩くのも、楽しい。
23区内だけど、どこか都会らしくない、穏やかな空気が流れているのが好きだった。

スカイツリーがちょうど建設中のころだった。家からもだんだん高くなっていくさまが見える。たぶん、このへんの家ならだいたい見えると思うけど。

家も、古い家を選んだ。単純に家賃が安いのもあったけれど、街に似合うレトロさがよかった。キッチンの佇まいが決め手になった。

古い家は、窓が大きい。和室の、もともと障子窓だった間口の広い窓は、十分な光を取り込んでくれて気持ちがいい。窓の外には猫が昼寝する姿が見える。

当時の生活はとても楽しかった。周りに高層ビルしかない、中央区の寮に住んでいた妻は、東京の街をとても嫌っていたけど、引っ越してからはそんな様子も少し変わったように思う。

住む場所は、そのままその当時の記憶になる。良い街、良い家は、良い記憶を残してくれる。たくさんの人のそれらが積み重なって、その街は愛される。みんなその記憶を頼りに、その街を残したい、大切にしたいと思う。

それでも、少しずつ街の姿は変わっていく。久しぶりに訪れるこの街も、きっと変わっているんだろうな。
変わっていくもの、変わらないもの。それらが混ざり合った今の姿に、懐かしさと寂しさを感じながら、またぶらぶらと散歩したいな。


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