【後編】企画は、100円玉でつくる一生の思い出。糸井重里の考える企画とは「企画でメシを食っていく」特別イベントレポート

「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰の糸井重里さんをゲストに迎えて開催された「企画でメシを食っていく」の特別イベントのレポートです。

広告、作詞、文筆、ゲーム制作など多彩な分野で活躍している糸井さんに、コピーライターで「企画メシ」主宰、作詞家としても活動する阿部広太郎さんが「企画」にまつわる話を聞きました。

後編では、広告コピーと歌詞の違いや企画への向き合い方から、糸井さんの企画力を実感する展開に。「企画メシ」主宰の阿部さんが圧倒された糸井さんの企画とはー。

前編を未読の方は、こちらの記事からどうぞ。

作詞もコピーも同じ寒天だと思う

阿部:歌手の沢田研二さんの「TOKIO」も、最初から歌詞を書くというよりはアルバムのタイトルを名付ける話が転じていったんですよね。

糸井:「これからはコピーライターに歌のタイトルを考えさせて、それを作詞家に配ればいい」って考えた人がいたんですよ。すごいプロデューサーだと思います。木崎賢治さんっていう有名な方なんですけど、ふいに訪ねてきて、「次の沢田研二のアルバムタイトルを考えてください」って言うんです。曲名も10曲以上考える。いわばさっきの話で言う「耳で飛ぶゾウ」ですよ。

阿部:楽しいことをいっぱい考える感じですね。

糸井:たまたま違うロケでフランスに行ったとき、空港で東京を意味する「TOKIO」っていう文字を見て、「フランス語だとTOKIOっていうんだ。なんかいいなあ!」と思って。「東京」って書かれると、今で言えばなんか昭和の感じですよね。だけど「TOKIO」って言っちゃったら、「あゝ上野駅」の東京とは全然違うものに見えてくるぞって。それに僕自身が東京に思い入れがあったものですから。「よーし、これからは日本発、東京発で何かやるって時代が来るぞ。シンボルになるような歌を作ったらいいんじゃないかな」と思って「TOKIO」ってタイトルを付けた。沢田研二さん用に考えていたことじゃないんですね。

阿部:広告のコンセプトや言葉を考えるコピーライターとしての糸井さん、音楽における歌詞を考える作詞家としての糸井さんは、ちょっと違いますか?

糸井:とっても似ているとは思います。ぼくはよく夜中に寒天を作るんです。寒天って型に入れないと寒天として成立しないんですけど、ちょっと余った分をコップに入れておくとそれはそれでコップが型になって寒天になるんですよね。作詞もコピーも同じ寒天だと思うんです。「言いたいな」とか「すてきだな」と思う材料がないとだめなんだと思います。ただ、広告の時には「黒蜜があるんで、ぜひこういうのでお願いします」とか「うちは甘味屋さんなんで、ぜひあんみつ用の寒天で」っていうのがあります。歌詞の時には、寒天をコップに流し込んでいいんですよね。なおかつ、お皿に寒天を流し込むとピザの形の寒天ができるじゃないですか。それでもいいんです。作曲する人との組み合わせで、そこにイチゴを並べたい人がいたりあんこで絵を描きたい人がいたり。それはあんみつじゃなくてもいいわけです。すごく同じっていう方に目を向ければ「同じ寒天だよ」ってなるし、「ピザ型の寒天はもう全然違うものだよ」ってことにもなるし。そんなことじゃないかな。

「本当に必須かよ」というやり取りをしなきゃいけない

阿部:広告の方はいろんな制約や条件、オーダーがありますが、音楽の方はこうしたらもっと面白いんじゃないか?の掛け合いという印象があります。

糸井:いや、言うほど違わないんじゃないですか。広告に制約があるって、決まり文句みたいにみんな言い過ぎだと思うんです。その制約とは何ですか?っていうやり取りをたぶんしてないんですよ。代理店の人が「これは必須です」って言って持って来る仕事は「本当に必須かよ」ってやり取りをしなきゃいけないと思うんです。必須だと思い込んでいることについて話し合っているときに、次の何かが生まれることがあります。広告で制約だと思っていることは、実は分解したらだいぶ減るんですよ。作詞にも制約はあります。歌手が決まっていたら大制約ですよね。条件を元にしてものを考えると問題解決になってしまいます。面白みがなくなるんですよ。だから、歌詞をつくる時も広告をつくるときも、やっぱり寒天の中のおいしさみたいなみんなが喜ぶものが入っているかどうかなんです。

阿部:なるほど…!

糸井:歌詞とコピーは、おそらく褒めどころが違うんです。人が作った広告を見て「ここがすごい」っていうのあるじゃないですか。広告を見るとき、「うわぁ!これやられちゃったな」とか「かっこいい!」と思うコピーは、「よくくぐり抜けたな」って褒め方をしたい。歌詞だと、さりげなく見えて、「どうしてそんな歌詞作れるんだろう」っていうものがありますよね。例えば、オフコースの歌で「今なんていったの? 他のこと考えて君のことぼんやり見てた」って歌詞がある。そんなの書ける? 出だしから「今なんていったの?」って質問だよ(笑)。「さあ、歌っていただきましょう」ってマイク渡されて、「今なんていったの?」。さらに、「他のこと考えて君のことぼんやり見てた」だよ。なんでもなさの中にこんな愛の表現ができるかよってカラオケでも思うじゃない。その感心の仕方と広告の感心の仕方って違うので、どっちが簡単とか難しいとかじゃない。

自分に期待していないとさみしい

阿部:糸井さんは次にやることを決めるとき、自分を俯瞰して面白いかどうか考えるのか、それとも自分がうれしいことやたのしいことを選ぶのか、どちらで決めるんですか?

糸井:両方あるかもしれないですね。「おれならできる」って気持ちがなくなっちゃたら、たぶんさみしいんじゃないかなあ。例えば海外文学の本を棚から取って「面白そうだな、読もうかな」っていうとき、「おれは読める」と思って読み始めるわけですよ。それと結構似ていて、「それ面白そうだな、おれやってみようかな」っていうのは、手に取った本を読めるってことだと思うんです。それは楽しみでもあるし。みんな自分に期待してなさすぎると思う。ぼくはたぶんナルシストではないと思うんですけど、「お前できるよな」って気持ちはあるんですよ。

阿部:決めつけはよくないですよね。自分に未開の地があるんじゃないかって期待するってことですよね。

糸井:ふらふらとついて行っちゃうことだってあるしね。今日この場所にいるのも、ある企画で阿部さんと話す機会があって「なんかこの人の手伝いをした方がいいかな」って。ふらふらと。ところで、阿部さんが一番好きなことってなあに?

阿部:え、ぼくですか?

糸井:これをしているとたまらんっていう。すけべなことでもなんでもいいから(笑)

阿部:ううー。感謝されたり喜ばれたりするときですかね。「企画メシ」を続けてもう5年になるんですけど、最初は一番後ろの席に座っていた子が最終回で一番前に座ったんです。その人が別人のようになっていく姿を見たときにじんわりじんわりとうれしさが込み上げてきて。誰かが変わっていくことに立ち会いたくて、この場を続けているのかなと思います。

糸井:人が喜んでいる姿を見ているときが一番うれしいんですね。家に帰ってからもかみしめちゃったりして。

阿部:はい、にやにやしてます(笑)

糸井:そのためなら多少の寄り道も厭わないってなると、もっと面白くなるんじゃない? 阿部さんは、こういう(質問項目が書かれた)スライドを出しちゃうし、ここの人たちもそういうのを期待しているから、その話をしようと思いすぎなんじゃないかな。いいんだよ、もっとわがままで。

阿部:もっとわがままに…!

糸井:肩書きもこっち側に立っているっていう立場も全部抜きで、「おれはお前らが喜んでくれるだけでいいんだよ」ってなれば、ほんとに勝手なことができて、ほんと面白いぞ。

阿部:おおおお!

「今思いついた」がいっぱいあればあるほど面白い

糸井:「今思いついたんだけどさ」ってことがいっぱいあればあるほどその場は面白いから。「今思いついた」がどれだけあるかですよ。そうじゃないと「予定通りに進んだ」になっちゃうんだから。そこがたぶん一緒に旅をする人としてさ、面白いんじゃないの。ぼくは「今思いついたんだけどさ」ってことだらけだよ。それはなぜかっていうと、知ったこっちゃないからなんだよ。みんながどう思おうが(笑)。

阿部:ああ…!知ったこっちゃない…!

糸井:そのうち一個当たっていれば「よかった」って言われるんだよ。「これに沿ってなかったのがちょっと不満です」って言ったらその人は生徒として失格ですよ。

阿部:もっと面白いことにわがままに。今思いついた、言いたくてしょうがない!ってことですよね。

糸井:そうそう。昔さ、ぼくがまだこういう教室やっているときに、みんなに100円玉出してもらって「外に行ってどこかに捨てておいで」って言ったの。思いついたの、その時に。「お金を捨てるってしたことある人いる?」って言ったらいないんだよ、やっぱり。で、とにかく捨てておいでって言って。10分待ってるからって。でもね、そういうときにもだめな男っていてね。電話ボックスの返却口のところに入れてきて(笑)、捨てないんだよ。女の子の方が全部面白かった。「スカッとしました」って。歩道橋の上から投げたらあんまり飛ばなくて、トラックの荷台に落ちて「そのトラックどこに行くのかな」って思ったら千葉ナンバーだったんで「きっとわたしの100円は千葉に行くんです」とか、そういう話、聞きたくない?(笑)

阿部:うわあ、面白い!!聞きたいです!!

糸井:その実験はあんまり面白いから3回ぐらいやったんだけど、その都度面白かった。たぶん法律的にとか倫理的にとか言ったら悪いことだと思うよ。でも、自分の100円なんだから。「面白かったです!」っていう人には、その経験はものすごい財産だと思う。そういうことがたぶん一緒の時間を過ごすっていう授業であり遊びであるってことなんで。なんなら今度、この人たちのいないところで、自分で考えたかのようにやってみて(笑)。おれね、絶対ここだと海に投げる人いると思うんだよね。もうそれ考えただけでわくわくする(笑)。

会場:笑い

糸井:お金って捨てたら絶対だめなものじゃない。特に100円は10円と違うんだよね。捨てないんだよ。それを海に向かって投げたとき、一生覚えていると思うよ。

阿部:むちゃくちゃ面白い。すごい!!

糸井:そういうようなことなんだよ、企画って。

阿部:うわああああ!

会場:笑い

(以上で、レポートはおしまいです。お読みいただきありがとうございました!)

登壇者:糸井重里阿部広太郎
ライター:河波まり(企画メシ4期生・ほぼ日の塾5期生)
撮影:鈴木秀康

▼もっと糸井さんの言葉を読みたい!「キャリアハック」での特集記事は↓

▼「企画でメシを食っていく2019」スタートしました↓

以上です、お読みいただきありがとうございました!



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