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『学習する組織』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(4)第1章 p34~

 本論に入り、第1章では「学習する組織」の全体像が紹介される。

 本章でまず注目すべきは、まずディシプリンの定義や意味合いのところである。「学習する組織」は5つの「ディシプリン(習得すべき理論と手法の体系)」を組織に関わる人々が全員で習得することで成立するということだ。特定の人だけが習得しても学習する組織にはならない。

 同時に、これらのディシプリンは生涯をかけて習得されるものともされる。これは油断すると容易に失われてしまうというメッセージの裏返しであるともいえる。容易に失われてしまうのは、現代の社会がわれわれの精神をこれらのディシプリンとは相容れない「マネジメント体系」にどっぷりと浸からせてしまうからだともいえる(この議論について、より詳しくは「改訂版に寄せて」のNoteで扱っている)。

 こうした主張については、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにも当てはまると思う。単発のワークショップでも、その組織の存続と発展に有益な思考と対話の体験をもたらすが、時間と共に効果は落ちてしまう(※経験からの仮説であり未検証)。落ちないようにするには定期的に繰り返しかつ全体に行うことで、その組織の文化ともいえるレベルにまで定着させることができるはずだ。
 前回のNoteにも書いたが、ここでも、そのような取り組みを組織に受け入れてもらうまでのプロセスが問題となるであろう。

5つのディシプリンと第5のディシプリン

 つぎに、本章では今後も繰り返し出てくる5つのディシプリンの概要がさらっと紹介される。それは以下の通りである。括弧内は私がそれぞれのディシプリンを平易に(できているか?)表現したものだ。

  1. 自己マスタリー(全ては自分次第であると意識し志の実現に向けて努力する)

  2. メンタル・モデル(自分の思考(の限界)を自覚している)

  3. 共有ビジョン(皆が実現しようと思う理想を描く)

  4. チーム学習(お互いの声を尊重し取り入れる対話を行う)

  5. システム思考(全てのものごとをつなげて考える)

 このうち、特別な役割をもつのが原書のタイトルにもなっている第5のディシプリンであるシステム思考である。
 全てのものごとをつなぎ合わせるという意味には、私たちの周囲の要素と私たち自身が含まれるのはもちろん、第1から第4のディシプリンも含まれる。つまり、5つのディシプリンが相互に連動しているということも理解し、その観点から今まさに起こっていることを把握し学んでいかなければならないということだ。
 それは、いろいろと主体的に行動しながらも同時に、自分自身とチーム・組織の思考や行動に対してメタな視点を持ち続ける(外から観察する視点)ということでもある。それは、その人の態度や世界を見る視点を根こそぎ変えていくことでもあるので、メタノイア(心の転換)という現象そのものであるということだ。
 こうして文字で書くだけなら非常に簡単だが、この実践には様々な困難が伴うことは容易に想像できる。詳しくは次章以降で展開されていくだろう。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドと5つのディシプリン

 この5つのディシプリンが連動しているという観点で、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップをファシリテーションすると何が起こるだろうか。「学習する組織」の理論をそのまま受け取れば、ワークショップの中で学習する組織が立ち上がるということになるだろう。

 より具体的に当てはめていけば、第1の自己マスタリー、第2のメンタル・モデル、第4のチーム学習は、ワークショップ進行上のLSPのエチケットに近いものだといえる。それぞれ、自己マスタリーについては、自分のためと思ってシリアスにワークショップに向かいあうこと、メンタルモデルについては、作ったモデルを見ることは自分自身の考えを外から見ることでもあること、チーム学習については、他の人のモデルを尊重しそこから学べる点を見つけること、となるだろう。これらはワークショップのベースとなるマインドセットであるだけに、スキルビルディングなどの準備演習でもっと意識させたい。

 第3の共有ビジョンは、扱う「問い」次第ではあるがワークの中でこれを積極的に扱うことには大きな価値があるだろう。組織のアスピレーション・モデルに収束させることは常にワークショップ・デザインの選択肢に入れておきたい。

 そして第5のシステム思考については、ワークで作られたモデルの相互のつながりを意識させるファシリテーションを展開する(AT3をうまくリードすることができることが重要)とともに、ワークショップ全体を通じて体験してきたことが今後の自分達の生活や仕事にどんな教訓をもたらしてくれるかを考えさせる時間をとるべきだということも教えてくれる。

 第1〜第4のディシプリンを連動させる要としての第5のシステム思考という側面については、上記で述べた注意すべき点をファシリテートするなかで全て実現させるということになるだろう。いずれの点も、他のディシプリンの効果を引き上げるとともに、疎かになれば他のディシプリンの効果を損ねるものであることは、少し実践経験を積んだLSPメソッドのファシリテーターなら感じることができるだろう。
 こうして考えていくと、LSPメソッドを活用したワークショップは「学習する組織」づくりと密接に関係している(そのものである)と強く確信させられる。

 今回はここまで。


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