THE GAZETTEを読む(37)2019年12月号 顧客体験に魔法をかける
本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎(LSP)のファシリテーター・トレーニング修了者向けに書いている。
この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。
LSPメソッドを調査に使い、論文へと結びつける手法は、同じ研究者だけでなく、企画職やマーケティング職の人にも大変参考になるだろう。モデルを作らせた後に、モデル記録そのものを分析材料に使う方法もあるが、今回のようにお互いにモデルに質問や意見交換してまとめさせたものを、仮説の構築に使っていくという方法も有力だ。この時に、モデルを作らせる問いがやはり大事で「自分が体験した魔法のような顧客体験」という設定は素晴らしい。
合理的なアプローチでは不十分
上記では、Thomke教授がストーリーの中で気づいた内容について簡潔にまとめられている。それは行動には感情が絡んでいるということだ。後半に書かれているように、それまでの研究が感情のことを全く考えてこなかったわけではないが、イメージとしては合理性が核にあって、その外に感情があるという位置づけだった(今でも経済や経営学の入門書はそのような人間モデルである)。
これに関して、横のコラムで写真とコメントが次のように掲載されている。
LSPモデルという表現の方法を使ってみると、感情と行動がどう関係しているかが簡明に視覚化されるとともに、合理性よりも感情の方が行動の中心であることがわかる。指摘されてみれば、私の過去のワークでも、合理的な思考がそもそもモデルの表現に出てきたことはあまりない。LSPモデルで感情が優先的に表現される理由(仮説)については、横のコラムに写真と共に次のようにコメントされている。
手を動かしてモデルを作るときには、感情に基づいた知識が喚起されやすいという傾向があることをなるほどと思う一方、逆に、LSPモデルの中で合理性はどう現れているのかという疑問が出てきた人もいるかもしれない。今の私には、ここでその問いについて核心をついた答えを示すことはできないが、いずれどこかで論じてみたい。
「感情の魔法体験」を創り出す
Thomke教授が導き出した5つの法則は非常に興味深い。
1つめの「五感を刺激する」では、論文ではフェラーリの例が挙げられている。性能は他の競合メーカーに劣るものの、エンジン音、シートの座り心地や運転席の視点、運転したときの感覚など細部にまでこだわりがあって生まれているといえる。
2つめの「失望を喜びに変える」は、ホテルでの対応の話が紹介されている。旅行客が彼らのミスで予約ができてなかったことが現地で発覚したときの振る舞いが印象に残り、それがポジティブであればあるほど印象に残ることになる。まさにトラブルはチャンスなのである。
3つめの「驚かそうと計画する」では、ソニーの例がでている。以前から不満としてあがっていたテレビの配線ケーブルがあるバージョンから突然目立たないようにデザイン変更がなされ、顧客の評価が大きくあがったということである。どの点で驚かせるか、を狙った商品開発やサービス設計ができるかどうかが鍵であるということだ。
4つめの「説得力のあるストーリーを語る」は製品やサービスのこだわりや歴史を語ることで人々の感情に訴えるものである。ドイツの時計ブランドメーカーのA.ランゲ&ゾーネが紹介されている。メーカーの歴史だけでなく人体のメタファーも使いながら人々と製品の間を演出していることが指摘されてきた。
5つめの「意図を持って実験を行う」は上記4つとは少し異なる。数多くの実験を行う中でこそ、感情を揺り動かす顧客体験を提供する術が学べるという指摘である。この内容が次のThomke教授のテーマになっており、ここでも紹介されている「Experimentation Works」はまさにそれを扱ったものだ。この本については日本語訳が2021年に出されている。
改めて、1つめから4つめについてはワークショップの問いに転化できそうだ。感情を扱うので、LSPを使うのも積極的に検討してもよいだろう。
「私たちの商品(サービス)は顧客の五感にどう訴えかけているか」
「私たちのビジネスで起こりうる顧客が失望する場面とは」→「それを喜びにどう転化できるか」
「既存顧客が興奮する商品やサービスの改良点とは」
「顧客にまだ伝えられていない私たちの商品やサービスに対するこだわりや思いとは」
上記の問いは、あまり練られてはいないが、適切な場でうまくアレンジして活用してもらえれば幸いである。
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