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リベレーティング・ストラクチャーとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド(24)デザイン・ストーリーボード〜上級バージョン

 今回取り上げるのは「デザイン・ストーリーボード(Design StoryBoards)」というリベレーティング・ストラクチャー(Liberating Structures: LS)である。

 リベレーティング・ストラクチャーとは?という方はまず、こちらのNoteを読んでいただければと思います。

 この「デザイン・ストーリーボード」というLSの解説には「基本」と「上級」のバージョンが用意されている。前回の記事(以下にリンク)では「基本」のバージョンを扱ったので今回は「上級」を取り上げたい。

この方法で何ができるか?

 変革の取り組みやイノベーションプロジェクトを失敗に導く罠の多くを回避することができます:全体的かつ各段階における明確な共通目的の欠如、不適切な関与と参加、不可欠であるにもかかわらず取り入れられない声、不満を抱く参加者と参加しない者、変化に対する抵抗、集団思考、不釣り合いに小さいインパクトのためにする悪夢のような実行などです。包括的なデザインは、一連の基本的なデザインを一定期間にわたって連動させたものです。デザインは、プロジェクトの規模に応じて、数日、数週間、数ヶ月、時には数年にわたって反復的に展開されます。デザインの小さなサイクルは大きなサイクルの中で運用され、取り組みの進行に応じてスケールアップとスケールアウトが行われます。大規模なプロジェクトでは、設計グループの人数を増やし、多様性を持たせることが容易にできます。(斬新なアプローチの源となることが多いので、珍しい参加者も含めて)参加者を慎重に、かつ臨機応変に選ぶことで、変革やイノベーションの取り組みに紆余曲折を反映させることができます。

”LS Menu 21. Design StoryBoards”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「基本バージョン」が1日のワークショップのデザインを想定していたのに対し、「上級バージョン」では取り組み期間が長く、繰り返しも想定したプログラムを考えるというものになっている。
 なお文中に出てくる「スケールアップ」は、取り組みの規模を大きくするイメージで、「スケールアウト」は同じ取り組みをいくつも行うというイメージで捉えるとわかりやすいかと思われる。

5つの構造要素

1.始め方
・目的を達成するために参加者がどのように相互作用するかについて、見える化した指示を含む詳細な計画を作成するために、最初のデザインチームを招待する。
2.空間の作り方と必要な道具
・紙が貼られた大きく開かれた壁またはフリップチャート。
・50×100mmのポストイットおよび/またはリベレーティング・ストラクチャーのカードセット。
・白紙のストーリーボードの雛形。
3.参加の仕方
・プロジェクトのデザインとプランニングに関わったデザインチームの全員に、平等に貢献する機会があります。
4.グループ編成の方法
・以下の各ステップにおいて、1-2-Allまたは1-Allを高速サイクルで行う。
5.ステップと時間配分
・関係者全員を含むデザインチームの構成を決定し、チームを編成する(構成は作業の進捗に応じて臨機応変に調整することが可能)。1時間~3時間。
・デザインチームは、取り組みの全体的な目的を明確にする(必要に応じて「9つのなぜ」または、より精巧に作られた仕組みを使用する)。1時間〜6時間
・変革または改善を望む現在の製品、サービス、またはアプローチを人々が使用するときに何が起こるかを詳細に記述する。この現在のユーザー体験を正確に記述するためのデータを収集するために、「シンプル・エスノグラフィー」と呼ばれるリベレーティング・ストラクチャーなどを使用する必要があるかもしれません。6時間〜数日〜数週間。
・ユーザーの体験に基づき、現在の製品、サービス、またはアプローチが、述べられた目的を達成する上でどのように成功し、失敗しているかを評価する。3時間〜数日。
・必要であれば、目的の記述を再検討し、強化する。1時間〜6時間
・誰が中核となるデザイングループに参加する必要があるか、また誰が審査や実地テストを支援するために補助的に参加する必要があるかを再検討し、決定する。1時間〜3時間
・目的を達成するための仕組み(従来型とリベーティング・ストラクチャー型の両方)についてブレイン・ストーミングを行い、その概要を説明する。3時間〜数日。
・概要を、独立してデザインし機能させることができるステップまたは固まりに分割する(最初から大きくデザインをまとめようとしないでください)。1時間〜6時間。
・目的達成に適した小さな仕組みを選択し、1つのステップを決定する。その1つに加えて代案も選択する。これを繰り返し、各ステップで継続する。1時間~6時間
・デザインのテストや吟味が可能かどうか、または望ましいかどうかを決定する。一連のセットでやさまざまな構成でのテストを検討する。1時間〜6時間
・最初のステップをシミュレーションまたはフィールド環境で実施する。より過酷な条件下での試験を継続する。
・デザインの最初のステップとそれに続くステップを評価する。
・デザインのサイクルを繰り返し、次のステップのデザインを洗練させる、など。

”LS Menu 21. Design StoryBoards”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 上記を見る限り、「基本バージョン」に比べ「上級バージョン」が力を入れている点は大きく3つある。

 ひとつ目は、テーマに関わる既存の製品やサービスを受けたユーザーの体験を調べることである。
 これに関して「シンプル・エスノグラフィー」という方法が紹介されているが、これもLSのひとつである。またの機会に紹介したい。

 ふたつ目には、リベレーティング・ストラクチャー以外の方法も必要に応じて取り込むことである。長い期間を想定しているため、状況に応じて従来型の進め方(インプット重視のプレゼンテーションなど)も使う場面が必要になるということであろう。デザインをする際には、そのような柔軟性も必要になりそうだ。

 みっつ目には、必要なステップを複数の段階に細かく分けた上で、それらが効果的かどうか、テストをして検証するということである。長い期間であることを考えると、本格的に始まってから「うまくいかない」となるわけにはいかないということであろう。

 なお、「4.グループ編成の方法」にでてくる「1-2-All」「1-All」はリベレーティング・ストラクチャー(LS)のひとつである「1-2-4-ALL」の改変バージョンである。1-2-4-ALLについては以下のNoteで紹介している。

 また、「5.ステップと時間配分」にでてくる「9つのなぜ」もLSである。こちらについては以下の記事で紹介している。

 これらの他にも、一通り主要なLSについて知っていないと、理想的なストーリーボードを組み上げるのは難しい点は「基本バージョン」と変わらない。

実施にあたっての追記事項

 ここでは「5つの構造要素」以外の項目を紹介する。

なぜ その目的なのか?
・現在の現実から脱却することで、重要かつ永続的な前進を遂げる。
・新しい行動が具体化し、広まるのに十分な時間を提供し、他の人が達成可能だと信じていることを拡大する。
・「ストーリーボードのデザイン-基本バージョン」にある「なぜ その目的なのか」も参照してください。

”LS Menu 21. Design StoryBoards”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 「基本バージョン」とほとんど変わらないが、より大きなインパクトを個人や組織に与えることが目的ということである。

コツとワナ
・ストーリーボードをデザインし、それを評価し、調整する時間を惜しんではならない。
・中心的なデザインチームを作り、他のメンバーにも門戸を開いておく。
・ユーザーを含めることを忘れないでください。
・デザインを広く共有する。
・デザインのある要素が目的を達成できない場合、代案(または代案の代案)に目を向けることです。
・地に足をつけて(ユーザー経験のリサーチに基づく)大きな成果を狙う。
・アイコンやスケッチを使って、すばやく共通の理解を得る。

”LS Menu 21. Design StoryBoards”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 上級バージョンにはたくさんの時間をかけなければならないが、「必要な時間をケチらない」ことは「基本バージョン」と変わらない。

 また、当初の狙い通りに行かなくなる可能性も長丁場だと高まるので、事前に用意していた代案も念入りに用意しておくというのも重要だ。

繰り返し方とバリエーション
・ユーザーの体験を調査することの代わりに、ユーザーにストーリーボードのデザインに参加してもらい、製品やサービスでの体験を向上させる。
・イラストレーターや漫画家を探して、作業をドラマチックに演出する。

”LS Menu 21. Design StoryBoards”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 イラストなどの視覚化の力を借りることで、ユーザー体験の理解やアイデアのテストなども、より効果的に行えるといえるだろう。

事例
・方針転換時の情報交換と責任分担の再設計のために。
・製品中心から顧客中心への市場戦略への転換に。
・現場での実践に向けた教育方法の見直し。
・第3部「現場からの声」の「ビジネスの転換」を読んでください。アリソン・ジョスリンの経営陣は、「デザイン・ストーリーボード」を用いて戦略議論を練り上げ、プロダクトマネージャーや営業担当者向けにリベレーティング・ストラクチャーの「基礎トレーニング」を立ち上げました。
・「並べただけからストーリーボードへ」の例をご覧ください。

”LS Menu 21. Design StoryBoards”より。DeepLで翻訳し一部修正したもの。

 最後の「並べただけからストーリーボードへ」は、以下のページで紹介されている例のことだと思われる(直接的なリンクは元のページに掲載されていないが、サイト内検索で最も近かった)。
 英語で書かれているが、翻訳機能のあるブラウザを使えば大意はつかめるだろう。LSを単に並べるのではなく、それぞれの目的と役割をしっかりと認識し、お互いの配置を工夫することで大きな成果をあげられるのである。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとの関係

 より大きなプログラムをデザインする時に、事前にその対象となる人の経験をしっかりと調査した上で行うことが大事であることは、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの世界でも全く同じであるといえる。

 その一方で、プログラムを考えるための参考となる、あることに関する人々の経験や記憶を整理して形にして引き出すということそれ自体をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは得意としている。モデルを作ってもらった上で、そのモデルについて語ってもらうことで、言葉のみでインタビューするよりもより多くのことを引き出せる可能性があるのである。
 そうして経験や記憶を引き出したのちに、改めて目的を定め、その達成のためのプログラムの中でも、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使うことができる。レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで引き出すのは、実際のところモデルを作った人の思いや考えなので、調査段階(考えていることを引き出す)にも解決段階(次に向けて内省し考えさせる)にも適用することができるのである。

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