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smashing! なかったことにしたくない

雲母の元後見人でフリー弁護士・白河夏己。彼の大学時代からの同業の友人達と時々イレギュラーの「白河推し」数人で構成される「白河のテーソーを護衛する」部。彼の親友と言い張る猿渡一郎を筆頭に、自称親友の二人目は虎渡二郎、そんな二人を生温かい目で見守る馬渡三郎が主メンバー。身長は全員180超え。長身痩躯、和風顔メガネ男子。モブ(にしか見えない)三人組は弁護士。移動するのも三人揃って。曲がり角なんかで出くわした者は、三つ子かと思った、そう言って十中八九すごい驚く。彼らは今日も馴染みの居酒屋で、ここにいない「白河夏己」について語り合っている最中。

「聞いた?友達出来たってナッチがゆってたんだけど」
「雲母ハル君の知り合い?そんなふうに言ってたな確か」

ついに来たか、ナッチ護衛部参謀・馬渡三郎は正直そう思った。大学の頃から俺らは「ナッチ」白河夏己のいわば親衛隊だった。時間の許す限り側に控え、他の者が入り込めないようにそれとなくガードを固める。それでもツメは甘いため、白河の彼氏やなんとかフレンド等、阻止できなかった案件も多々あった。いやそれよりも。

白河の幸せに綻ぶ顔が、猿渡・虎渡・馬渡三人にとって何よりのご褒美だからだ。

旬のトラフグの白子を柚子ポン酢で味わいながら、馬渡はいつものように熱燗をアツアツで注文し、半ばヤケドする勢いで口にする。これは白河の好む温度だからだ。うんと熱いかうんと冷たいか。極端な選択だがちょっとでも白河の気持ちを理解したい、そう思うが故に無意識に馬渡は白河と同じものを選んでいた。

「ハルくんのご友人なら安心だな。なんたってナッチはハルくんが一番なんだからな」
「(息子としてはだけどな)」

その雲母と連絡を取るのに会った際、馬渡は耳を疑った。自分たちの預かり知らぬところでその『設楽くん』と会い、飯を一緒し、普段は行かないようなカラオケやファストフードに立ち寄ったりするらしい。雲母の様子もてんで楽しそう。先生と設楽くんのお兄さんとても仲がいいんですよ、などと楽しさが高じてか毎回うっとりしてんの何でだろう。

白河もなんだかんだ言って自分らに気を遣ってくれているのか、人と会うからと教えてくれたり、ナントカさんが是非って言ってるんだが、などと細かに報告してくれる。それでも白河からは何も言ってこない。「設楽くんのお兄さん」に至っては。本当にただの友人なのか、はたまた。

「明日あたりナッチに連絡して、花見の算段をつけようと思うんだが」
「いいねえ、俺さプライベートガーデンでナッチに膝枕してもらいたい」
「恐れ多いことを言うんじゃない!そんなことでもされたら俺は昇天するしかないだろう!」

その昔白河に彼氏がいた頃のことを唐突に思い出す。そういえばあの彼氏は健在だろうか。雲母の父が身罷った頃に二人が別れたのを覚えている。あれから白河に、浮いた話は一度もなかった。自分にはその理由がどうしても聞けなかった。

猿渡と虎渡はあんなふうにケンカ腰にはなるが、この状況を楽しんでいるのだ。無理のあるイーヴン。どうやっても白河に辿り着けない、その実辿り着きたくない。そこから一歩歩み寄るか、踏み止まるか。ほんの数センチの差が、人生を大きく左右する。元々は、嫌われたくない、そんな防衛本能が先に立ってこうなったのだろう。

白河自らに【大切なみなさんへのお知らせ】などと不吉なワードを投下される前に、行動を起こしてみてはどうだろう。いつも喉まで出かかって言えない提案を今日も飲み込んで。猿渡と虎渡を横目にこっそり白河にメールし、いつものようにサシで愚痴を聞いてもらう。それが今のナッチ護衛部参謀・馬渡三郎にとって一番のご褒美なのだ。


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